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【異世界ラブコメ】婚約者は塩対応なご令嬢  作者: 舞波風季


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第4話 ダンジョン運営と新たな目論見

 その日のゴーレムの検分(けんぶん)()え、俺達はダンジョンを出た。

 ダンジョン内の壁には等間隔(とうかんかく)にランタンが埋め込まれていて、暗すぎるということはなかった。

 だが外に出るとやはり陽の光が(まぶ)しく、しばらくは目が(くら)んでしまう。


「ゴーレムはどうでしたか?」

 トックが聞いてきた。

「そうね……入り口付近のゴーレムはもう少し戦闘力を下げたほうがいいかもしれないわ」

 テシリア嬢が少し考えてから答えた。


 俺も彼女と同意見だ。

 テシリア嬢はダンジョンに入ったときから軽々とゴーレムと戦っていたが、それは彼女が剣士としてかなりの上級者だからできたことだ。

 剣士としての経験が浅い者では、いきなり大怪我をしてしまう可能性がある。


「それと、ダンジョン内の(あか)りはランタンだけでなくて、光る種類の(こけ)があるといいと思うわ」

 テシリア嬢が続けて言うと、

「わかりました。設備担当の者に話しておきます」

 トックが答えた。


「で?」

 と、テシリア嬢は俺を横目で見て言った。

「……は?」

「何かある?」

 まさかテシリア嬢が俺に意見を求めてくるとは思ってなかったので、俺の返答は間の抜けたものになってしまった。

 当然のことながら、彼女の言葉には(いら)立ちが(にじ)み出ていた。


「えぇっとぉ……」

 俺は周囲を見回しながら考えを巡らせた。

「この(へん)に……なんていうか……」

 テシリア嬢は腕を組んでイライラと右の爪先(つまさき)をトントンと踏みならしている。


(やべぇ……めっちゃ(いら)ついた顔してる)

 俺はめげそうになる気持ちを(ふる)い立たせて続けた。

「そのぉ……休憩施設みたいなのがあるといいような気も……」

 まことに歯切れが悪い中途半端な言い方になってしまった。

(また、やっちまったかなぁ……)

 つい今しがた奮い立たせた気持ちが急速にしぼんでいく。


「そうね」 

 テシリア嬢は()()なく言った。

(え……?それって賛成してくれたってことでいいのかな……?)

 俺はどう反応すればいいのか迷ってしまったが、テシリア嬢は既にそっぽを向いて帰り支度を始めていた。


(まあ、反対されなかっただけでも良しとしよう)

 なんて考えながらも俺は、心の奥にじわりと嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。


 休憩施設のことはノール伯爵家出入りの商人に話をしてみることにした。

 伯爵家の資金で建ててもいいのだが、ダンジョンがあるのはアルヴァ公爵領だ。

 となれば公爵家が建てるのが筋だが、財政的に厳しいのは目に見えている。

 だからといって、伯爵家の資金で建てましょうなんてことになれば、公爵家に恥をかかせるようなことを、などと()らぬ軋轢(あつれき)を生み出しかねない。


 その点、休憩施設を商人にビジネスとして運営させれば、土地使用料や税金が公爵家に入ることになる。

 食事の提供や道具類を販売するようになれば、そこで働く者が必要になり、新たな雇用も生まれる。


(ちょうどいい機会だ)

 小さな種ではあるが、これがアルヴァ公爵領の人たちが豊かに暮らせるようになるきっかけになってくれればいい。


(いずれは俺も公爵領の経営を……って、いやいや、まだ決まったわけじゃないだろ!)

 そんな妄想にふけりながら、チラリとテシリア嬢を見ると、既に彼女は馬上の人となっていた。

(危ねえ……)

 冷や汗をどっさりかいた気分だが、妄想の端っこではテシリア嬢と俺が領地の経営のことで熱心に話し合う光景が見えたような気がした。


 こうしてダンジョンの運用が始まった。

 数日後には「魔王城攻略部隊員募集」がアルヴァ公爵領とノール伯爵領で公布された。

 募集手続はそれぞれの商工業組合が受け持った。


 俺とテシリア嬢、ゴーレム工房の者たちは毎日ダンジョンに出勤(?)し、新しい参加者と共にダンジョンに入った。


 一方、話をつけておいた商人ガルノーは、ダンジョン前の開けた場所にテントとテーブルと椅子で簡単な休憩施設を設置した。

「今、アルヴァ公爵様に出店の申請をしておりますので」

 と、やる気満々だ。いずれはそこそこの規模の商業施設を考えているようだ。


 ダンジョン挑戦者は日々増えつつあるが、皆が皆長続きするわけでもなかった。

 当初よりゴーレムの戦闘力を下げたとはいえ、やはりそれなりの訓練を受けたものでないと、入り口付近のゴーレムでも太刀打(たちう)ちできなかった。


 そうこうしているうちに早くも一ヶ月が経とうとしていた。

 その日も新しい挑戦者の付き添いで俺達はダンジョンに入った。

(今日のやつらは中々やるな)

