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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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エリゼ・ザノッティ公爵の戦い方

 数年ぶりに戻る祖国。その様子は以前と変わっていた。活気ある街は死んだように静まり、民は痩せ細っている。その様子にエリゼは顔を顰めた。

(ここまで酷い状況とは思っていなかった。すぐに行動しなければ皆飢え死にしてしまう)


 エリゼは公爵家に戻った。趣あるザノッティ公爵家の本邸はマリアとの思い出が一切ない。この国はマリアの姿を思い出さなくて済む。今は前を向き進む時だとエリゼは前を向く。


(またここから始めよう!)

 

  *

  

「リディオ、皇女……今は皇帝だったな、皇帝は結局バルド公爵の言いなりになり、実質バルトが帝国を操っているのだな?」


 公爵家に戻ったエリゼは休む間もなく帝国の状況を実弟リディオに確認していた。


「はい、お兄様がいない間に皇室に入り込み、どのような手を使ったのかわかりませんが皇帝を丸め込み、我が公爵家を蔑ろにし、バルト公爵は今や皇帝のように振る舞っております。それに、民衆からの税金を無謀に引き上げ民は貧困しておりますが、一定の貴族は贅を尽くした生活を送っており、民衆の怒りは限界に達してきております」


「ふむ、状況はわかった。リディオ、我がザノッティ一族を今晩全員集めろ、さらにザノッティの資産三分のニを現金に換え市場を押さえ流通を止めろ」


「お兄様、三分の二ですか?!」


「ああ、そうだ」


 エリゼはニヤリと笑いリディオを見る。


「リスクが高すぎます!せめて三分の一」


「リディオ、失敗したらゼロだ。成功すれば……難しくない選択だよ」


 エリゼは諭すようにリディオに語りかけた。リディオはその言葉に姿勢を正す。

 

「は、はい!すぐに対応致します」


 リディオは目を輝かせ、部屋から出ていった。エリゼの大胆さは誰にも真似ができない。そんな兄を誇りに思うリディオは早速動き出した。


 その姿を見送り、エリゼは邸宅の窓から空を見上げてマリアにもらったネックレスを取り出し口づけた。


(マリア、今から俺はお前と同じことをして世界を掴む。見ててくれ)


  *

 

「今晩集まってもらったのはバルト率いるこの帝国を倒し新たな国を作ろうと決めたからだ。その為には一族の協力が必要だ。どうだ?やってみないか?」


 エリゼは一族の前で笑顔を浮かべ自信たっぷりに言った。その堂々とした態度は皇帝の器がある。エリゼのその決断力と統率力はザノッティ一族の団結力を強める。


「おお、ようやくその時がまいったか」


「待っておったぞ!」


 ザノッティ一族はエリゼの言葉に団結し共に戦う事を誓い合った。その様子を見てエリゼは笑みを浮かべ一族に言った。


「俺は、今から一週間以内に全てを終わらせるつもりだ。兵士は要らない。必要なのは邸宅の開放と、食糧だ。」


  *


「大変です!!市場に食料がなくなり流通が止まっております!!」

バルト公爵の側近のアバッキオが青ざめた顔をし城の執務室に飛び込んで来た。


 バルド公爵は帝国を牛耳っている。若き女帝を言葉巧みに拐かし、その実権を握った。


 この帝国は皇帝となるべく育った皇太子が急逝したため皇女が即位した。が、才覚なかったためその求心力が落ちた。そしてバルド公爵がそれにつけ入り実権を握った。しかしそれもバルトの巧妙な作戦だった。

 その頃エリゼはソフィを助けるため弟のリディオに公爵家を任せ不在だった為、どうすることも出来なかった。

 

 エリゼという邪魔者がいない間にバルド公爵は自分本位の政策を掲げ、ザノッティ公爵家を冷遇し権力を盾に横暴に振舞った。女帝も面倒な政をせずバルド公爵にまかせ、社交に明け暮れていた。その結果帝国の繁栄が翳りを見せ始めたが、バルド公爵を恐れ誰もそれを口にするものがいなくなった。


「放っておけ。どうせくだらん農家のストライキだろう。すぐに自分の首が閉まって正常にもどるわ」

 権力を握ったバルド公爵は一番大事な危機管理を怠っていた為、一体それがどんな意味を持つのか理解できなかった。

「しかし……」

 側近はその深刻さを伝えようとする。

「アバッキオ、何度も言わせる気か?」

 バルド公爵はその言葉を遮り眉間に皺を寄せ、語尾を強めた。

「は、はい申し訳ございません」


  こうしてバルド公爵は重要な判断を見誤ったのだった。


 

