ソフィ姫の真実
(いつからだろう、エリゼを意識したのは。初めてあった時、私殺そうとした人なのに……でも殺さなかった)
マリアはソファーの上で膝を抱え初めて会った日のエリゼを思い出していた。
(裁判でも結局執行猶予つけてくれて、エリゼ達もソフィを探してくれている。探せなかったら王様をやめると言ってくれた。死なせたくないって思ってくれている?)
勝手な思い込みかもしれないが、そう考えると切なさで胸がいっぱいになる。けれど、マリアを殺そうとしたエリゼ。一番恋したらいけない人だとわかっている。だが、思えば思うほど止められなくなるこの気持ち。
(一体どうしたら良いのだろう?)
マリアは大きくため息を吐いた。
「これではダメだ。」
マリアはそう呟き、初心に帰るよう心を整え、ソフィの資料を読み始めた。
「あれ?」
読み進めるうちに違和感に気がつく。聞いた話と実際の話。聞いた話は全体の九割を占めているが実際の話は一割あるかないか位だ。
(これは一体……)
マリアは噂話に目を通す。噂話の全ては、ソフィ姫がメイドや使用人に対し酷い仕打ちをしたという内容だった。
『メイドがドアをきちんと閉めなかったので鞭打ちをした』
『時間に遅れた使用人の手を切り落とした』
『悪魔と契約している』
その全てが実際に見た、経験したものではなく、噂が元となる話だ。それも悪意のある噂話だ。それに比べ実際の話は数少ない。その全てが心温まるエピソードだ。
『風邪をひいたメイドにその場でストールを手渡し部屋に帰って休みなさいと言った』
そして、小さな文字でそのストールは今でも持っている、と書いてある。
『親が急病になり実家に帰る時にお見舞い金を手渡してくれたうえに、体に良いと言って珍しい果物を持たせてくれた』
そこにも嬉しかったと書いてある。
『会うたびにいつもありがとうと言ってくれる』
そこにも優しい姫だったと書いてあった。
(……ソフィは本当に悪女だった?)
マリアの中で疑問が生じる。噂話と実際の話があまりに違いすぎる。何を信じて良いのか混乱し始めた。だが解決策は簡単だ。数少ない実際の話を書いてくれたメイドや使用人に直接聞けば良いのだ。
マリアは早速行動に移した。実話を書いてくれたメイドや使用人は人目を気にしなかなか話をしてくれない。だが、マリアはそんな彼らに言った。
「毎晩管理棟で一人で勤務しているからよかったら尋ねて来てください」
そう言って親しみやすい笑顔を向ける。あとは気長に待つだけだと彼らが訪ねてくれるのを待ち続けた。
数日後、一人、二人と管理棟にマリアを訪ねる使用人が現れた。だが、どこか警戒心のようなものを感じ、マリアは自分からソフィ姫のことを聞かなかった。彼らが自ら口を開くのを待った。
そんなマリアに対し、彼らも警戒したわいのない話をしていた。マリアも笑顔を浮かべ彼らとの会話を楽しんだ。そのうちにマリアに対する警戒心が緩んだのか、ソフィ姫の話をしてくれるようになった。
次第に警戒していた他の使用人やメイドもマリアの元に集まり出した。
その全員が口を揃え話してくれたソフィ姫の実像は、噂とは真反対の人間だった。
ソフィ姫は優しくて聖女のような人間だった。
多くの誤解が生じ、ソフィー姫が悪女と呼ばれ処刑されると皆悲しんだ。だが、実際はソフィーそっくりなマリアが身代わりになり、安堵したと言った。その言葉に悪気はない。皆マリアにも生きて欲しいと言い、このままソフィ様にも逃げてほしいと願う。
だが、もしかしてマリアならこの運命を変えられるのではないかという希望も口にする。
マリアはその言葉を聞き複雑な気持ちになる。ソフィ姫は優しくて人に好かれる姫だった。
そんな姫が悪女と言われ、身に覚えのない罪のために裁判にかけられ処刑されるかもしれない。それを心底心配しこのまま本物のソフィ姫が捕まらないで欲しいと願う彼ら。マリアもソフィ姫と同じ目に遭っている。自分には非がない罪に問われ処刑されるかもしれない現実。
ソフィ姫もこの理不尽な現実に苦しめられ、マリアも全く同じ目に遭っている。
(なんだろう、この気持ち。理不尽極まりない現実を目の当たりにし、ソフィ姫に同情し始める)
マリアはなぜこんな状況になってしまったのかと、ソフィ姫の両親や友好関係を調べ始めた。必ずきっかけがあったはずだ。




