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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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ソフィとマリア

 マリアはまず、ソフィ姫に会おうと考えた。


 前回の幽霊目撃情報は九日、その前は二日、過去の日にちは全てバラバラだったが、全て水の日だった。元の世界で言うと水曜日だ。恐らく毎週水曜日が密会の日だ。


 マリアは水曜日を休みにしてもらい前日、『本当にわるい』と、思いながらもあの部屋の合鍵を内緒で作った。

 

 推測だが、恐らく隠し通路があり城の外に出られる。昔映画で見た城が攻められた時に王族が逃げる道、それだ。

 

 マリアは十一時ごろ、北の部屋に入りソフィが現れるのを待つことにした。

 恐らくソフィはエリゼより先に来る。だから目撃情報が出たのだ。


(毎週一度だけ愛する人に会えるソフィ姫、自分の為に命を懸けて救おうとしてくれる愛する人。

 早く会いたくて、ここでずっとエリゼを来て待っているのだわ)


 マリアはソフィ姫のことを考えた。

 (どんな思いで十五で嫁いだんだろう?)


 エリゼと愛し合っていたソフィ姫はその心に蓋を閉め好きでもない人の妻になった。どれほど苦しく悲しかっただろうか?エリゼもどんな思いでその現実を見ていたのだろう?

 そう考えるとマリアの恋心などちっぽけに思える。エリゼに幸せになってほしい。心から願う。けれど願っているのに悲しいと思う気持ち、この矛盾した気持ちがマリアを苦しめる。


(けれど、やはりエリゼの幸せそうな顔を見たい。それが私の目標だわ)


 マリアは部屋の中を見回しながら考えた。


 ソフィはお姫様だ。マリアが知っている絵本のお姫様は皆幸せになる。愛する人と結婚できる物語が多い。でも実際は政治に利用される弱い立場なのかもしれない。そう考えると複雑な気持ちになる。皆苦しみの中で生きているのかもしれない、と。

 


(しかしこの部屋暗いわ)


 マリアは月明かりを頼りに椅子を見つけ腰をかけた。物音一つしない。


(エリゼとソフィ、不幸だった二人のこれからが幸せに満ち溢れる毎日に変わるよう、助けてあげたい、なぜならあの時星に誓ったから。エリゼを幸せにすると)

 


 コツ、コツ

 

 不意に壁の奥から人が歩く音が聞こえて来た。おそらくソフィ姫が来たのだ。

 マリアは息を殺し暗闇に溶け込むよう身を屈めた。 


ギギギ……


 部屋の壁が動く。カラクリドアが開いたのだ。

 白い壁が横にスライドされ人影が現れた。その人影はランプを手に持ち中を照らし、静かに部屋に入ってきた。

 

 物音をさせぬようランプを近くのテーブルに置き、羽織っていたローブを脱いだ。


 鮮やかな金色の髪が流れるようにフードから落ちてゆく。


 (綺麗)


 マリアは固唾を呑みその姿を見ていた。ランプがその人物の顔を照らす。


 その顔はマリアにそっくりだった。


 ただ、表情は穏やかで慈愛に満ち、まるで聖女のような高潔な美しさがあった。

そして部屋中にあの花の香りが広がっていった。


 見惚れるような上品さ、顔は似ているがマリアとは正反対の人間。それがソフィ姫だ。


 ソフィ姫は部屋の中を注意深く見回している。マリアは今だ、と立ち上がりソフィ姫に声をかけた。


 

「こんばんは、あの、ソフィ姫ですか?」


「!!!!」


 ソフィ姫は驚いたが、声を出さなかった。


(ああ、やっぱり姫様は訓練されている。むやみやたら叫んだら大変なことになるとわかっているから……)

 マリアはそんなソフィ姫を目の当たりにし、格の違いを感じた。少しだけ胸が苦しくなる。だが、笑顔を浮かべ挨拶をした。

 

「はじめまして、ソフィ様の代わりをしているマリアと申します」


 マリアは頭を下げ自己紹介をした。それだけ言えばソフィ姫はわかるはずだ。全てエリゼから聞いているからだ。

 

「……あの」


 ソフィ姫は少し戸惑っている。エリゼからマリアの事を聞いていても、マリアが現れるとは思ってもいない。それにこの計画を当の本人であるマリアが知っているなど想像もしていなかったはずだ。

 

 驚くソフィ姫にマリアは簡潔に言った。

 

「ソフィ姫様、結論から言います。私は全てを知っています。その上で申し上げます。私はお二人の協力者です。でもエリゼ様は私が全てを知っていると知りません。きっと私がここにいること、驚くかもしれませんが……うふふ、ソフィ姫様、エリゼ様の驚いたお顔を見てみたくありませんか?!」


