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第2話「誰が一番ヤバいか選手権」

放課後の自販機前。俺と田中、佐藤の三人組で缶ジュースを飲みながら、いつものくだらない雑談に興じていた。


「で、結局誰が一番ヤバいと思う?」田中が口元を緩めて言った。


「そりゃお前、ナオだろ」佐藤が俺を指差す。「昼休みの発言聞いただろ。情報量が多いって何だよ」


「俺は正直なだけ」俺は缶コーヒーを一口啜って答えた。「お前らだって同じこと考えてたくせに」


「考えてても口に出さないのが普通の人間なんだよ」田中が笑いながら言う。


「じゃあ田中はどうなんだ。この前、図書委員の山田さんの制服のサイズについて熱く語ってただろ」


「あれは学術的な観察だ」


「学術的って何だよ」佐藤が吹き出した。


そんな馬鹿げた議論をしていると、綾瀬が自販機に近づいてきた。いつものように軽やかな足運びで、小さな財布を手に持っている。


「何話してるの?」綾瀬が三人を見回しながら訊いた。


俺は特に隠す気もなく答えた。


「誰が一番ヤバいか選手権」


綾瀬は「ふーん」と言いながら、自販機に百円玉を投入した。ボタンを押して水のペットボトルが落下する音がする。それを取り出しながら、何気なく振り返った。


「それで、一番ヤバいのって誰だったの?」


その質問に、田中と佐藤は硬直した。俺も一瞬言葉を失う。綾瀬の表情は相変わらず無邪気で、本当に純粋に興味を抱いているように見える。


「え、あの、それは…」田中が口籠もる。


「まあ、そういう話だから」佐藤も曖昧に濁した。


綾瀬はペットボトルのキャップを開けて、一口水を飲んだ。そして満足そうに微笑むと、何も追及することなく歩き始めた。


「じゃあまたね」


そう言って、いつものように静かにその場を去っていく。俺たちは綾瀬の後ろ姿を見送りながら、しばらく無言でいた。


綾瀬の足音が聞こえなくなってから、俺はぼそりと呟いた。


「そういうとこが怖い」


田中と佐藤が振り返る。


「は?」


「なんでもない」


俺は缶コーヒーを飲み干した。


「……あいつ、たぶん分かってる。分かった上で、あえてストレートに訊いてくる。…で、俺たちが困ってるのを見て楽しんでる」


なんて言えば、佐藤が「綾瀬ちゃんがそんな腹黒いわけない」とか言うんだろうな。


だからこそ怖いんだよ。俺は空き缶を自販機横のゴミ箱に投げ入れた。


あのタイミングで現れるのは偶然にしては出来すぎてる……いや、ただの俺の被害妄想かもしれない。でも、もし違ったらと思うと…


田中と佐藤の声が響く中、黙って考え込む。


綾瀬は俺たちが一番油断してる時に現れて、一番痛いところを突いてくる。しかも笑顔で。


「おーいナオ、帰るぞー」


田中の声で思考が途切れた。俺は鞄を肩にかける。


その場を離れながら、木漏れ日の揺れの中に遠ざかっていく綾瀬の姿が、脳に焼き付いている。思わず、もう一度その方向を振り返る。あの小さな背中に、どれだけの計算が隠されているのだろうか。


それとも本当に何も考えていないのか。どちらにしても、俺にとっては同じくらい恐ろしいことだった。

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