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ソフィの罪


 ソファーに腰をかけると、どっと疲れに襲われた。

この部屋に軟禁されたのはお昼過ぎ、今は夕方近くだ。

 マリアは立ち上がり窓辺に移動した。この部屋は花ひとつ飾られていない殺風景な部屋だが、ベランダがある。それだけで素敵に見える。

そもそも元の世界の小さなアパートよりも広くて綺麗だ。


 マリアはそのままベランダに出た。ベランダの向こうには大きな庭園が見える。秩序ある庭園の風景を見下ろすと見慣れないその風景に心臓が冷たくなるような感覚を覚える。見慣れたビル群はどこにも見当たらない。都会の喧騒もなく静かでどこか張り詰めた空気を感じた。

(異世界に来てしまった)

 マリアは改めてそんなことを感じていた。

 

 マリアのいる部屋は三階にあり脱出はできない。そして、庭園からこのベランダは丸見えだと気がついた。このラフな格好は流石にまずいと慌てて室内に戻る。

「着替えたい」

 そう呟きながら部屋に備え付けてあるクローゼットを開く。様々なドレスがかけてあるがふと紺色の地味なワンピースが目に付いた。

 「これ、いいんじゃない?」

 マリアはそのワンピースを身につけた。少し地味だが、真面目そうに見えるそのワンピースはどこか可愛らしくもある。そして何よりマリアの色白の肌に透明感を与えピンクの髪をより一層際立たせた。

「この世界にこんなワンピースもあるのね」

 マリアは鏡の前に立ち自分の姿を見つめ思った。

 (この紺色のワンピースが一番私らしい)

 

ガチャガチャ

 突然部屋の鍵が開けられる音がし、マリアは慌ててウィッグを被り姫らしくソファーに腰掛けドアを見た。ドアが開き部屋に入ってきたのは反乱軍のトップエリゼだ。

 

(うわー、カッコいい。この人本当に綺麗な顔している)

 エリゼは薄いベージュブラウンの髪を後ろに撫で付けそのグリーンの瞳はマリアの姿を捕らえ一瞬目を細める。

(わっ!目が合った!)

 マリアはそのグリーンの瞳の美しさに魅せられた。深い森を思わせるようなその瞳は思慮深さや知的な光がある。エリゼのことは何一つわからないが、マリアはその瞳が放つ光に強く惹かれた。

 

 エリゼはそのまままっすぐにマリアの方に近づく。マリアはエリゼから目が離せずエリゼを見つめ続けている。目の前に立ったエリゼは細身の体にピタッとした黒のシャツとパンツ、ロングブーツを履いていた。元の世界だったら芸能人かモデルのようなかっこよさだ。


「ソフィ、お前、なぜメイドの服を来ている?」

 エリゼはマリアを見て少し驚いたような表情を浮かべた。


(メイド?え!?これメイドの服なの?どうしよう、どう答えたらいいのかわからない)

 マリアはそう考えながらも姫らしく堂々とした態度を保つことにし、口を開いた。

「いけませんか?」

 エリゼはその言葉に目を見開く。だが、その表情は飄々としていた。

「……ソフィ、お前はまだ姫だ。明日から王族の悪事を追求する裁判が始まる。その結果によりお前がどうなるのか決まるのだ。だからまだ姫としてドレスを着用して良い」

 エリゼは淡々と言った。

だが、マリアはその言葉を聞き頭の中が真っ白になる。


(裁判?なにそれ!?)

 聞きたいことは山のようにある、けれど怪しまれぬよう心の動揺を押さえた。聞きたいことは何気なく聞いた方が良いのだ。マリアは息を飲み小さな声で呟いた。

 「……裁判?」

 エリゼはマリアの言葉に頷き言った。

「ソフィ姫、あなたは最後の王族としてその罪を問われる。その為の裁判だ」

 マリアは目を見開き両手を握りしめる。

(王族の罪ってどんな罪?私は関係ないのに!!)

 叫びたい気持ちを堪えマリアは言った。

「……罪、ですか?」 

「ちょっとエリゼ、まだ話しているの?」

 ドアが開きサンドラが入ってきた。サンドラは茶色の髪をポニーテールに結び可愛らしいドレスに着替えていた。先ほどまで豪快に剣をふるっていたとは思えない可憐な姿だ。


 サンドラはソファーに腰掛けているマリアを見て突然笑い出した。

「うふふ、ソフィ、メイドの服がとってもお似合いね」

 マリアはサンドラの小馬鹿にしたような言い方に不快感を覚える。唇を結びサンドラを睨みつける。だが、サンドラはそんなことを気にする様子もなくクスクスと笑い続けている。


 確かに先ほどまでダイヤモンドを散りばめたドレスを着ていた姫がメイドのワンピースを着るなどその転落ぶりに笑ってしまう気持ちもわからなくはない。

(自分のことじゃないし、ソフィ姫が笑われていると思えばなんでもないかな)

 マリアは気を取り直し目の前に立つエリゼを見た。

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