表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛されてはいけない理由  作者: ねここ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/45

判決


 翌日の裁判は打って変わってスムーズに行われた。


 昨日の奇妙な格好ではなくシンプルなドレスを着て無表情のマリアが淡々と進んでゆく裁判と判決を受け入れていた。


 何一つ身に覚えのない罪だが、甘んじて受けるしか選択肢がない。

 毎日毎日裁判を受けるうちになぜかその運命を受け入れるような気持ちになってゆく。

この心境の変化はマリアが人生を諦めたからだ。


 人生を諦めたのは二回目。

 全て受け入れ楽になりたい。


 

「ソフィ姫、異議はありませんか?」

 裁判長が声をかける。

「はい。ありません。」


 マリアは事務的に答える。

この言葉何度目なんだろう。罪があまりに多く,マリアには何の罪を犯しているのか全くわからない。が、わかったとしても意味のないことだ。だから異論はないと答えるしかない。


 部屋に戻り、あとどれくらいここにいられるのだろうと思いながらベットにうつ伏せになった。

 ここにはマリアが死んでも悲しんでくれる人もいなければ気にしてくれる人もいない。本当はどこに行っても同じ。


 場所が変わっても、何も変わらない一日が流れてゆくだけ。


 

 眠っている時に過去の夢を見た。辛く暗い過去。けれど、今も同じ。過去は過去だからと切り離せるものではない。マリアは夢の中で泣いた。

ふっと暖かい指がマリアの頬に触れる。誰かが優しく涙を拭ってくれる。そんなことをしてくれる人はどこにもいないはず。


 マリアはゆっくりと目を開けた。目の前にいるのはエリゼだった。エリゼはマリアの頬を伝わるなみだを指で優しく拭っている。

(そんなハズある訳がないこれは夢)

 マリアは再び瞼を閉じた。


  *


 二週間ほど続いた裁判は本日判決が出て終わる。


 マリアは今日死ぬ日だと思っていた。おそらく死刑になる。

だが、だからといって特別なことは何一つなく、いつも通り裁判所に出かけ被告人として中央の席に座った。


「国を混乱に貶め国民を裏切り己の欲求だけ満たしてきたソフィ・アメーリア姫は死刑とし、執行猶予を一年とする」


 裁判長が判決を述べた瞬間、民衆は総立ちし拍手をした。


 マリアはそれを眺めながらこのソフィはここまで嫌われるって一体どんな姫だったのだろうと思っていた。嫌われるにも程がある。死刑が決定し、それを喜んだ人々が総立ちし、拍手までしてもらえる悪女。


「ソフィ姫よ、何かありますか?」

裁判長がマリアに声をかけた。

「……執行猶予はいりません。思い残すことはありません。今日執行して下さい」

マリアは言った。見知らぬ異世界のこの状況で、一年間だけ生かされその後死刑になる。死ぬという未来が決まっている中で一年も恐怖に耐えながら生きるなど考えられなかった。

 

「なんと!」

マリアの言葉に会場は騒ついた。民衆はその言葉に興奮し、誰かが「死刑!死刑!」と叫び、周りの人間も一緒に叫び始めた。


「静かに!」

 エリゼが立ち上がって言った。エリゼの声が裁判所内に響きわたる。先ほどまで興奮していた民衆たちはエリゼの一言で大人しくなった。


「刑の執行は執行猶予が終わってからだ。ソフィを連れてゆけ」

 エリゼはそう言って兵士に指示を出し裁判所から去って行き、マリアはまた城の部屋に戻された。


 これから一年ここにいるのだろうか?そんな事を考えていると外側から鍵を開ける音が聞こえ、エリゼたちが入って来た。



 

「ソフィ、ご苦労だったな」

エリゼが穏やかな笑みを浮かべマリアに言った。

マリアは何も答えず下を向いた。


「……あなた、偽物でしょ?」

タチアナが言った。


「……今更、どうしてそんなことを聞くのですか?」

 マリアが呟くように答える。

「どこから来たんだ?」

 クロードが聞いた。

「……ここじゃない世界……です」

 マリアはそう言って唇を結んだ。

 

「違う世界?どんな世界なんだ?」

 クロードはそんなマリアを見ながら興味深そうに聞く。


 裁判が終わり、急に優しく近づいてきたエリゼ達にマリアの気持ちは波だった。 

「……少なくとも、犯人じゃない人を裁判にかけて死刑にするこの世界よりマシな世界です!!」

 マリアは我慢の限界に達し、顔を上げ怒りをぶつけるように言った。

(裁判終わって今更?そんな事を聞く?)

 

「そんなに怒らないで、ね」

 サンドラがマリアをなだめるように声をかけた。

 サンドラの優しい声に余計に腹が立つ。

(敵対心露わにしていた人達が今更何をいうの?)

「……怒ります、怒りますよ!本当、怒っています。だけど、もうどうでもいいですから放っておいて下さい」

 そう言ってマリアは俯き瞼を閉じた。もう何も話したくなかった。


「ソフィ、本来なら即死刑執行だが、なんとか執行猶予を付けたんだ。それはお前がソフィじゃないからだ」

 先ほどから黙っていたエリゼが口を開いた。だが、その言葉がさらにマリアの怒りに火をつける。 

「し、執行猶予つける前に冤罪ってわかっていて裁判するなどあり得ません。本当に怒りしか湧かない」 マリアは再び顔を上げエリゼに言った。

 

「そうだな、その件は前回話した通りだ。だけど我々としても本物を探したいんだ。その為一年期間を設けて一年以内で終わらせる」


 エリゼは下を向くマリアの頭に手を乗せてポンポンと叩きながら言った。 

「……一年以内に見つからなかったら?私は死刑ですか?」

 マリアはエリゼの行動に胸が高鳴る。

(こんな嫌な思いをしているのに……)

 マリアは一度息を止め、揺れる心を整えエリゼに聞いた。


「必ず見つける。見つけてお前を救うよ。それが出来なかったら、そうだな俺は王を辞めるよ」

 エリゼが笑いながら言った。

「エリゼ?何言ってんだ?」

 クロードが顔を顰め言った。せっかく苦労して手に入れた王座を手放すなど考えられないからだ。

「そうよ、それはありえないわ」

 サンドラとタチアナも言った。


「そう、あり得ない、と言うことは探すと言う意味だ」

 エリゼはそう言って目を丸くするマリアにデコピンをした。

「イタッ!!何をするんです?!これとっても痛いんですよ!!」

 マリアは額をさすりながらエリゼを睨んだ。


「ハハハ、ソフィは元気がいい方が似合う。あ、あと、明日からお前は自由にしていい。お前に二人兵をつけておくから安心して何処でも行っていい」


エリゼはそう言って立ち上がり、クロード達と共に部屋を出ていった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