 これまで水晶式ゴーレムと互角に戦える者は数えるくらいしか出ていなかった。

(そろそろ自律式ゴーレムと戦えるやつが出てきてほしいな)


 そして今日の挑戦が終わり、ダンジョンを出てテントで水をもらって一休みした。

 テントの脇では施設が建設中だった。とりあえずは休憩室を兼ねた飲食店を作るらしい。

(ダンジョンで汗を流した後にビールとかいいかもな……)

 なんてぼんやりと考えながら着ている服を見ると、あちこち破れてボロボロになっているのに気がついた。


(これもずいぶん着てるからなぁ……)

 防具として皮の胸当てや小手、(すね)当てを着けているが、こっちも傷だらけだ。

(そろそろ買い替えか……)

 と思っていると、誰かが俺の袖を引いた。

 見ると、ニルがミルク入りのコップを片手に持って、俺の袖を(つま)んでいた。


「どうした、ニル?」

「テシリア様も……」

「テシリア嬢も?」

「うん、お洋服が……」

 そう言いながらニルは、破れた俺のチュニックの袖を指さした。

「テシリア嬢も服が破れてるのか?」

 ニルはうなずき、

「ご自分で直してるの……」

 と言って俺をじっと見た。


(自分で直す……?)

 俺はニルが何を言わんとしているのか、すぐには(わか)らなかった。

 ニルはなおも俺を真剣な目で見ている。

(あ……!)

 そういうことか。


(でも、待てよ……)

 その気になればすぐにでもなんとかできる。

 陰キャブサメンコミュ障非モテの俺だが、今は一つだけ長所がある。

 俺の唯一最大の長所、それは……


 金ならある。


(うっわ、さいてーーー!)

 と、自分でも激しくツッコミたくなるような長所だが、事実だ。

 だが、考えてもみろ。もし俺が金に物を言わせて、テシリア嬢に贈り物などした日にゃあ……。

(地獄を見ること間違いなし!)

 (にら)まれるどころか、物理攻撃も飛んでくるだろう。

(どうすればいい?)

 俺は真剣に、眉間を(しわ)だらけにして(自分では見えないけど)考えた。

 隣りにいるニルも腕を組んで、

「うぅーーん……」

 と(うな)って、一緒に悩んでくれている。


 その時、この施設を運営している商人のガルノーがやってきた。

「ノッシュ様、いかがですか」

 髪の毛が寂しくなり始めた年頃の彼はそう言いながら、建設中の建物を手で指し示した。

「ん……?ああ、いいものができそうだな。期待しているよ」

 咄嗟(とっさ)に頭を切り替えて俺は答えた。


「ええ、いずれは各地の名産を取り揃えていきたいと考えております。どうぞご期待ください」

「各地の名産とはすごいな。運んでくるのも大変だろう」

「殆どは自由都市連合の港から運んできます。ただ……」

「ただ?」

「ここに来るまでには『大森林』を迂回しなければならないのが惜しいのですが……」


『大森林』とはアルヴァ公爵領南西部に広がる大きな森だ。

 ここと自由都市連合の港を直線で結んだ線より、大きく南に広がっているため、ここに来るには一旦大きく南に迂回しなければならない。


「『大森林』にも街道が整備されているだろう?」

 俺が聞くと、

「そうなんですが……」

「……?」

「従業員たちが、その……魔物を怖がってしまいますので」

「そういうことか……」


 アルヴァ公爵領は「魔王軍との戦場」というイメージが強く、未だあちこちに魔物が出没するのではないかと考える者が少なくない。

 だが、『大森林』ではここ十年以上、魔物の出現は確認されていないので公爵も警備隊を配備していない。

 魔物がいない場所に部隊を回すだけの余裕がないのだ。


「あんたは平気なのかい?」

 俺がガルノーに聞くと、

「私は魔物よりも追い剥ぎや盗賊のほうが恐ろしいですよ」

 苦笑いをしながらガルノーが答えた。

「確かにそのとおりかもな」

 そう答えた俺の頭に、ある考えが浮かんだ。


「とすれば、頼れる護衛が付けば、あんたも従業員も安心して『大森林』を通れるんじゃないか?」

「もちろんですが……頼れる護衛と言われても中々……」

「俺ではどうだ?」

「え……ノッシュ様を?」

「そう、俺とあと一人を護衛として雇ってもらいたい」

「護衛として雇う、のですか?」

「そうだ、報酬もはずんでもらいたい」


 そう言って俺は、隣で静かに聞いていたニルを見た。

 ニルは俺を見てニッコリと笑った。

(俺の目論見を分かってくれたようだ)


 あとは、この話をテシリア嬢が受け入れてくれるかどうかだ。

(大丈夫……だよな?)

 楽しみ半分不安半分で心臓をバクバクさせながらニルを見ると、美味そうにミルクを飲んでいた。

 そんなニルを見ていると、なぜかうまくいきそうな気がしてきた。

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