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8 剣士への道は遠く

翌朝、俺たちは 鍛冶屋の前に立っていた。


いや、正確には 筋肉痛と疲労で這うように辿り着いた というほうが正しい。


「お、おい、ユウキ……」


「……ああ、分かってる……」


「俺たち……昨日の修行のせいで……もう足が動かねぇ……」


「……腕も上がらねぇ……」


俺とフィンは ゾンビのような動き で互いを支え合いながら、どうにか鍛冶屋の敷地内へ入った。


「おっ、来たか」


待っていたゴドリック親父は、朝から 妙に上機嫌だった。


「お前ら、なかなか根性あるな。普通なら昨日の時点でギブアップしてるはずだ」


「ギブアップ……したかった……」


「でも、ここでやめたら負けた気がする……」


俺たちは 筋肉痛に痛む足をプルプルさせながら、 なんとか踏ん張る。


「フン。まあ、よくやった」


親父は 満足げに頷くと、木剣を手に取った。


「今日から 実戦形式の訓練 を始める」


「実戦形式!?」


俺とフィンは、痛む体を引きずりながらも 一気に目を輝かせた。


ついに。


ついに俺たちは、剣を使った戦いを学べるのだ。


「よっしゃああ!! ついに俺たちの 剣士としての第一歩 が!!」


「なあ親父、まずは どんな技を教えてくれるんだ!?」


「ふむ……」


俺たちは 期待に満ちた目 で親父を見上げる。


が。


親父は、 ニヤリと悪い笑み を浮かべた。


「まずは、お前らに……」


「お前らに……?」


「俺が相手をする」


「……は?」


俺とフィンの 目が点 になった。


「親父が……俺たちの相手を……?」


「当たり前だ。いきなり技を教えたところで、 お前らのヘナチョコな腕じゃロクに使えねぇ」


「そ、そんなことないぞ!!」


「そうだ! 俺たちは昨日の修行で成長したんだ!」


俺たちは 木剣を握りしめ、勢いよく構えた。


すると――


ドン!!


衝撃が走った。


「ぐおっ!?」


「うわあっ!?」


次の瞬間、俺とフィンは地面に転がっていた。


親父は、たった 一振りの剣撃で俺たちを吹っ飛ばした。


「な、なにが……!?」


俺たちは 地面に転がりながら必死に起き上がる。


親父は 余裕の表情で木剣を肩に担いでいた。


「ほらな。お前ら、戦い方がなってねぇ」


「くっ……!」


俺とフィンは 木剣を握り直す。


「今度は……いくぞ!!」


俺たちは同時に突進し、親父に向かって 木剣を振るった。


しかし――


スッ――


気がつけば、俺の木剣も、フィンの木剣も 弾かれていた。


「そんなんじゃ話にならねぇな」


親父は、まだ 一歩も動いていない。


俺たちは 息を呑む。


「こ、こんなに……実力差があるのか……?」


「当たり前だ。俺はお前らが生まれる前から 剣を振ってんだ。 そんな簡単に勝てると思うな」


親父の声には、 余裕しかなかった。


「さあ、まだまだ続けるぞ」


親父は木剣を構え、 俺たちに本当の剣の世界を叩き込もうとしていた。


俺たちは、 本物の剣士 になるための 最初の試練 に立ち向かうことになった――。



「ぐっ……! まだだ、もう一回!」


俺は息を切らしながら木剣を握り直し、再びゴドリック親父へと向かっていった。


隣ではフィンも、地面に転がったままの勢いで起き上がり、負けじと親父に突っ込んでいく。


「おらぁ!!」


二人同時に木剣を振るう。


俺は右から、フィンは左から。


親父の左右を塞ぐようにして攻撃する、いわば 挟み撃ちの形 になった。


しかし――


「甘ぇよ」


バシィンッ!!


俺たちの剣が振るわれる 寸前 に、親父の木剣が 一閃 する。


俺の剣が 一瞬で弾かれる。


フィンの剣も同時に弾かれ、バランスを崩した俺たちは またしても地面に転がっていた。


「うぐっ……!?」


「ぐあぁっ!」


地面に叩きつけられた衝撃で、肺の中の空気が抜ける。


「お前ら……いちいち隙が多すぎる」


親父は 全くの無傷。


それどころか、未だに 一歩も動いていない。


俺とフィンは 肩で息をしながら 再び立ち上がる。


「くそっ……!」


「強すぎるだろ、こんなの……」


「バカ言え。これは まだ手加減してやってんだぞ。」


親父は 余裕の笑み を浮かべながら木剣を肩に担ぐ。


「お前らが今やってるのは ただの素人の殴り合い だ。剣術でもなんでもねぇ」


「なっ……!?」


「剣を持ってるのに、ただの喧嘩みたいに突っ込んでどうすんだ? そんな戦い方じゃ、相手の実力が自分より上だったら、一瞬で殺されるぞ」


俺とフィンは、親父の言葉に 息を呑んだ。


確かに。


今の俺たちは、ただ 勢いだけで剣を振るっている。


相手の動きを読もうともせず、ただ無防備に突っ込むだけ。


そんな戦い方では、熟練の剣士には到底敵わない。


「お前ら、いいか?」


親父は 俺たちの目を真っ直ぐに見つめ、低く言った。


「剣士ってのは、戦う前に 勝つ準備をする もんだ」


「勝つ……準備……?」


「そうだ。いきなり勢いだけで突っ込むんじゃなく、相手の動きを見て、どう戦うべきか考えろ。」


俺とフィンは 無言で頷いた。


「まずは、構えろ」


俺たちは、ゆっくりと 中段の構え を取る。


昨日必死に練習した基本の型。


しかし、実戦になると、それを 維持することすら難しい と痛感する。


「いいか? 剣を振る時は 手先だけでなく、全身を使え。」


「腰を回転させ、足の力を利用して打ち込むんだ」


親父のアドバイスを聞きながら、俺とフィンは再び前に出る。


今度は、ただ突っ込むのではなく、じっくりと間合いを計る。


すると、親父の木剣が わずかに動く。


「……!」


それだけで 心臓が跳ねる ような感覚が走る。


木剣の たった一振り が、自分を 地面に転がす威力を持っている ことを、すでに体が理解してしまっている。


「ビビるな、ユウキ!」


フィンが俺の肩を叩く。


「俺たちが負けるなんて決まってねぇ! いくぞ!!」


「……ああ!」


俺たちは、もう一度 親父へ向かって駆け出した。


しかし――


やはり親父は 一歩も動かず、俺たちを打ち倒した。


その後も何度も何度も挑み続けたが、俺とフィンが親父に 一撃でも当てることはできなかった。


最終的に、俺たちは 何度地面に転がったのか分からない状態で その日の稽古を終えた。


「……まだまだ、剣士にはほど遠いな」


親父は、そう言って 満足そうに笑う。


俺たちは ゼェゼェと息を切らしながら それを睨む。


「でも……」


「すげぇ楽しかったな……!」


フィンが ニカッと笑う。


「……ああ」


俺も、満身創痍ながらも 笑みを浮かべる。


ゴドリック親父は、俺たちのそんな表情を見て、また フッと笑った。


「いい根性してるじゃねぇか」


「じゃあ、明日も……?」


「当たり前だ。明日も、地獄みてぇな訓練が待ってるぞ」


俺とフィンは、ヘロヘロの状態のまま 拳を合わせた。


こうして俺たちは、 本物の剣士 になるための 第一歩 を踏み出したのだった。


それは、俺たちにとって 長く険しい道の始まり だった。

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