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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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手の甲にキス


 「あ、エリゼ様?いかがされました?まさか!あのカエル……エリゼ様のペット?それとも相棒!?」


 マリアは突然現れたエリゼに戸惑いながらも、わざとおどけたように笑い言った。暗い顔を見られてしまったかもしれないと思うと、それを誤魔化したい。マリアは両手を握り締め、取り繕うように笑顔を向けた。


「ハハハ、相棒ではないが、せっかくソフィが助けたカエルだ。相棒にしてあげようか?」


 エリゼはそう言って笑いながらマリアに手を差し伸べた。マリアはエリゼの手を見つめ、握りしめた手を緩める。けれど、どうしたら良いのだろう?この手に触れても良いのだろうか?


「……えっと……」


 マリアは戸惑った。複雑な心境でもある。が、それとは別な思いも込み上げる。正装姿のエリゼは眩しいほど素敵な王様だ。メイドのワンピースを好んで着ているマリアとは全く違う身分の人。それに、綺麗な姫と一緒にいたエリゼの手を掴んでも良いのだろうか、と考える。

マリアは緩めた手をまた握りエリゼを見つめる。


「一緒に中に戻りませんか?ソフィ様」


 エリゼはマリアの考えを察したように目を細め優しく微笑んだ。その微笑みに心臓が高鳴る。エリゼが眩しく見える。グローブをはめた手は大きいけれど、ゴツゴツとしていない。綺麗な男性は細部まで綺麗なのだと感心してしまう。


(この手に触れてみたい)


 マリアは今感じた気持ちに従うことにし、恐る恐るエリゼの手の上に自分の手をのせた。

緊張に指先が震える。触れた瞬間に鼓動が早く強くなる。

この手を通じときめく気持ちが伝わりそうで不安になった。それに、マリアの手は洗濯の手伝いであかぎれもある。爪も短くささくれもある。恥ずかしくなり隠すように指先を軽く曲げる。


 エリゼはそれも察したようにマリアを覗き込み優しく微笑み、その手を握った。


 その瞬間、マリアの顔はみるみるうちに赤くなり、意識している顔を見られたくないと下を向く。自分が自分じゃないと思うほど今のエリゼに心を奪われた。


 だが、目線を下げた時、先ほどの蛙が足元を横切り草むらに入って行くのが見えた。

(……カエルを握った手!洗っていない)

 急に現実に戻りマリアは慌ててエリゼの手を離す。

 

「ソフィ?どうした?」


エリゼは突然離された手をみて、首を傾けマリアを覗き込む。

(顔が近い!!)

マリアは高鳴る鼓動を抑えつつ、再びエリゼから目を逸らし、申し訳なさそうな表情を浮かべ言った。


「エリゼ様、手、手を洗っていません。カエル触ってそのままで、ごめんなさい!」


「ふふふ」

 その言葉を聞いたエリゼは楽しそうに笑い、再びマリアの手を握る。

マリアの心臓がドクンと跳ねる。


「エ、エリゼ様!?汚れますよ、あの、バイ菌、えっとこっちの言葉わからないけど、あの、その、悪いものがつきます!」


 マリアはそう言ってもう一度手を引こうとしたがエリゼはマリアの手を握って離さない。

慌てるマリアを見て目を細め微笑んでいる。マリアは震えるほどの緊張とトキメキを誤魔化すようにため息を吐き、エリゼに言った。


「……病気になっても知りませんよ?」


 そんなことを言いながら初恋をした時のような甘酸っぱい感情が胸に広がる。


「フフフ、なんか嬉しいな」


 エリゼは言った。その言葉にもマリアはときめく。けれどそんな気持ちを誤魔化すようにエリゼに言った。 


「嬉しい?カエルを触った手で触られて嬉しいなんて言う人そうそういませんよ!あ、だからエリゼ様は王様なのね」


 マリアは言った。


「どう言う意味?」


 エリゼはマリアと手を繋いだまま歩き出す。まるでデートのような甘くくすぐったい緊張感。


「人と同じことしても上に上がれないでしょ?エリゼ様はきっとに人を見ずに自分を見て努力して王様になったんですよね。だから感性が違う?そんなイイメージがあって」

 


「……そんな風に俺を見ているんだな。少し驚いた、いや、かなり驚いた。少しソフィを誤解してたかもしれない」


 

