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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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許す許さないの間

 このまま部屋に帰りたくない。こんな夜は飲みたい、暗闇を歩きながらそんなことを考える。

(コンビニ、コンビニに行きたい!けど、ない……)


 マリアはため息を吐く。元いた世界は便利だった。この世界では無理な話だ。だが、ふと思い出した。朝食の準備は三時から始めると聞いた。

今キッチンに行ったら誰かいるかもしれない。食べるものはなくともワインはあるだろう。


(ワインをわけてもらおう!)


  マリアは部屋に戻らずそのまま厨房に向かった。


「おはよう御座います!あの、誰かいらしゃいますか?」

 マリアは厨房のドアを開け声をかけた。

「お、マリア、どうした?」

 コックのアントニオが出てきた。

「アントニオさん、ワインを一本いただけませんか?出世払いで」

 マリアは両手を胸の前で揃え神様を拝むようなジェスチャーをし言った。

「おう良いぞ!美味しい赤ワインがある。出世払いで持っていけ!」

 そう言ってアントニオはワインを一本持ってきてくれた。

 マリアはそれを受け取り厨房を出てこの城の中央にある時計台の中に入っていった。


 作業用の階段を登りきると小さなドアがあり外壁に設置してある時計の針を掃除できるちょっとしたスペースがマリアのお気に入りの場所だ。偶然見つけたこの場所はいつからかマリアの心を癒す秘密の場所となった。


 真実を知って以来この場所で多くの時間を過ごしている。ここからの景色は城下町とその向こうに見える広い海。何でもない景色だが美しい。ただ今は夜中だ。海は見えないが街にはポツポツ灯りが灯っている。


 電気とは違う優しく暖かな光。


 マリアはワインのコルクを開けそのまま口つけ飲んだ。 

「うわぁ、濃い。久しぶりかもこんな飲み方……」

 マリアは呟いた。 

「……バカやってた時こんな飲み方ばかりしていた。ハハハ今も、バカだ。バカじゃないと乗り越えられない、ね」

 

 マリアは街の光を見つめながら考えた。ソフィの冤罪を晴らす方法だ。それはそんなに難しくはない。その土台は出来ている。


「うん、大丈夫。ソフィ姫も私も助かる方法は一つだわ。民衆を動かすしかない」


 現代で言う世論を動かす、だ。人間の性質をコントロールし、その心を掴んだものが勝つ。それはどの世界でも同じことだ。ソフィ姫が追い込まれたあの悪い噂を今度は逆に利用すればいい。


 しかし、マリアはため息を吐いた。


「……そのあと、私はどうしよう」

 

 異世界から来て、こんな騒動に巻き込まれ今に至っているが、全てが終わったらどう生きれば良いのかマリアにはわからない。けれど、そのままここにいる事は考えられない。なぜならエリゼとソフィが結ばれる姿を笑顔で見続ける強さは無い。

(本当は今すぐにでも逃げれたら)


 そう思う気持ちも湧き起こる。しかしこんな状態で逃げ出すことはできない。マリアの心は揺れている。


(エリゼの愛する人は私ではない。私は一体エリゼの何が好きなんだろう?)


 マリアは考える。マリアを騙し、愛するソフィだけを救おうとした人。マリアを殺そうとした人。切り捨てようとしてた人。だが、マリアを殺すチャンスは沢山あったはずだが、エリゼは殺さなかった。

 

「まだ使い道あるって思っていたのかしら。あながち間違ってないよね。エリゼ様は先見の明がある?」

 

 マリアはワインを口に含み、ゴクっと飲んだ。


「私、バカみたい。笑えるほどバカだ……飲もう、もう飲むしかない!!」


 マリアはワインを一気飲みした。 


「うー、破壊力抜群、このまま下に落ちそう……まあ、それも良いかも。歩いたら落ちる、落ちる自信しかない。仕方がない。ここで夜明けを見よう」


 マリアはしゃがみ壁にもたれかかり目を閉じた。


   *

  

「うぅ、頭痛い、気持ち悪い」

 

 目が覚めたマリアは二日酔いで気分が最悪だった。水が飲みたいと起き上がる。

 

