第28話 決着
(とにかく、まずは一体倒さないと!)
俺はまっすぐに右側の魔物に向かった。魔物は人間型の拳を突き出してきた。俺も負けじと拳を合わせにいく。
ガッ!!
「ぐっ……!」
(強い……けど負けてはいない……!)
だが、あっさりと勝てる相手ではないことが、この一撃でよく分かった。
などと考えているうちに左側の魔物も拳を撃ち込んできた。
それを左腕でガードする。
(一体ずつならなんとかなりそうだが……)
二体同時に相手するとなるとかなり厳しい。
オルダ達に手助けを頼めば勝てるだろう。だがオルダは俺に託してくれたのだ。簡単に諦めるわけにはいかない。
俺は一旦後ろに跳び退いて、魔物との間合いを取った。
そして、魔王の玉座に向かって右の奥をチラッと見た。
テシリア嬢が俺の母と二人で見守ってくれている。
(そういえば俺、今までテシリア嬢にいいところなんて一度も見せたことないな……)
ノールタウンの買い物では昼食の場所を決められずにオロオロしていたところを、兄のユアンに助けてもらった。
ボーロとの決闘では、かろうじて勝ったとはいえ全身ズタボロにされたうえ鼻を潰して、ただでさえブサイクな顔がより一層酷いことになった。
そして今回のことだ。テシリア嬢が魔物に拐われてしまうのを防ぐことができなかった。
注意深く警戒していれば防げたはずだという思いは未だ消えない。
(今度も結局だめなのか……)
という思いが俺の頭をよぎった。
魔物が間合いを詰めながら攻撃してきた。俺は後に飛び退いて再度間合いを取った。
(余計なことは考えるな……!)
魔王は玉座に座って肘をついている。余裕綽々といった様子だ。
そんな魔王を見て、俺はふと思いついた。
(この結界って魔術を発動した本人の魔王にも有効なのか?)
俺は魔術や魔力のことは殆ど知らない。
師匠のオルダは完全な物理攻撃タイプだ。母のメリアは魔力を使ってスキルを発動しているらしいが、詳しく教えてもらったことはない。
父に至っては戦うことよりもマッピングやアイテム管理の能力が高いタイプだ。
(いくらなんでも、かけた自分まで魔力無効化になるような術は使わないよな)
魔王がとても高い魔力を有しているということは、書庫で絵地図を探している時に読んだ書物で知った。
元々の魔力が膨大なので、影響があるといっても無視できる程度の影響なのかもしれない。
(確かめてみる価値はあるな)
二体の魔物との戦いはそう簡単に決着がつくようなものではない。
このままではいつまでたっても埒が明かない。
(やるだけやってみるか)
そう心に決めて、俺は右にステップしながら右側の魔物に向かって攻撃を仕掛けた。
そうすれば当然のごとく左側の魔物が右側に寄ってくる、と踏んでのことだ。
そして俺の予想通り、二体の魔物がほぼ同時に俺に向かってきた。
(いけるか……!?)
俺はすぐさまサイドステップで左側に跳んで、向かって来る二体の魔物を避けた。
(目指すは……魔王!)
俺はギリギリで左側の魔物の脇をすり抜けた。
と、思った瞬間、右の視野の端にチラッと影が見えた。
(……!)
俺が反射的に頭を左にずらした直後に、ギザギザした脚が俺の右頬をかすめた。
(くそっ……!)
右頬に痛みを感じて怯んでしまいそうになる。
が、俺は強引に痛みを無視して、魔王の玉座に突進した。
そんな俺を見て魔王は、ゆっくりと立ち上がった。
「中々やるねえ」
そう言いながら魔王は右手を開いて俺に向かって突き出した。
(魔術か……避けられそうなら避けよう……)
避けられなければ仕方がない、その時はその時だ。
俺は突き出された魔王の掌に拳の照準を合わせた。
「喰らえ!」
と言う魔王の声と同時に俺の顔面に強い風が当たった。真夏の熱風のような暑い風だ。
「「え?」」
俺の声と魔王の声がシンクロした。
(て、なんで魔王も”え?“なんだよ!)
と、俺は心のなかでツッコミを入れた。やはりこの結界は魔王自身にも効力があるようだ。
そして俺は、魔王の右手に拳を叩き込んだ。
構えていた魔王の手はあっさりと崩れ、俺の拳はそのまま魔王の顔面を直撃した。
「グァアアアアーーーーーー!」
俺の拳を顔面にまともに受けた魔王は、玉座ごと倒れて後に転がっていった。
俺は倒れた玉座を飛び越えて、倒れている魔王に次の攻撃を打ち込もうと屈み込んだ。
だが、
「ううっ…………」
意識はあるようだが、既に魔王は戦えるような状態ではなかった。
「えっと……」
俺は振り上げた拳のやりどころに困って、とりあえずは唸っている魔王の頭を殴った。
「うがっ……!」
という断末魔の声(死んではいないと思うが)を上げて、魔王はグッタリとなった。
すると魔王の間を覆っていた結界の光が消えた。
どうやら魔王が気を失って、効力が切れたらしい。
既に後ろからは戦闘音が聴こえていた。
「どぉおおりゃああーーーー!」
オルダの威勢の良い声が魔王の間に響く。
立ち上がって振り返ると、オルダとマリルが二体の魔物をほぼ戦闘不能状態にしていた。
そして俺は右を、テシリア嬢がいる方を見た。彼女は今も俺の母に寄り添われてこちらを見ている。
俺はテシリア嬢に向かって歩き出そうとした。だが、最初の一歩が出せなかった。
(俺が……俺にテシリア嬢のもとに行く資格があるのか……?)
確かに俺は魔王を倒した。だが、殆どはオルダ達六勇者がここまでお膳立てしてくれたからこそできたことだ。
(俺は最後の一発を入れただけなんだよな……)
カラン……
その時、魔王の玉座があった場所の方から音が聴こえた。
見ると、アリナが先程放り投げた魔杖を拾い上げたところだった。
アリナは魔杖を手にすると、俺の方に歩いてきた。
そして、
「行ってあげて」
と静かに微笑みながら俺に言った。
「はい……!」
俺はアリナの言葉に励まされ、ゆっくりとテシリア嬢のもとへと歩いていった。
その間、テシリア嬢は視線を外さずに、ジッと俺を見つめていた。
やがて、手が届くところまで近づくと、母がそっとテシリア嬢を俺の方に押し出した。
その時テシリア嬢は俺から視線を外し母を見た。
母は、アリナが俺に見せてくれたような微笑みをテシリア嬢に返している。
テシリア嬢が俺を見た。
俺の心臓は激しく鼓動している。きっとこの音はテシリア嬢にも聞こえてしまっているだろう、そう思えるほどの激しさだ。
(何か……何か言わなきゃ)
俺はもう一歩、いや半歩テシリア嬢に近づいた。
そして俺は次の言葉を言うために、大きく息を吸い込んだ。




