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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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幸せじゃない


「え?ま、まあ、そうです」


「それで、レオニダにどんな事をした?手を握ったり?」


 マリアはエリゼの言葉に吹き出しそうになった。手を握るなど現代人のマリアにとって大それたことではない。

 

「クスクス、手、握ったと言えば握ったような」


 マリアは笑いながら答える。


「それから?」


 エリゼはさらに聞く。


「それから?……覚えていません。でも、キスまではしてません。あの人嫌いですもの」


 マリアは笑いながら答える。エリゼの質問の意図はわからないが、レオニダの青ざめた顔を思い出し吹き出しそうになる。

 エリゼは楽しそうに笑うマリアを見つめながら言った。

 

「ソフィ、少し散歩しないか?」


 エリゼはマリアに手を差出した。

 一瞬迷う。エリゼの誘いは嬉しい。だが、深く傷つく現実に対峙しなければならないこともわかっている。わかってはいるが、それでも今この瞬間を逃したくないと考える自分も否定できない。唇を結び覚悟を決め、マリアはエリゼの手に触れた。


 エリゼはマリアをエスコートし、城の庭園に出た。触れる指先から心臓の音か聞こえてしまうかもしれない。そんなことを思いながら歩いているとエリゼは優しい眼差しを向けマリアに笑いかける。マリアは恥ずかしさに目を逸らしながら気持ちを隠すように明るく振る舞った。

 

「わっ寒いですね!」


 マリアは身を屈めた。エリゼは顔を顰め寒そうに震えるマリアを見てマントを外しマリアを包む。

 

「ソフィどう?」


 マリアはマントをかけてくれたエリゼの行動に内心ときめきながらも平静を装い笑顔を向ける。


「エリゼ様、ありがとうございます。あ、そういえばマントをお借りするの二度目ですね。あのマントまだお返ししていないですね。すみません」


 マリアは頭を下げた。お礼の品を買うためにバイト代を貯めている。まだまだ目標額に届かずマントを返すことが出来ないでいる。


 エリゼはそれについて何も言わない。ただ、マリアの手を握り花咲く庭園の中をゆっくりと歩く。

 マリアも黙って庭園を歩く。初めて会った時の怖さが嘘のようだ。今目の前にいるエリゼは穏やかな表情を浮かべマリアを見つめている。マリアはそんなエリゼに惹かれてゆく。今、エリゼの本心が見えない。


 複雑な気持ちを追い出すように、マリアはエリゼに話しかけた。

  

「エリゼ様は他国の公爵様だったと聞きました」


「ああ、そうだよ」


「そですか」

 

 短く答えるエリゼに会話が続かない。あまり話したくなさそうなエリゼの言葉にマリアの気持ちは下がって行く。

(どうしよう。エリゼに聞きたいことは沢山ある。けれど勇気がない。)

 自分自身のことを話したくなさそうなエリゼの態度に、マリアの心が曇る。けれど、沈黙が続けば気も滅入りそうになる。

 エリゼが何を考えているのか全くわからない。自分の秘密を話そうとしてマリアを庭園に連れ出したのか、それとも話す必要がないと、ただの散歩なのか。

 沈黙が続く。

(この沈黙の意味を知りたい)

 けれど、口を開いてくれそうにないエリゼを見てマリアは小さくため息を吐く。

 

(なんでも良いから会話を繋げたい。なんで良いから……)

 マリアは突拍子のない質問を投げかけた。

 

「エリゼ様って、お金持ちですか?」


 エリゼはマリアの質問に笑い出した。


「ブッ、ソフィ、お前、面白いことを聞くのだな」


「え?面白い質問でしたか?」


 楽しそうなエリゼを見てマリアはホッとした。沈黙よりも会話をしていた方が気が楽だ。

 

「王に向かってお金持ちですか?と聞く人間は居ないぞ」


 エリゼは楽しげな表情を浮かべマリアの手を握る。エリゼに握られた手から温かさが伝わる。けれど胸がズキンと痛む。

 

「なぜですか?国のお金は王のお金じゃないと聞きました。王様って大変な仕事じゃないですか、よくやるなぁって思っているんですよ?」 


「あははは!!ソフィ、お前は本当に最高だな」

 

 エリゼはマリアの言葉に大笑いを始める。

 

「……それ、褒め言葉に聞こえないです」


 マリアは楽しそうに笑うエリゼを見て馬鹿にされているような気がし、不服な表情を浮かべる。

 

「あははは、褒めている、お前はすごいよ。本当に」


 エリゼはそんなマリアを見てさらに笑い出す。マリアはエリゼの言葉に表情を変え真面目に答えた。 


「すごい?そんな言葉……」


 マリアは言葉に詰まる。どんな凄くても褒められても、エリゼはマリアを見ていないのだ。


「そんな言葉?」

 

 エリゼは首を傾げマリアに言う。マリアの表情が曇ったことに気がつきエリゼの笑顔も消えた。

 マリアはエリゼの変化に我に返る。暗い顔を見せてしまったと反省しつつ、文句を言うように片眉をあげエリゼに言った。

 

「そんな言葉一円にもならないです!あ、一円とはお金の単位で、あーもう説明が面倒です!お金にならないと言う意味です」

 

「ソフィは元の世界に戻りたいか?」


 エリゼは真剣な面持ちでマリアに聞く。マリアはその問いに正直に答える。

 

「……どこも同じです。私にとって。ここもあそこも」


 投げやりなマリアの言葉にエリゼは怪訝な表情を浮かべる。

 

「……どう言う意味だ?」

 

 マリアは空気が変わったのを感じ慌てて笑い出し言った。

 

「アハハハ!意味なんてありませんよ!生きるってどの世界でも大変な事だから。そんな意味かな」


 マリアは奥歯を噛みエリゼを見た。

 

「……そうか」


 マリアの言葉を聞いたエリゼは短く答え再び黙ってしまった。

 マリアはそんなエリゼを見て以前から感じていたことを質問した。


「エリゼ様は……幸せですか?」


 エリゼはその問いにハッとし、表情を曇らせ答えた。

  

「……ずっと、幸せじゃない」

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