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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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マリアに向ける言葉


 主要二カ国の来賓の為、今宵パーティーが開かれる。その前にエリゼはそれぞれの国と国交を成立させた。


 パーティーまでの間少し時間がある。エリゼは着替えるために一度部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。

 その時、花瓶に入れたオリーブの枝を運んでいる使用人の姿を見た。

 

「待て、そのオリーブはどうしたのだ?」


 エリゼはそのオリーブを見つめながら使用人を呼び止め聞いた。いつもは華やかな花を運んでいる使用人がオリーブの枝を運んでいる姿に違和感を感じたのだ。その違和感には言いようのない期待も込められている。


「はい、門番が皇帝に渡してくれという女から受け取ったと城に持って参りました。誰かわからない贈り物ですが、帝国の紋章の樹木ですからお部屋に飾ろうと……」


 エリゼはその言葉に息が止まる。そんなことをする人間は一人しかない。確信に近い気持ちがエリゼの心を大きく揺さぶる

 

「その女はどこに!?」

 エリゼは抑えきれない感情を表に出すように使用人に詰め寄り言った。


「あわ、わかりません!!門番に聞けば……」


 使用人の言葉を聞いたエリゼはすぐに身を翻し、長い廊下を走り、エントランスを横切り、長い階段をおり城の正門へを駆け抜けた。執事のレオネも慌ててエリゼを追ってゆく。

 

「ハアハア、おい!オリーブの枝を持ってきた女はどこに行った?どんな人物だった?いつだ!?すぐに答えろ」

 門番は突然現れたエリゼに腰を抜かした。がエリゼは座り込んだ門番の襟を掴み早く答えろと揺さぶる。門番はパニックのなりながらもエリゼの問いに答える。

 

「ああ、えっと、女は、髪が短い女で……」

「いつ?」

「チェ、チェルラ王国の方々がいらっしゃった後、……」

「どこに行った!?」

「歩いて、街の方に……」


 

 エリゼは門番を離し、そのまま街に出て行こうとした。

「エリゼ様!!なりません!これからパーティーが始まります。別のものに行かせますから!!」

エリゼに追いついたレオネは必死でエリゼを止める。エリゼはそれでもレオネを振り払い出ようとした。


「エリゼ様!!マリア様はエリゼ様を見ておいでです!エリゼ様にはエリゼ様のやり方があるはず、きっと今探されてもマリア様は出てこないと思います!!それならエリゼ様にしか出来ない伝え方で感謝をお伝えくださいませ!!」

エリゼはその言葉に我に返った。

 

(マリアが近くにいた……マリアが俺を見てくれていた……それならば、俺は俺のやり方で……)

 

 エリゼは城に戻りパーティーの前に帝国の国民に向けて感謝の演説をすると突然発表した。

 場所は城からほど近い帝国広場だ。


 帝国広場には皇帝が広場で行われる行事を観戦する為に建てられた塔がある。そこで演説を行うと急遽決めエリゼはマリアがくれたオリーブの枝をひと枝切り胸に挿して帝国広場に向かった。


 エリゼの突然の発表に城の中は大騒動になったが、エリゼは時間には戻ると言って出ていってしまった。


 一方街では帝国広場に皇帝が現れると聞きつけた人々が我先にと、帝国広場を目指し集まり出した。大勢の人で帝国広場はごった返し大騒ぎになっているが国民は喜んでいる。エリゼは常に国民を大切にしてくれる皇帝なのだ。


 エリゼは多くの人が集まる広場を見つめながら一刻も早く自分の想いをマリアに届けたいと国民の前に姿を現した。


「エリゼ皇帝万歳!!」

「エテル帝国万歳!!」

 地響きを起こすような勢いでエリゼを賞賛する声が上がる。エリゼはその声に片手を上げてそれに答え、穏やかな口調で語り始めた。


「皆の力に助けられて俺は今ここに居る。本当にありがとう。今日は二カ国の賓客がこの帝国に来ている。このエテル帝国と国交を結ぶ為だ。俺は自由な世界を目指している。国民が笑って生活ができるような世界、自分の大切な人が隣で笑い続けてくれるそんな世界を作りたい」


 エリゼはそう言いながらマリアのくれたオリーブを手にし、それを額に当てて目を閉じた。


「そしてその為に俺はまだやらなければならないことがある。それが終わったら……美しい夜明けを一緒に見よう」

 その声に国民は歓声をあげる。エリゼは目を細め国民達を見つめ首からネックレスを取り出してキスをした。


 こうしてエリゼの演説は終わった。


 

 マリアは人々に混じりながらエリゼの姿を見て大粒の涙を流し始めた。

皇帝になったエリゼは堂々とし輝いている。手の届かな人になったエリゼが、マリアが送ったオリーブの枝を胸にさし演説をしたのだ。マリアは口元に手を当てて震え始める。

(信じられない……)

 

 マリアはそのまましゃがみ込み泣き崩れた。エリゼの姿が目に焼き付いている。


(嘘でしょ?エリゼ様、私を、私に今の言葉を……私に向けて言ってくれたの?)