 その三日後。


「大変です!!民衆が食べ物がないと言って暴動が起きてます!」


「はっ、面倒な……」

 バルド公爵は早急に貴族を召集し会議を行った。しかしエリゼ率いるザノッティ公爵家は呼ばれなかった。


「城に備蓄してある麦などの穀物がありますからそれを市場に卸せば少しは収まるかもしれません。」

「まあ、非常事態ですから値段は二、三倍でも民衆は買うでしょう」

 

 堕落している貴族達の安易な言葉にバルド公爵は城に備蓄してある食物を放出し、通常の三倍の価格で市場に卸した。

 

しかし民衆はただでさえ税金が上がり生活が苦しくなっている上に三倍の価格で穀物を買えるわけがない。

 その怒りは頂点に達した。

  

「この帝国は国民を蔑ろにし、私利私欲を肥やす貴族ばかりだ!!このままでいいのか?」 

「城の備蓄を三倍の値段で民衆に買わせるとは!!我慢の限界だ!!」


 民衆達は続々と街の広場に集まり不満を爆発し始めた。


   *

 

「そろそろいいだろう」


 満を持したエリゼは馬に乗り民衆が集まる広場に姿を現した。


「エリゼ様だ!!」


 エリゼは例の演劇のお陰で民衆に人気がある。エリゼの姿を見た民衆達は、なぜここにエリゼがいるのか不思議に思いながらその周りに集まった。

 

 エリゼは馬上から民衆に話しかける。

 

「帝国の良識ある国民達よ、我がザノッティ公爵家、その一族の邸宅に食料がある、邸宅は解放してあるから取りに来い。金はいらない。必要なだけ持っていって良い。ザノッティ公爵家はいつでも民衆と共にある」


 その言葉に人々は歓喜に震え叫びだす。

「ザノッティ公爵家バンザイ!!」

「俺たちを見捨てないのはエリゼ様だけだ!」

 

  民衆は熱狂し、すぐにザノッティ公爵家、その一族の邸宅に向かった。 

 そこにはエリゼの言葉どうり新鮮で豊富な食料が山積みされており民衆が押しかけるとそれを無料で配り始める。ザノッテイ一族は自らその食糧を民衆に手渡し、時には慰め、暖かい声をかけその心を掴んだ。


 二日目には食料をとりに来た民衆が三倍以上に膨れ上がり、それと同時に九割近くの民衆は自分たちに寄り添ってくれるザノッティ公爵家を支持すると宣言し始めた。


 

 そこでエリゼは弟のリディオに指示を出す。


「ザノッティ公爵家はこの件で貴族会議の出席を拒否され冷遇されている。これを噂に流すのだ」


 リディオは早速動き、その噂を流し始める。その噂はあっという間に広がり民衆は帝国から冷遇されているザノッティ公爵家を守ろうと公爵家の周りに集まり始めた。


「我々を見捨てないザノッティ公爵家を冷遇する帝国はもう終わりだ!」

「俺たちはザノッティ公爵家を守ってみせる!」

「贅沢三昧している貴族を倒すんだ!」


  *


「た、大変です!民衆が反乱を起こす勢いで城の周りに乗り込んできています!!」 

 バルド公爵は一週間のうちに帝国が傾くほどの騒動が起きたことに呆然とした。


「すぐにザノッティ公爵家のエリゼを呼ぶのだ!」


 城からの使いがザノッティ公爵家に来た時、民衆はこのままエリゼが城に行ったら捕らえられると心配し、我々も共にゆくと言い始めた。


 そこで初めてエリゼは民衆に言った。

「このエリゼ・ザノッティが帝国の主人になると言ったらお前達は協力してくれるか?」

 

 集まった民衆は歓喜の声を上げた。


「あなたについて行きます!!」

「あなたこそ帝国の皇帝にふさわしい!!」


 民衆達は続々と集まりだし、それぞれ家にある武器になりそうなものを持ち集まった。


 その様子を見たエリゼは言った。


「兵士ではないお前達を戦わせるわけには行かない。だが力を貸してほしい。一緒に城に行ってくれるか?」


「おお!!!!」


 数十万の民衆達が声を上げると地響きがした。大地をうねる雄叫びは帝国中に響き渡る。


 そして誰もが確信をした。

 


 新しい皇帝の誕生を。

 

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