 マリアは笑顔を浮かべいった。


「うふふ」


 ソフィ姫も瞬時にことの次第を理解し、マリアの提案に思わず笑った。


 マリアはソフィ姫の笑顔を見つめ思った。


(自分にそっくりなソフィ姫。笑っていて欲しい)

 

 マリアは微笑むソフィ姫に向かって言った。


「ソフィ姫様、私は皆さんに幸せになってほしいと願っています。私が異世界からこの世界に迷い込んだのはソフィ姫様とエリゼ様を助ける為だと思っています。だから、ソフィ姫様、私は皆が幸せになる道を探します。必ず」


 マリアはソフィ姫の手を握り、笑いかけた。ソフィ姫はマリアの笑顔を見つめ涙を流した。殺されると知っても、恨み言を言わず前を向き、全員が幸せになる方法を探すというマリア。その強さにソフィ姫は救われる思いがしたのだ。


ガチャガチャ

 

 ドアの鍵を開ける音がした。足音もなくエリゼが現れたのだ。マリアは隠れエリゼを驚かそうと思っていたがタイミングを逃し、ソフィ姫の手を握ったままエリゼを迎えてしまった。


「!!!」


 エリゼは手を握り合う二人をみて言葉を無くした。その様子を見たマリアは笑い出す。 


「アハハハ!!ソフィ姫様、見ました?エリゼ様すっごく驚いた顔して止まっちゃいましたよ!!!」


「うふふ、本当ですね」


 ソフィ姫も上品に笑い出す。エリゼは目を見開き動かない。

 

「エリゼ様、驚いたでしょう?!まさか私がここにいるとは思っていなかったでしょ?」

 

「……お前、なぜここに?」

 

 エリゼは絞り出すような声でマリアに声をかける。マリアはソフィ姫から離れエリゼの目の前に立った。


「……エリゼ様、全部、知っています。エリゼ様がソフィ様を助ける為に私を利用してること」


「……」


 エリゼは答えられない。マリアは何も答えないエリゼを見て喉が詰まる。エリゼが少しでも罪悪感を感じているならば、何も言わず聞いてほしいと心の中で願う。言い訳などしたら余計傷ついてしまいそうだからと、マリアはすかさず話を続ける。


「あ、でも気にしないで下さい!私は大丈夫です。初めてあった時も殺さないで下さったから、あの、ありがたいと思っています。だから、そのお礼と言ったらアレですが、協力しようと思っています」

 

「おまえ……」


 エリゼは悲しそうな表情を浮かべマリアを見つめる。マリアはそんなエリゼの顔を見たくない。そんな顔を見てしまえばマリアも泣きたくなる。両手を握りマリアは明るくエリゼに言った。 


「あ、しまった!今日は貴重な密会日でしたね。また後日計画をまとめますから。絶対に協力しますから、殺さないでくださいね。あ、この辺で邪魔者は退散いたします。ソフィ姫様またお会いしましょう」


 マリアは笑顔を浮かべ、ソフィ姫に手を振りながら部屋を出ていった。

 一方エリゼは黙ったまま、何かを語るような瞳をマリアに向けた。だがマリアはエリゼの顔を見ることなく部屋を出ていった。


   * 


 部屋を出ると真っ暗な暗闇の世界が目の前に広がった。吸い込まれそうな暗闇。マリアは不安に曇る心を振り払うように呟いた。

 

「必ず上手くいく。暗闇が続くことはないわ」


 マリアはそう言って歩き出した。


「部屋までお連れ致します」


 先日ここで会った騎士がマリアに声をかける。突然現れた騎士に驚き息が止まりそうになる。

 驚きながらも騎士の気遣いを断り、マリアは暗闇を歩き出した。


 (……今はこの暗闇の中にいたい)


  程なくするとゴーン、ゴーンと、時計が二度鳴った。

 

 マリアは何度聞いてもこの鐘の音が怖かった。だが、ソフィにとっては待ちに待った鐘の音だ。

 人は同じ物や、同じ音を聞いても心のあり方一つで、その状況一つで感じ方が変わる。


 起こっている現象はいつでも平等、だが、受け取る側次第で見える景色は違う。


 今ソフィ姫が見ている景色は愛する人と共に過ごす幸せな景色。


 羨ましいと、思う気持ちも否定できない。エリゼの愛を一心に受けているソフィ姫を本当は羨ましく思っている。けれどそんな思いを抱いてもマリアの恋心はエリゼには届かない。そんな思いは胸の奥に押し込め二人を応援すると決めた。エリゼが幸せならば、それでいいと。


 (私は何も見えない。この目の前に広がるのは暗闇、だけ)


 マリアは唇を結び暗闇の中を歩いた。いつか明るい場所に出られると信じて。

 

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