第24話 冒険者パーティ
(やっぱり誰も来ないか……)
俺はダンジョン前の休憩所で冒険者が来るのを待っていた。
昨日、王宮での会議が終わってすぐに、ガルノーに頼んで冒険者募集のチラシをノールタウンを中心に配ってもらってある。
刻限は今日の日没までにここ、訓練用ダンジョン前に集合することとした。
(まあ、そうだよな……)
『大森林』に魔物が出たという話は、もう広まっているだろう。
しかも、数名の重傷者が出たうえに、剣技では国内でもトップクラスのテシリア嬢が拐われてしまったのだ。
俺は隣でちょこんと座っているモフを撫でた。
(ニルにモフを残しておいてもらったのは正解だったな)
間もなく日没だ。俺は日没と同時に大森林を抜けてアルヴァ公爵領と魔王国の国境に向かうつもりだ。
そして、国境付近で仮眠を取り、明け方に魔王国に入る。
俺一人で行く以上、野営の見張りをモフにしてもらえるのは本当にありがたい。
(ちゃんと帰ってきて、ニルにモフを返せるだろうか……)
などという思いがよぎったが、すぐに俺は頭を振って、そんな考えを吹っ切った。
「さて……そろそろ日暮れだ」
俺は声に出してそう言い、椅子から腰を上げようとした。
すると、馬が近づいてくる音が聞こえてきた。
音がする方を見ると、
「冒険者を募っているというのはここかい?」
と、馬上の男が声をかけてきた。
やや後ろから夕日を受けていて顔ははっきりと識別できない。
だが、その声は間違えようのない、慣れ親しんだ人物の声だった。
「父さん!?」
俺は驚いて立ち上がって、椅子をひっくり返してまった。
「ん?なんのことだい?俺はノルデンというしがない冒険者だが」
そう言いながら俺の父は小さくウインクした。
すると父のすぐ後ろの馬から、
「私は冒険者のメリアよ」
と、父の背から顔を出して母が笑顔で言った。
「母さんも……!」
「あら、だめでしょ。ちゃんと自己紹介したんだから」
と、俺が小さい頃に母がよく見せた「めっ!」という顔で言った。
すると、別の馬もやってきた。
「なんとか間に合ったみたいだな。君はいつも準備に時間がかかるから」
「レディは身だしなみが大事なの、わかってるでしょ!」
そう賑やかに喋りながら来たのは、なんとアルヴァ公爵夫妻だった。
「やあ、冒険者のマルクだ、よろしく!」
「アリナよ」
「え……あの……」
俺はなんと言って答えればいいのか分からず、しどろもどろになってしまっていた。
「えぇっと……」
と、言葉を継ごうとしたたら、またもや別の馬がやってきた。
「なんだ俺達はびりっけつか」
「お主が二日酔いだなんだとうだうだしてるからだろうが」
と、言いながらやってきたのは、
「師匠!マリル様!」
もう、俺は何がなんだかわからなくなってきた。
「あの……これは……どういう」
馬を降りた六人の冒険者を前にして、俺はなんて言えばいいのか、懸命に言葉を探そうとした。
六人は穏やかな笑顔で俺を見てくれている。
そして俺は深く頭を下げた。
「あ……ありがとう……ございます……」
俺にはそれしか言えなかった。足元にポツポツと涙がこぼれ落ちた。
「まだ涙は早いぞ」
父が俺の肩に手を載せて言った。
「そうよ、大変なのはこれからよ」
母はかがんで俺の顔を見ながら言った。
「……はい」
俺は目を拭いながら言った。
「君には本当に感謝しかないよ」
アルヴァ公爵が言った。
「ええ、本当にありがとう」
アリナも優しい笑顔で言った。
「いえ……感情にまかせて突っ走ってしまって……」
考えなしな自分に恥ずかしさを感じながら俺は言った。
「そこがお主の良いところでもあるからの」
マリルが言うと、
「うむ、さすが俺の弟子だ!」
「なんでそうなる」
オルダの言葉にマリルがすかさずツッコミを入れた。
笑いが起こり俺も釣られて笑顔になった。
「それでは、出発いたします」
俺はそう言いながら、懐から魔王城までの道筋が描かれた絵図面を取り出した。
ノール伯爵家の書庫にあったもので、三十年前に描かれたものらしい。
「懐かしいな、その絵図面」
「そうねえ」
俺の手元を覗き込みながら父と母が言った。
「父さん達もこれを使ったことがあるんですか?」
「もちろんだ、そもそも俺が描いたんだからな、それは」
父がサラッと言った。
「ええーーーー!?」
俺が驚きの声を上げると、
「あなたのお父さんはマッピングが得意だったのよ」
と、母が誇らしげに言った。
「まあ、俺は戦闘ではあまり役に立てなかったからな……」
「もう……拗ねないの!」
(魔王城までの道筋の絵図面を描いたって……思いっきり当事者じゃね?)
その時俺の頭に言葉が浮かんだ。
「三十年前の魔王国戦争」
「選ばれた六人のパーティ」
(六人……)
「あの、もしかして……」
「なあに?」
「三十年前の魔王国戦争の時の選ばれた六人のパーティって……」
「ええ、私達のことよ」
俺の問いに、母が至極当然のことのように言った。
「六勇者なんて言われてたんですよね……?」
驚き冷めやらずに俺が聞くと、
「うーーん……それはちょっと大げさだなぁ……」
オルダが言うと、
「別にいいではないか、お前は勇者だったんだし」
マリルが事もなげに言った。
「師匠が勇者ですか!?」
俺が驚いて言うと、
「そこで驚くんかい!」
と、オルダがツッコミを入れてきた。
だが、すかさず、
「まあ驚くだろうな」
「そうよねえ」
「うふふ」
マリル、アリナそして母に返された。
するとオルダは、
「別に俺だって特に勇者になりたかったわけじゃないし歳が一番上でパーティリーダーだから自動的に勇者にされたってだけだし」
と、早口でブツブツと言った。
「さっきから気になっていたんだけど、この白くて大きい子は何?」
アリナがモフを興味深げに見ながら言った。
「あ、これはゴーレムマスターのニルという女の子が造ったオオカミ型のゴーレムのモフです」
「まあ、これがゴーレム!?」
そう言いながらアリナはモフを撫でた。
「モフモフだからモフね」
「ふむ、なかなかの触り心地だな」
母とマリルもモフを撫でながら言った。
「ゴーレムだから眠ることがないので、野営の見張りをしてくれます」
俺が言うと、
「「「おお、それは素晴らしい!」」」
と、父とマルク、オルダが同時に言った。
(なんだかこの六人パーティの力関係が分かった気がする……)
そんなことを思いながら俺は改めて六人を見た。
(ん……?アルヴァ公爵夫妻、ノール伯爵夫妻……師匠とマリル様は……)
「あの、母さん……」
「なあに?」
「えと、なんていうか……」
「?」
「母さんと父さんは夫婦で……アリナ様とマルク様もご夫婦で……とすると……」
「ああ、そういうことね。ですってよ、マリル、オルダ」
母がマリルとオルダに振った。
「うむ、俺とマリルは恋人同士だっ!」
と、オルダが言うと、
「元だけどな」
すかさずマリルが切り替えした。
「ええ?ずっと恋人同士でいようって言ったじゃないか」
「またその話を蒸し返すのか?」
「スンマセン」
(なんか色々とありそうだな……)
こうして俺はテシリア嬢を救出すべく、伝説の六勇者(と呼んておく)と共に魔王城へと向かったのだった。




