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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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サンドラの選択

 それからもマリアはエリゼを避け続けていた。

 エリゼの秘密を知ったマリアはエリゼに会いたくなかった。なぜならエリゼはソフィ姫を探していると嘘を言った。エリゼはソフィ姫を探していない。憎んでいない。殺すつもりなど全くないのだ。なぜなら……


   *

  

 マリアは幸せそうなタチアナを横目に一人夕陽を眺めるサンドラを見つめていた。

 

 タチアナと共にエリゼと戦っていたサンドラ。彼女も最近親から結婚を勧められていた。

 サンドラを観察するうちにサンドラが結婚相手を嫌っていることにマリアは気がついたのだ。

  

 サンドラはとても厳しい家庭環境で育った貴族の令嬢だ。親の言うことは絶対に聞かなければならない家庭で育ち、今まさに結婚を勧められていた。しかしサンドラはその相手レオニダが大っ嫌いだ。相手のレオニダは自己中心的な男性で女は従うのが当たり前だと考える人間だ。


 サンドラはそんな男と結婚したくはないが、親の言うことを突っぱねることも出来ない。そんな気持ちを誰にも相談できず悩んでいた。


「サンドラ様、私がひと肌脱ぎましょうか?」


 一人で夕日を見つめるサンドラにマリアは声をかけた。


「ソフィ?何のこと?」


 サンドラは優しく微笑みながらマリアを見つめる。


「今、サンドラ様が考えている事」


 マリアもサンドラに微笑む。サンドラはマリアの言葉に驚きながらも力無く言った。


「ウフフ、無理よ。私は父に逆らえないの」


 サンドラはそう言ってベージュの瞳を潤ませ俯いた。そんなサンドラの隣に腰を下ろしマリアも夕日を見つめながら言った。


「サンドラ様、私にお任せ下さい。全て丸くおさめます。サンドラ様は何もしなくても大丈夫。でも最後はお手伝いください。二週間で終わらせますから!」


 マリアは驚き顔をあげるサンドラにそれだけを伝えその場から去っていった。


 

 

 

 三日後、ある噂が人々の興味を引いていた。


「レオニダ様がある女性を追いかけ回している」


 世間ではレオニダはサンドラの相手だと皆知っている。レオニダはサンドラが国の重鎮である事を利用し、横柄な態度で人と接しており、皆快く思っていない。だからこの噂は爆発的に噂が広がった。


 マリアにとってレオニダは好都合な男だった。マリアはそれを利用し仲間の使用人やメイド達にレオニダの恋の噂を流してもらっているのだ。その噂の相手は謎の美女だ。


 マリアはレオニダが毎晩飲みに行く店に協力してもらいレオニダに近づいた。髪の色を変え、メイクで別人に変装しカレナと言う名前でレオニダを誘惑した。レオニダは親の地位を利用する男で中身はボンボン、サンドラに釣り合う男ではない。絶対に結婚を阻止しサンドラを守りたい、マリアはレオニダを罠に嵌めたのだ。案の定レオニダはマリアの罠にかかった。レオニダはカレナに変装したマリアに夢中になった。


 マリアはレオニダに言った。


「私が欲しいなら全て捨てられる?それが出来たなら一緒にいてあげても良いわ。だけど本当にレオニダが私の為にそうしてくれる姿を見せてくれなきゃいやよ。私の為にできるよね?」

 

 翌日レオニダはマリア扮するカレナを連れてパーティに出かけた。その日は城でパーティーが開催されており、サンドラの両親、レオニダの両親も参加していた。


 レオニダはそんなことを気にする様子もなくカレナと手を繋ぎサンドラの前に姿を現す。


「サンドラ、俺は堅物なお前よりこのカレナを愛しているんだ、婚約はなしだ。良いな!」


 サンドラはカレナを見て口角を上げた。マリアだと気がついたのだ。


「確かに、カレナ様は素敵な方です。あなたがそう言うなら従います」


 レオニダは満遍の笑みを浮かべカレナに言った。


「カレナ!あんな陰気臭い女とお前は比べ物にならない、俺のカレナ!!」


 近くで一部始終を見ていた両家の親は唖然とした。あまりに自分勝手なレオニダにサンドラの両親は怒りだし、レオニダの両親は顔面蒼白になった。


「レオニダ!?何を言っている?一体どうしたんだ?なんて事を言うんだ!!!」

 

