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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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30/45

その日のために

 「すごいことになってるな!」


 クロードはマリアに言った。


「ハハハ。まさかこんな勢いになるとは」



 マリアの考えた演劇が爆発的ヒットをしたのだ。その演劇は「十二年の純愛」という恋愛演劇で、エリゼとソフィの物語だ。一応名前などは変え、ストーリーもそれなりに脚色しているが事実がベースになっている。誰もがエリゼとソフィの話だとわかる内容だ。


 朝昼夜の三公演だが全て満員御礼だ。しかもこの演劇は最終回が無い。最後に役者が言う言葉は『最終回はこの国の全員が決めるんだ!彼女の刑を執行して良いのか!?』で締め括られる。


 それ以来街ではソフィ姫の裁判無効を訴えるデモが起こり、それが大きなうねりとなり今ではソフィ姫は無実だと、冤罪であると国民は擁護し、ソフィ姫を元の地位に戻せ!と訴えている。


 そして、二週間後にある執行日は人で埋め尽くされることが予想された。

 

 劇団長はマリアを女神と呼んでいる。マリアのお陰で本当に屋敷が建ったのだ。

 マリアは刑執行日は最前列でソフィ姫の無実を訴える主導のお願いを劇団長に頼んだ。

劇団長は役者総動員して行くと快く引き受けてくれた。


 

 刑執行の少し前に本物のソフィ姫が城に戻ってきた。


 世論はソフィ姫の無罪に傾き、裁判の無効を検討される状態にまでなった。


 城に戻ったソフィ姫は、以前から使っていた部屋に戻り、穏やかに日々を送っている。エリゼはソフィ姫を慕うメイドや使用人を世話係として配置し、ソフィ姫を断罪する人間は一人もいない。


  * 

 

 エリゼはマリア達と最終の打ち合わせをしようと、招集をかけ、執務室にマリア、ソフィ、クロード、サンドラ、タチアナを呼んだ。


 マリアはバイトに明け暮れ、約束の時間に少し遅れてしまった。 


「ハアハア!すみません!!遅刻しました」


 走って来たマリアの息は上がっている。すでに全員が集まりソファに腰をかけている中、マリアはバツの悪い顔をし、部屋に入ってきた。


 その姿に全員目を奪われる。

 

 マリアはピンクに染めていた髪を切り、肩上の短い髪になっていた。


 その視線に気がついたマリアは口角をあげ言った。


「あ、そんなに見ちゃいます?この髪ボブスタイルって言うんですよ。元いた世界では結構気に入っていつもしてたけど、やっぱこの世界では女性の髪が短いと驚かれますよね。うふふ」


 そう言いながらマリアは片方を耳にかけて笑った。

 その姿を見たエリゼ達は、マリアがこの世界の人間ではないと改めて気付かされる。異世界から来たマリアは独特の輝きがあり、全員そんなマリアの魅力に引き込まれた。


  ああ、やっぱりマリアはこの世界の人間じゃないんだと、誰もが感じた瞬間だった。

 


「ここに座って」

 エリゼはマリアを見つめ、自分の左側の席を指差した。


 その右側にはソフィ姫がいる。


 エリゼの言葉を聞いたソフィ姫は一瞬複雑な表情を浮かべる。マリアはそんなソフィ姫の表情を見なかったふりをし、エリゼの左側に移動した。


「両手に花ですね。さすが王様」


 マリアはわざと戯け、笑いながらソフィ姫に会釈し左側に座った。

 ソフィ姫はマリアに優しく微笑む。そんなソフィ姫を見ながら、先ほどの表情は見間違いだったと考えながらエリゼを見た。

 

「それで、当日はお前じゃなくてソフィが行けば良いのだな」


 早速エリゼが刑執行日の行動をマリアに確認する。


「はい、問題ありません。最前列には劇団の役者達がいます。彼らがソフィ姫様の無罪を叫び、間違いなく民衆も賛同します。そしてソフィ姫様は無罪、王権復帰、これでハッピーエンドです。我ながら天才かもしれません」


 マリアは口元に両手を当てクスクスと笑う。


「お前ほんとすごいよ」


 クロードがマリアにウィンクしながら声をかける。


「クロード様、そういえばあれ以来……」


「お,お前、その話はまた」


「なんの話??」


 タチアナが二人の会話を聞き言った。


「えへへ、秘密です。ね、クロード様」


 マリアは笑いながらクロードにウィンクを返す。

エリゼは黙って二人のやり取りを見ていた。

 

「あ、ところで、ソフィ姫様、何か質問はありますか?怖くありませんか?」


 マリアはエリゼ越しにソフィ姫に話しかける。

 

「はい、大丈夫です。皆さんを信じておりますし、近くにエリゼ様もいらっしゃいますから」


 そう言ってソフィ姫はマリアに優しく微笑んだ。その微笑みを見たマリアは目を細め言った。


「自分に似ている方が幸せそうに微笑むと、救われたような……気がします」


その言葉を聞いていたエリゼがマリアに話しかける。

 

「その時お前はどこにいるんだ?」


「あ、私は特等席です。この計画の総監督ですから舞台袖で成り行きをみて何かあれば即対応します。心配はいりません。絶対上手くいきます。全てが正常に、元に戻り、皆んな幸せになれます」


 そう言いながらマリアは席を立った。


「あの、申し訳ありませんが、私、とっても忙しいので、後は何かあれば個別に良いでしょうか?お先です」


 言い終わるか終わらないかでマリアは執務室から出て行った。


 城の廊下を走りながらマリアは唇を結んだ。エリゼとソフィが一緒にいる空間にいる事が辛かったのだ。穏やかな二人を見ていると心が潰されそうになる。ハッピーエンドを迎え幸せになる二人を見つめる気力を今は使いたくない


(二人が結ばれる時、笑ってさよならができるように)

 

 


 あっという間に立ち去ったマリアを見送ったサンドラがため息を吐き言った。


「本当にあの子は忙しい子なんだから。落ち着きはないし、この世界の令嬢を見習いなさいとおもうけれど。でも、あの子、明るくてとても可愛い子なのよ」

 そう言ってサンドラは笑った。

「サンドラ、まるで保護者みたいね」

 タチアナも笑顔を浮かべサンドラに言う。

「そうね、あの子よく気がつくし、人のことよく見てるけど、自分を顧みないところがあるから心配しちゃうの」

「ああ、わかるわ。あの子はなんだか必死で生きてるって感じする時があるから。まあ、可愛くて仕方ないし、心配で仕方がないわ」


 タチアナもサンドラの言葉に同意する。


「だから見てると親の気持ちよ。親じゃないけど」

 サンドラが笑う。 

「確かに。目は離せないわね!!」

 タチアナも笑った。

 


 エリゼは黙って二人の会話を聞いていた。エリゼが何を考え思っているのか誰にもわからない。

 エリゼの隣に腰掛けているソフィ姫はそんなエリゼを見つめ続けた。



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