「うっ、ベットの上で吐くわけには……!?え?ベット??何故??」


 マリアは目を見開き、なぜ自分がベットの上にいるのかわからず頭を抱えた。


「……あれ?……っていうか、ここはどこ??」


 マリアは見覚えのない部屋のベットの上にいることに気がついた。慌てて立ちあがろうとし、ふらつき再びベットに倒れ込む。

 

「うそ、酔っ払ってどなたかのお部屋で寝てしまった?!これはまずい、逃げよう。う、気分が……」

 

「ソフィ、朝から元気が良いな」


 不意に声をかけられ声の方を見る。エリゼが笑みを浮かべマリアを見ている。 


「うわ!!エリゼ様?なぜここに?ま、まさか私酔った勢いで……」


「酔った勢いで何?」


 マリアは両手を口に当て顔赤らめエリゼに言った。

「まさか、あの、丁寧に、申し上げると、エリゼ様を頂いた。とか」


「?頂く?とはなんだ?」


「いや、察して下さい、あの、私、エリゼ様を襲ったのかと聞いているんです!」


「お、お前、すごいことを言う」


 エリゼはマリアの言葉を聞き目を丸くする。

 

「あの……ワインを、ボトルを一気飲みして、記憶が……何も、覚えていなくて。気がついたらここにいて、あの、その、酔っ払った人間がする事は一つです」


「……ソフィはそんな生活を送っていたのか?」


「ハハハ、どうでしょう」

 

 マリアはエリゼから視線を逸らし俯いた。

 

「……昨日、お前は全て分かった上で協力するとソフィに言ったそうだな」


「あ、はい。そうです。迷惑……でしたか?」


 エリゼは唇を結び、一旦黙った。だがすぐにまた口を開き言った。

 

「お前は……俺を許せるのか、という意味だ」


 マリアはエリゼの言葉に一瞬息を呑む。エリゼは自らマリアにしようとしていたことを認めたのだ。俺を許せるのか、とはそんな意味だ。その言葉がマリアの心に鋭く刺さる。 


「許す?ハハハ、許すか……便利な言葉ですね。許すと許さない、どっちかしかない言葉って実は簡単だと知っていますか?一番難しい答え、それは中間の言葉。どちらでもあり、どちらでもないという、揺れ動く感情。本当はこれが一番多いんです。それなのにそれを指す言葉がない」


 マリアは天井を見上げた。本当はこんな会話したくなかった。向き合いたくなかった。向きあうと何らかのケジメをつけなければならないからだ。


「だけど、エリゼ様、私はそのエリゼ様の問いには答えたくありません。だけど、エリゼ様とソフィ姫様に笑って欲しい。幸せだと感じて欲しい。その気持ちは本物です。特にエリゼ様、あなたには何気ない瞬間にも幸せがあるんだって知って欲しいと、そう思っています」


 マリアは涙を堪えエリゼに笑いかけた。

 

「ソフィ」


 エリゼはマリアを見つめ言葉に詰まる。マリアはそんなエリゼを見て悲しみに心が揺れる。エリゼはマリアに罪悪感を感じているのだと伝わってくるからだ。けれどそんな罪悪感はいらない。マリアがほしい気持ちはそれではない。しかしそれを望むことはできない。マリアは両手を握りエリゼに言った。

 


「あ、ところでいつまでソフィと呼ぶのです?私はマリアでソフィではありませんよ。ソフィ姫が現れたならそろそろ呼び名変えてくれませんか?」

 

「ソフィ、二日酔いは大丈夫か?」


 エリゼはマリアの言葉を無視し、ソフィと呼ぶ。そんなエリゼにマリアは呆れる。 


「え?無視ですか?本当この王様は自分勝手な人ですね」

 

 マリアはそう言いながらメイドが差し出す水を一気に飲み干し立ち上がった。何故この部屋にいるのかわからない。だが、エリゼとそれなりに話が出来たことは良かったのだとマリアなりに納得した。

 

「エリゼ様、お邪魔しました。いつかマリアと呼んで下さいね」

 

 そう言ってマリアはエリゼの部屋から出ていった。

 

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