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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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花の香り

「け、結構暗いですね……」


 マリアは手のランプを少し上に掲げ、奥を照らそうとしたが漆黒の闇にランプの光は役立たなかった。

 結局圧倒的な闇に敵うものはそうそう無い。マリアは固唾を呑んだ。


「ソフィ、怖い?」


 エリゼは怖さを隠しきれないマリアを見て笑いながら言った。


 (確かに怖い、怖いけど……)


 マリアは少し間を開けエリゼに答える。


「人間の怖さよりは……マシです」

 

 その言葉にエリゼは驚いた表情を浮かべる。


「どうしてそう思う?」


 マリアはその言葉を聞き、ソフィ姫のことをエリゼに話そうと顔をあげた。 


「エリゼ様、ソフィ姫は悪女じゃないと思います」


「……なぜ?」

 

 エリゼはマリアの言葉を聞き驚いたような表情を浮かべた。


「私のいた世界では人の噂が一瞬に世界中に伝わる技術があって、悪意のある嘘が人を殺す事が度々起きます」


 マリアはエリゼの表情を見て何かが引っかかった。だがそのまま話を続ける。

 

「ある人は殺され、ある人は自ら命を絶つ。でも、最初に噂を流した人は軽い気持ちで、例えば上司に怒られたとか、そんな感じで始めるけれど、全員が全員、その軽い気持ちで始め、その噂が一人歩きをし真実ではないのに結局、真実に変わるのです。人の心の中で」

 

「……」


 エリゼは何も答えず黙っている。

 

「それで、この世界でも同じ事が起きたのではないかと思い始めています。なぜならソフィ姫と実際に関わった数少ない人達は皆ソフィ姫を大切に思っています。そんな人間じゃないと、皆口を揃え言います」


 マリアは黙って話を聞くエリゼを見つめ話を続ける。エリゼがこの話をどう感じているのか全くわからない。だが話さなければならないと感じている。


「それに、皆さんから、マリアが身代わりで良かった、と、言われました。あ、この言葉に深い意味はありません、そう思えるほど愛されていた人だという意味です。」


 黙って聞いていたエリゼは小さくため息を吐き口を開いた。

 

「ソフィはどうやって調べた?」

 

 マリアはエリゼの重々しい口調に胸が詰まる。その理由はわからない。


「……私は意外に人と仲良くなれるタイプです。このお城で働いている人達や、その家族から聞きました。それを分析し、出した私の結論はソフィ姫は良い人だと言うことです」


 エリゼはその言葉を聞き、厳しい表情を浮かべた。そしてまた深いため息を吐き言った。

 

「……そうか。それでどうするのだ?」

 

 エリゼの言葉に戸惑う。どうするのだ?その質問の真意が掴めない。 


「どうする?何をですか?」


 マリアは首を傾けエリゼに聞き返す。胸にモヤモヤとした気持ちが広がる。

 

「ソフィ姫が見つかったらお前はソフィ姫を差し出すのか?」

 

 エリゼの口調強いにマリアの心は冷えてゆく。

(なぜそんな言い方をするのだろう?)


 マリアは戸惑いながら答える。


「差し出す?……そういうことになるのですね……わかりません。今はまだ何も……」


 そう言いながらマリアは立ち止まった。


(本音を言った方がいいのだろうか?)


 マリアは深呼吸し、話を続けた。


「だけど、ソフィ姫の事を知れば知るほど、無力感を感じています。助けて!って言えば良かったのに、と、人は言うかも知れませんが、本人は海で溺れている状況で助けても言えない。誰かが気が付き助けてあげたくても、どうしようのないことろまで来てしまっていたら……逃げたくなる気持ち、わからなくもない……」


 マリアは真っ暗な天井を見上げ、エリゼを見つめた。

 

「……ソフィ、お前は……」


 エリゼがマリアに声をかけた時、闇に白い人影が横切った。


「エリゼ様!人影が!!」


 慌てるマリアにエリゼは言った。


「ソフィ、ここで待ってろ!」


 エリゼはそう言って漆黒の闇に消えていった。そしてその後を二人の騎士がついていった。


「ひ、一人?!怖い。どうしようどうしよう」


 マリアは突然一人になり恐怖心に震え出す。ここで待つのも怖い、行くのも怖い。しゃがみ込み目を瞑る。しかし、管理棟の社員として職務を全うしなければ、とそんな気持ちも湧き起こる。


(今日こそ調べると決めた。だから行こう)


 マリアは恐怖を振り払うよう首を左右にふり、気合を入れ立ち上がった。ここで待つよりエリゼがいる方に歩く方が怖くない。そう思い歩き出した。暗闇を少し進むと音が聞こえた。ドアを開ける音だ。


(エリゼが部屋の中を確認している?急がなきゃ!)


 マリアは足速に部屋に近づいた時、先程の騎士に止められた。

 

「ソフィ様この先は危険ですからここでお待ちください」

 

(危険?危険なのに王様だけにしていいの?)


 ふとそんな疑問がよぎる。 


「でも、確認をしなければ、だから通して下さい」


 マリアは暗闇を見つめ騎士に言う。 


「出来ません、危ないですから」

 

 騎士はマリアの行手を拒むように立ちはだかる。


「でも、エリゼ様は一人で部屋に入ったんじゃありませんか?貴方達は王を守る人でしょ?」

 

 マリアは騎士の行動を怪訝に感じた。何かがおかしい。


「エリゼ様はお強い方です。ソフィ様をお守りするように仰せつかりました。」


 騎士はマリアを通さないよう廊下を塞ぐ。マリアはその行動に不信を抱く。


(何かを隠しているかもしれない)


 マリアと騎士達が押し問答をしていると、エリゼが戻ってきた。

 

「ソフィ?確認したが誰もいなかった。」


「あ、エリゼ様!!無事で良かった!」

 

 マリアは騎士を押し除けエリゼに駆け寄ろうとした時、暗闇で足がもつれ転びそうになった。

 

「あ!!」


 その瞬間エリゼがマリアを抱きとめた。

 

「あ、すみません!!」


 マリアはエリゼの胸に飛び込むような状況に慌てる。


「ソフィは目を離すと危なっかしいな!いつも見てないとだめだな!」


 エリゼは優しい微笑みを浮かべマリアを覗き込んだ。マリアはその微笑みを見て一気に顔が赤くなる。慌ててエリゼから離れ頭を下げた。

 

「すみません。気持ちが先走って……と、ところで、お部屋の中も人がいなかったのですか?」


 マリアは部屋を見つめながらエリゼに聞いた。


 「今確認したが誰もいない。先程の人影は説明がつかない現象だな」


 エリゼもマリアの視線の先を見つめるようにし、答える。

 

「お、お化けですか?……本当怖いです。成仏してほしいです」

  

 そう答えながらもマリアの気持ちは冷えていった。エリゼに抱き止められた時、エリゼから優しい花の香りがしたのだ。


(先ほど何も香りは感じなかったのに)


 マリアはスッキリしない心持ちに唇を結んだ。


 エリゼから漂うその香りは女性の香水の香りだった。

 

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