「あ、あの、誤解はよくされますから別に気にしないです。それよりも、さっきのお姫様、置いてきてしまって大丈夫でしょうか?」

 

 そんなことを聞きながら城に戻ったマリアは令嬢達の視線に気が付いた。皆エリゼを待っている。彼女達の憧れの人、エリゼを独り占めしてしまったと動きを止める。

(手を離さなきゃ)

 マリアは手を引こうとしたが、エリゼはその手を強く握る。視線が痛い。ただ、悪意はなさそうな視線に少し気持ちが落ち着いた。マリアが異世界の人間という事実は暗黙の了解になりつつある。罪人で身分も持たない人間だからライバルとしてみられていないのだ。一方、令嬢達はマリアだとわかると表情を緩めエリゼを見つめ始めた。

 


「姫?ああ、大丈夫だ。俺はいつも興味ある方に行くからな。あの姫や令嬢達はそんな俺に慣れているんだ」

 

 マリアはエリゼの言葉を聞き、気持ちが冷えてゆくのを感じた。エリゼは人の気持ちを、恋心を大切に出来ない自分勝手な男だと感じたからだ。恋の多くは一方通行だ。けれど、自分を真剣に好きだと言ってくれる人には酷な話だ。その上から目線のような言葉に、マリアの心もズキっと痛む。


「エリゼ様、きっとそれは違います。慣れるなどありえません。お姫様や令嬢達は本気であなたを好きなんです。まるで彼女達が勝手に好きになっただけで自分はそうじゃないから別にいいだろう?って、そんな言葉に聞こえます。それを指摘した人間に対し、興味ある方に行く、と言われ喜ぶとでも思っていますか?そんな傲慢な王様を私は尊敬できません」


 

 マリアはそう言って握られている手を外そうとした。しかし、エリゼは離さない。


「離して下さい。私はこの世界の人間じゃないから、そのような考えが受け入れられないかもしれません」


「ソフィは俺のこと嫌い?」


「……いいえ、ただ、」


 

「ただ?」

 


「ただ、エリゼ様は真剣に人を愛したことあるのかなと、思ってしまいます」


「なぜだ?」


「興味ある者には優しく、無い者には冷たい。言い換えたら大切なもの、愛する人以外興味がないと、言っているように感じるんです」


 

「……そうか。そう見えるんだな。あながち間違ってはいない。」


 

 エリゼは言った。


 (間違っていない?愛する人以外興味がない?ってこと?一体誰?)

 

 疑問が矢継ぎ早に生まれるが、マリアはエリゼに聞き返すことが出来ない。その理由はショックだったからだ。 


「ソフィ?」


 エリゼは少し心配そうにマリアに声をかけて手を離そうとした。


 本当は嫌じゃない。ずっと繋いでいたい。


「そっか、エリゼ様。そんなエリゼ様が折角繋いでくれた手は大切にしないといけませんね!滅多にないことだろうから」

 

「……」


 エリゼは何も答えなかった。ただ、握った手は温かく、マリアの気持ちは虚しさを拭えない。


 重苦しい雰囲気が二人の間に漂い、マリアは耐えられなくなった。


「エリゼ様、ありがとうございます。ここで大丈夫です。」


 マリアは庭園の中心にある噴水の前でエリゼに言った。

 エリゼは何も言わずマリアの手を口元に持ってゆき手の甲にキスをした。


「!?」


 マリアはエリゼの行動に息を呑んだ。心臓がバクバクと音をたて、周りの景色がぼやけて見えた。夢を見ているような感覚に体が動かない。


 エリゼは驚くマリアに優しく微笑み、待機していた近衛兵と共に去っていった。 


  *

 

 マリアは部屋に戻り先ほどの衝撃を思い出していた。エリゼの言葉に衝撃を受けた後のあのキス。手の甲にキスをする意味はわからない。だけどこれほどときめくキスは初めてだ。


(あのキスは意味があるの?)


 マリアはあかぎれの手を見つめる。


(この傷だらけの手にエリゼはキスをした)


  思い出すと体が熱くなる。心臓が苦しい。エリゼの顔が頭から離れない。


 (最悪だ。一番好きになってはいけない人に恋をしてしまった)



 

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