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複雑な気持ち

「ソフィ、目を瞑って」

 エリゼは言った。その声は優しく、エリゼの吐息がマリアの肌を優しくくすぐる。緊張に体に力が入る。だがそれを悟られたくない。マリアはニヤリと笑い緊張を誤魔化すように言った。


「あー、エリゼ様。またデコピンするつもりでしょ?あれとっても痛いんですよ!」

「いいから目を瞑れ!王命だぞ」


 エリゼもニヤリと笑いマリアを見つめる。その顔も眼差しもマリアの心を掴む。胸の高まりはより一層激しくなり、エリゼに聞こえてしまうか心配になった。マリアはより一層声のトーンを上げ、言った。


「もーその為にフード外したんですね!うわー、絶対やめて下さい!」


そう言いながらもマリアは素直に目を瞑った。緊張でまつげが震える。息を止めデコピンの衝撃に耐えるよう奥歯を噛んだ。多少痛い思いをしてもエリゼとの楽しい時間を過ごしたい、そんな気持ちがマリアを動かしている。馬鹿みたいだと思いながらも、エリゼに惹かれる気持ちを止められない。

 

 エリゼはなんだかんだ言いながら素直に瞼を閉じるマリアを見て目を細めた。そしてその頬を両手で優しくつつむ。そのままマリアを見つめた。

 マリアも突然エリゼに頬を優しく触れられ緊張とときめきで体温が上がる。

(一体何が起きるの!?)

 言葉に出来ない期待と、緊張に耐えられなくなりマリアは目を開けた。


エリゼはマリアを見てニヤリと笑い、指先で両頬をつねった。

 

「ニャアにしゅるんでしゅか!!」

 マリアは目を見開きエリゼに言う。


「あははは!ソフィの頬は柔らかいから気持ちいいな!!」

 エリゼは笑いながら指を離した。その瞳は優しくマリアを見つめる。マリアの胸の鼓動はさらに大きくなる。

「ちょっと、エリゼ様?これはパワハラって言うんですよ!?王命とか言えばなんでも許されると思って!私は異世界の人間だから、上司からのパワハラで訴えますよ!!」


 マリアは頬をさすりながら顔を赤くし、抗議した。だが、その心中は違う。まるで友達以上恋人未満のような距離感にときめきが止まらない。


「すまない、ソフィがなんか可愛くて、愛情表現だ!」

エリゼはそう言いながらマリアの頭をポンポンと叩く。その手にも優しさを感じる。


「エリゼ様?こんな愛情表現じゃあ女性は逃げてしまいますよ?」

 マリアは喜びと恥ずかしさを隠すようにそっぽを向きエリゼに言った。


「ソフィ、この世界で俺が声をかけた女性は誰もが喜び、逃げるなんてなんてありえないぞ」


 エリゼはそう言ってマリアの頬に両手を当て、自分の方に向かせ悪戯っ子のようにマリアに微笑む。


「すごい強気の発言です!でも、まあ許されるルックスと財力。女性の気持ちもわからなくも無いですが、でも私は嫌です。だって王様って何人も女性抱えるんですよね?」

 マリアはエリゼの両手を払い少し距離を取り言った。

(これ以上近づくと危険。その中の一人でも良いと思ってしまう)


「ああ、最低でも五人位かな?一人はあり得ないな」

 エリゼは何故そんな質問を?というように首を傾げマリアに言った。この世界ではごく当たり前の事だ。政治的な結婚は当たり前だからだ。それに後継者の問題もある。男女問わず当たり前に受け入れていることだがエリゼにはその意味がわからない。


「うわぁ、絶対嫌です。私は私一人だけを愛してくれる人じゃ無いと無理です。そんなに心広くないですし、この世界の女性は忍耐強いと思います」

 マリアはエリゼのその考えに内心がっかりした。そんんなものだと思いたくないが、エリゼにとって愛や恋は無駄な感情でなのかもしれない。


「そうなのか?……ソフィは面白いな!」

 エリゼはそう言ってマリアを見つめ微笑んだ。マリアはその微笑みを見つめ複雑な気持ちになる。今マリアが感じたときめきや喜びはエリゼにはないのだと突きつけられたように感じた。エリゼにとって当たり前だがマリアは特別でもなんでもない。大勢の中の一人、いや、それよりも下、殺そうとしていたから、そんなランクにも入っていないのだ。


「ゴーン、ゴーン、ゴーン」


突然頭上から鐘の音が聞こえた。


「あ、いっけない、私勤務中でした。もう交代の時間、私戻りますね」

 マリアは複雑な気持ちを振り払い、立ち去ろうとした。ショックを受けている顔も見られたくない。


「待て、ソフィ、お前は仕事をする必要はない。金が欲しいなら自由にできる金は渡す」

 エリゼは立ち去ろうとしたマリアの手を掴み言った。エリゼの手の温かさが今のマリアには少しだけ悲しく感じる。だが、それはエリゼには関係がない。マリアは振り返り笑顔を浮かべエリゼに言った。


「エリゼ様、私のいた世界は皆それぞれが生きるために真剣に働いています。働かざるもの食うべからずと言うことわざもありまして、、」


「お前は働きたいのか?」

 エリゼはマリアの手を強く握る。マリアはエリゼが何故そんなことをいうのかわからない。それに、感覚が違うエリゼに甘えたくない。

「あと一年しかない時間の中で、自分が欲しいものは自分の手で掴みたいと思っています。私のいた世界では男の人に貢いでもらう人もいますけど、その人たちも貢いでもらうなりの努力してますし、私はそういうのよりも地道に、仕事がしたいと思っています」

 マリアはそう言いながら握られた手を引いた。


「……わかった。ソフィが好きにするといい」

 エリゼは諦めたようにため息をついた。マリアは唇を結び頭を下げ、管理棟に走り去った。

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