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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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帝国を目指す旅


 マリアはエリゼの育った帝国を目指し旅立った。


 この先エリゼはソフィと結婚し、帝国には戻らないだろう。

 マリアは二人のハッピーエンドに酔いしれる人々をかき分け帝国を目指し歩き出した。


 先ほど時計台にエリゼのマントとお礼に作ったネックレスを置いてきた。

きっとエリゼは気がついてくれるだろう。そう信じてマリアはネックレスにキスをし、メッセージを書いた。

 二人の幸せな姿を見続けることができない自分を責めながら涙を滲ませメッセージを書く。本当は沢山の言葉を書きたかった。溢れ出る全ての想いを書くことができたなら……そんな気持ちを押し込め、簡単な言葉だけを書く。けれどその言葉に全ての想いを込めた。

 

『エリゼ様の幸せを願っています』

 

 マリアは涙を拭い、歓喜に沸く街を時計台から眺め静かにひっそりと城を去った。

 


 無一文のマリアは帝国に向かいながら木の実を拾っては売り、お金を稼ぎながら帝国を目指した。


   *


 

 エリゼの育った帝国は巨大な都市だった。初めて見る帝国。現代でいえば首都のような場所。

 

 マリアはまず、エリゼの家門であるザノッティ公爵家を見に行った。その理由はエリゼが育った場所を見てみたかったからだ。

大きな石門のザノッティ公爵家はとてつもなく大きく、中央にそびえる本宅は石造りの美しい邸宅だ。広い庭園には花が咲き、多くの使用人が行き来している。マリアはその様子を見つめながらエリゼの言葉を思い出していた。


『俺は幸せではなかった』

 

 ザノッティ公爵家を見つめているとエリゼの言った言葉の意味がわかるような気がした。この巨大な公爵家を継いでゆく重積は相当なものだっただろう。エリゼの決断が一族の繁栄と衰退を決める。だからこそ厳しく育てられ常に重いものを背負ってエリゼは生きてきたのだ。時に命を狙われることもあっただろう。糸をピンと張ったような毎日の中でエリゼの心が休まる時はきっとそう多くはない。

 初めて会った時の冷酷な顔はエリゼが生きてきた環境から生まれた顔だ。マリアは邸宅を見つめ痛む胸を押さえた。


 そのまま正門を通りすぎ邸宅を囲う塀をなぞるように歩き出す。行く宛のない旅、エリゼのいない公爵家。だがエリゼが過ごしたこの邸宅が名残惜しくなり立ち止まった。

(もう一回だけ正門の前を通ろう)

 マリアは来た道を振り返る。すると正門が開き沢山の馬車が邸宅に入って行った。それと同時に大きな声が響く。


「エリゼ様がお帰りです!!」

 

(!?)


マリアは両手を口に当て目を見開く。今エリゼが帰ってきたと聞こえたのだ。


(嘘?なぜ?どうして?)

 息を呑む。あれから一週間、エリゼはソフィと結ばれ、離れていた時間を取り戻すために一緒に過ごしていると思っていただけに、聞こえてきた声に衝撃を受ける。


(エリゼ様が帝国に、公爵家に戻ってきた……)


 想像もしない現実にマリアは急激な不安を感じた。何か良くないことが起きたのではないかと周囲を見まわした。そこで初めて気がついた。先ほどまでマリアはエリゼのことだけを考え周りに気を留めていなかったが、帝国の民は皆痩せ細り街には活気がない。


(何か起きた?)


マリアは情報を集めようと近くにいる人に聞いた。


「あの、私は旅の者ですが、この帝国、活気がないですし、皆さん満足に食事をされていないように感じます。何か起きたのでしょうか?」


 男はため息を吐き力なく言った。

 

「今この帝国は最悪だ。バルド公爵が女帝の代わりに実権を握ってな。それから税が跳ね上がり俺たちは苦しんでいるのに貴族達は私服を肥やしやがって……最悪な状況だ」


「……ひどい、状況ですね」


 マリアは唇を結ぶ。


 「バルド公爵が帝国を掌握してから宿敵であるエリゼ様のザノッティ公爵家は冷遇されている。ザノッティ公爵家はいつも民衆の味方でバルトにとって目の上のたんこぶだからな。でもエリゼ様はそんなバルド公爵家を放っておけないと国王の座を蹴って公爵家に戻ってきたらしい。噂になっているよ。あと、これは俺の勘と期待だが、エリゼ様はバルドを倒すぞ」


「……エリゼ様が王様をやめた?」


 マリアは男の言葉に衝撃を受ける。なぜ、どうして?疑問が矢継ぎ早に浮かぶが我にかえる。

(エリゼ様はバルトを倒す?)


 その言葉に血の気が引く。


「え?ま、まさかエリゼ様は……戦う、のですか?」


 マリアは頭の中が真っ白になり息が詰まった。まさか、こんなことになると思わなかった。

「おそらくな」

 男はマリアの言葉に頷き、去っていった。

 

(どうしよう、エリゼ様が戦う!?もし、万が一エリゼ様が死んでしまったら……私も、今度こそ、死のう……とても、生きていられない!!)


 マリアは急激に不安に襲われ街の片隅にしゃがみ込んだ。立っていられないほどの衝撃と不安。エリゼの身に何かあったらと考えるだけでうまく呼吸が出来ない。


(エリゼ様が戦う?嘘、なぜ?どうして?信じたく、ない)


 マリアはいつかクロードが言っていた言葉を思い出した。

 エリゼは強いと。

 だが相手は帝国だ。もし、万が一があったらと想像するだけで鳥肌が立つ。指一本動かせないほどの衝撃。今すぐにエリゼの元に駆け寄りたい。

 だが、今のマリアにはそれができない。ソフィとの関係に水を刺すことはしたくない。


 それに高貴な身分のエリゼに会う手立てもない。


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