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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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オリーブの枝を持って


「エリゼ様が皇帝になった!!」

 

 その日帝国は大騒ぎになった。エリゼが天下をとったのだ。


 マリアは確信していたとはいえ、その現実に震えた。あの日から二週間たたずしてエリゼが帝国の皇帝となったのだ。それもマリアと同じ戦法を使い成し遂げた現実に驚愕した。


(あの人は皇帝になるべくなる人。ますます遠くなってしまった)


 寂しさを感じながらもエリゼが無事でいてくれたことにマリアは安堵しその夜は一人祝杯のワインを開ける。

 この孤児院にも小さな時計台がありマリアはそこで遠くに見える城を見つめながらワインを飲んだ。


 エリゼは万人に愛される人間だ。マリアのことなどもう覚えていないかもしれない。それに皇帝となったエリゼに会うなど出来ないと異世界から来たマリアにだってわかる。マリアは夜空を見つめエリゼとの日々を思い出した。

 あの日流れ星にエリゼの幸せを願った。

(エリゼ様は今幸せだろうか?)

 マリアは流れ星を見つめながらエリゼの優しい瞳を思い出した。時々目を細め笑いかけてくれたエリゼ。マリアはそんなエリゼに戸惑いながらも惹かれてゆく気持ちを抑えることができなかった。

「私を殺そうとした人を好きになるだなんて、本当におかしい」

 マリアはそう呟きながら寂しさに涙を流す。何度も諦めようとした。けれど諦めることなど出来なかった。でも今はそれ以前の問題だ。エリゼは皇帝となりマリアは何者でもない。どんなに望んでも会うことは不可能なのだ。それが現実だとマリアは自分に言い聞かせた。


 しかしそんなマリアの思いと裏腹なことが起きたのだ。

 


 エリゼが国の名前をエテルと名づけ、紋章にオリーブをモチーフにしたのだ。


 信じられなかった。


(なぜオリーブを?どうして?偶然?)

 マリアは紋章を見て混乱する。マリアがエリゼに渡したネックレスと同じオリーブの葉。

(まさか、エリゼ様のメッセージ!?……そんなはず、ない)

 マリアは考え直す。

(皇帝までなる人が私など見てくれるはずがない)

ただの偶然だ。マリアはそう考えた。そもそもマリアのことなど忘れているかもしれない。

(きっと……覚えているはずがない)

そう考えると悲しいけれど諦めがつく。エリゼを諦めることはできないが、起きもしない夢を見ることはない。


 マリアはそう考え孤児院にあるオリーブの木から枝を分けてもらいそれを持って城に向かった。

エリゼにとってマリアなど過ぎ去った人間でしかない。自分の存在が本当にちっぽけに見えどこか吹っ切れたような気持ちになる。

 このオリーブの枝をエリゼに渡そう。きっとこんな枝などすぐに捨てられるか、もしくはエリゼには届かないだろう。

(だけど私はこのオリーブを渡したい。そうすることで気持ちの整理ができる。届かなくてもいい、自分が行動した事実が私を前に向かせてくれる)


 そう考えるとどこか気後していた気持ちが軽くなり自然と笑顔が浮かぶ。マリアがマリアらしくいられるこのエテル帝国、エリゼの国。マリアは颯爽と歩き出した。


 今日は城でイベントがあるらしく、沢山の馬車がお城に入って行く。マリアはそれを横目に見ながら城の門に立った。門を守る門番は不思議そうな表情を浮かべマリアを見つめる。マリアは笑顔を浮かべ門番に言った。

 

「こんにちは。あの、このオリーブをエリゼ様に届けていただけませんか?」

 門番は笑いながら言う。

「こんなことする人間はそうそういないぞ!お嬢さん」

 マリアも笑顔で答える。

「そうでしょうね。うふふ、でも渡したかったので来ちゃいました。お願いしますね」

 マリアはそう言って門番にお辞儀をし、また来た道を戻った。


 清々しい気分だ。あの日以来泣いてばかりだったが、ようやく何か吹っ切れた気がする。エリゼが治めるこの美しい国エテル。マリアはこの国でエリゼを遠くから見つめ、懸命に生きようと力強く歩き出した。


マリアは寄り道をしながら孤児院に帰る途中、多くの人々が帝国広場に向かう姿を見た。何事かと思い見つめていると、「エリゼ皇帝が演説をするぞ!」という声が聞こえた。マリアは道ゆく人に話しかけ詳細を聞いた。

「突然エリゼ皇帝が国民に向けて演説をするって言ってな、場所はこの先の帝国広場だ。お嬢さん聞きたいなら急ぎな」

(エリゼ様が!?遠くからでも、一目見たい)

 

 マリアは帝国広場に向かって走り出した。

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