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プロローグ
ローザリア地方――それは、血に染まった薔薇の名を戴く地。
かつて、この地には美しき薔薇が咲き誇っていたという。けれども、太古よりこの地は争いの絶えぬ群雄割拠の戦乱の地であり、肥沃な大地の少なさを巡って幾多の血が流された。
やがて、戦で散った命の赤こそが真の薔薇であると皮肉られるようになり、誰からともなくこの地を「ローザリア」と呼ぶようになった。
それから長い年月を経て、十年ほど前――ローザリアには一時の静寂が訪れた。中央に位置するフェイミリアム公国が盟主となり、各公国に不戦同盟が結ばれたのである。
その裏には、ひとりの若き騎士の存在があった。白銀の鎧を纏い、戦場を駆けた彼の名は――
クラウス・アシュノッド。
かつて「白獅子」と呼ばれた、伝説の名将。
彼の死とともに、平穏は終わったわけではない。
だが、“彼の不在”が、再び物語の幕を引き裂く。