 

 マリアは震える手で涙を拭う。なぜ?どうして?そんな疑問が浮かびながらも、エリゼの言葉に心が震え、喜びが目の前の景色を美しく彩る。世界はこんなに美しかったのだとマリアは改めて思えるほどの喜びをエリゼからもらったのだ。

 エリゼはマリアを忘れていない。それどころかマリアを大切に思っていてくれた。

(あれは私に言った言葉だと信じることが出来る)

 マリアは嗚咽を堪えながら空を見上げる。

(どうしてあなたはこんな私を思ってくれるの?皇帝になったのに、こんなちっぽけなマリアをあなたは愛してくれるのですか?)


 


 一方国民は大騒ぎをした。皇帝が世界を統一するかもしれない。自由な世界を作るという言葉は世界を統一しなければ実現できない。そんな希望が国民の心に広がる。

「エリゼ皇帝バンザイ!!」

「我々の皇帝は世界一だ!!」

 エリゼは興奮冷めやらぬ国民達に揉みくちゃにされながら城に戻って行った。

 

 エリゼば城に戻る途中、馬車の中から空を見上げマリアのことを思った。

(マリア必ずお前を探し出す。どうかこの言葉がお前に届く事を祈っている)


  *


「エリゼ突然国民に演説を始めたのは驚いたぞ、っていうか、お前ここんとこずっと突然が多すぎて、驚かなくなった感もあるな」


 パーティーが始まりクロードがエリゼに話しかけてきた。


「ああ、色々あってな」


 エリゼは遠くを見つめながら言った。クロードはエリゼの胸元のオリーブに気がついた。

(オリーブ……ソフィ様が言ってた事……)


「エリゼ、そのオリーブは?帝国の紋章にもなってるが、お前オリーブ好きだったのか?」

 クロードは何気なくエリゼに質問する。


「……ああ、好きになったんだ」

 エリゼは短く答える。

「あ、そういえばお前、金のネックレスしてるよな、珍しいな。それもオリーブか?」

「クロード、何か聞きたいことがあるのか?」


 エリゼはクロードを見た。クロードはその言葉に一瞬戸惑ったが、正直に言った。


「ソフィ様が、エリゼは装飾品が嫌いなのにオリーブの葉がモチーフの金のネックレスをしていたと言ってな」


 クロードはエリゼの胸元のオリーブを見つめた。


「……いずれ、話すよ」

 エリゼはクロードの肩を叩いて去って行った。




「エリゼ様」

 ソフィがエリゼに声をかけた。エリゼはソフィに微笑みかける。

「ソフィ楽しんでいるか?」

「はい、エリゼ様。あの、少し話をしたいのですが」

 ソフィはそう言ってエリゼを見つめる。エリゼもソフィと話したいと思っていた。エリゼは頷きソフィをエスコートし、貴賓室に入った。ソフィにソファーを勧め向いにエリゼも座った。

 

「ソフィ、話とは?」

 エリゼはソフィに聞いた。エリゼも話したいことがある。だが、ソフィの気持ちを知ってからだとまずはソフィに聞いた。


「エリゼ様、エリゼ様は私がジュスタ王国の女王として一人で立てるようになることが、エリゼ様の望みでしょうか?」

 ソフィは穏やかな口調でエリゼに問いかける。ソフィは王族だ。それは誰が望んだからそうするではなく、それが責務だとソフィは気がつかない。

「ソフィ、そうだよ。ソフィは生まれながらにその資格がある人間だ。そうならなければいけないのだ」

 エリゼは諭すような口調でソフィに言う。

「エリゼ様、私は望んでいません。私はただエリゼ様がいればそれだけで幸せなのです」

 ソフィはハンカチを握り泣き出した。それを見たエリゼは厳しい表情を浮かべる。最初こそソフィを救うためエリゼはマリアを替え玉にし、ソフィの手を取ろうとした。だが、次第にそれは違うと気がつき始めた。水の日の密会の中でも何度も話し続けたことでもある。ソフィが王族として立たなければ意味がないと。

 

「ソフィ、前にも話したが、それはソフィだけの幸せだ。ソフィの周りの人間は、ソフィを女王と信じている国民に対し、ソフィはそれで良いと思うのか?」


「エリゼ様、私の周りの人達は私の幸せだけを願ってくれていると思います。私がエリゼ様のお側にいる事を同じように望んで下さっているはず。私はそう信じています」

 ソフィは涙をハンカチで拭いながらエリゼを見つめ言った。

 

「……そうか、では国を治めることを放棄した場合、ジュスタ王国はどうなるのだ?」

 エリゼはソフィを真っ直ぐに見つめながら言った。


「エリゼ様が治めて下されば良いのです」

 ソフィもエリゼを見つめ言った。

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