 怒る両親を冷めた表情でみたレオニダは笑いながら言った。


「アハハ、俺はこのカレナを愛しているんだ。お父様、お母様わかってくれるだろ?サンドラはタイプじゃない!」


 その言葉を聞いたサンドラの両親は怒りで震え始める。その様子を見ていたサンドラは両親に向かって言った。


「お父様、お母様、婚約解消してくださいませ。このような仕打ちは到底許されるものではありません。それに、私はもう大人です。立派な大人です。自分の幸せは自分で探したいのです」


 サンドラは毅然とした態度で両親に語った。従うだけの娘だったサンドラが初めて両親に自らの気持ちを伝えたのだ。サンドラの震える手をみたカレナに変装したマリアはレオニダから離れサンドラの手を握り言った。


「レオニダ様。どこまでお花畑なの?サンドラ様より素敵な女性などいないのにそんなこともわからず自ら宝を捨ててしまいましたね。サンドラ様のご両親、もうサンドラ様に理想を押し付けないで下さい。危うくサンドラ様が不幸になるところだったのです。愛しているならサンドラ様を信じてくださいね」


 マリアはそう言ってサンドラに笑いかけ、会場から出て行った。


  * 


 翌朝。

 

「ソフィ!!!!」

 

 サンドラが現れマリアに抱きつき泣き出した。  

 

「ソフィ、ソフィ、ありがとう。ソフィ」


「サンドラ様、ようやく自分の人生を歩めますね」


 マリアもサンドラを抱きしめた。


「ソフィ……ごめんね。マリア」


 マリアはサンドラの言葉に驚き言葉に詰まった。サンドラがマリアと呼んだのだ。 


「サ、サンドラ様、今マリアって」

 

 マリアはクロード、タチアナ、サンドラ、そしてエリゼから本当の名前を呼んでもらったことがなかった。


「ごめん。ごめんね、マリア。今はこれしか言えない。ごめんねマリア」


 サンドラは悲しげな表情でマリアを見つめ泣いている。マリアも泣き出しそうになったが、堪えた。本当は一緒に泣きたい。けれど今泣いてしまえばこの先耐えられなくなる。込み上げる涙を飲み込みマリアは明るい声を出し言った。 


「サンドラ様、せっかく自分の人生掴んだのに泣いたらダメですよ。笑って!」


 サンドラはマリアの明るい声を聞きより一層罪悪感に涙を流した。何一つ罪のないマリアを裁判にかけ死刑判決を下した。マリアがソフィではないことはエリゼから聞いた。けれど本物のソフィ姫が見つかってもマリアを救うことは出来ない現実がある。その現実とはエリゼの秘密だ。

 

 助けてもらったマリアに何一つできない自分を情けなく思っている。だからサンドラが唯一できることは本当の名前でマリアと呼んであげることだけだった。


「ごめんね。マリア」


 サンドラはそう言って部屋を出ていった。


  *


その夜、 エリゼが現れた。


「ソフィ、話がある」

 

 エリゼとはあの夜以来だ。なんとなく気まずい。だがそれを気付かれたくないマリアは明るく振る舞う。 


「エリゼ様?こんばんは!今日の装いは素敵ですね!」


 エリゼは髪をオールバックにし正装姿だった。公務があるのだろう。


 赤のマントが目を引く。正統派というより,どこか妖しい魅力ある魔王のようだ。

 

「ソフィ、昨夜の、サンドラの元婚約者が連れていた女性はお前?」


 マリアはエリゼに見られていたと思わなかった。昨夜のパーティの招待客は多くマリアはエリゼの姿を見ていないのだ。だがエリゼはあの騒動を知っていた。


「エリゼ様?なんのお話しですか?私はここにおりました。本を読んでいたんですよ」


 マリアは済ました顔でテーブルの上の本をとり読みフリをし誤魔化す。


「ふーん、本?本当に?」


エリゼはマリアの答えに笑いを堪えるように言った。

 

「そ、そうです。本当に本を」


マリアは楽しげなエリゼの顔を見て戸惑う。レオニダを誘惑したことを秘密にしたかったのだ。

 

「プッ、ソフィ、本が逆さだぞ」


エリゼは吹き出しながらマリアに言った。

 

「ハッ!しまった、いえ、あ、実はさかさよみを研究して、博士号まで取る勢いで、」

 

 マリアは慌てて本を閉じ手振りを交えながらエリゼに説明する。エリゼはそんなマリアを見て微笑みを浮かべる。だがその瞳はマリアを疑うように見ている。そんなエリゼを見て誤魔化せないと悟ったマリアはため息を吐き言った。

 

「はぁ。エリゼ様には敵いません。嘘ついてすみません。カレナは私です」


 マリアは降参したように両手を上げエリゼに言った。


「ソフィ、レオニダを誘惑したと聞いた」


 エリゼはマリアを見つめ言った。

 

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