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7 剣を振る覚悟

この話から少しだけ1話あたりのボリュームを増やします。

ついに、俺たちは 剣を握る ことが許された。


それだけで、俺たちのテンションは 最高潮 だった。


「うおおおおお!! これが俺たちの初めての剣だ!!」


フィンは木剣を両手で掲げ、 まるで伝説の聖剣を授かった勇者 のような顔をしている。


俺も木剣を持ち上げてみたが、思っていたよりもずっしりと重い。


「おい、これ……結構重いぞ……?」


「そりゃそうだ。薪よりはるかに重いし、水の桶よりもバランスが悪い」


ゴドリック親父が ニヤリ と笑いながら俺たちを見下ろす。


「まずは、剣の基本を叩き込んでやる」


「よっしゃ! 早く教えてくれ!」


「剣の基本は 『構え』 だ」


「構え?」


俺たちはきょとんとした顔で親父を見つめる。


「剣を振る前に、まずは 正しい姿勢 を覚えろ。これができなきゃ、まともに戦うこともできねぇ」


「なるほどな! じゃあ、どんな構えがあるんだ?」


「いくつかあるが、まずは 『中段の構え』 からだ」


親父は俺たちに向き直ると、手にした木剣を スッ と正面に構えた。


剣先が真正面を向き、両足は肩幅に開かれている。


「こうすることで、相手の動きを 正面で受けられる。また、攻撃にも素早く移れる」


俺たちは必死に親父の姿を真似る。


木剣を正面に構え、足を広げる。


「いいか? 腰を落として、膝を軽く曲げる。背筋は伸ばすが、力は入れすぎるな。剣の先は相手の喉元を狙え」


「お、おう……」


やってみると、意外とキツい。


腰を落とした状態をキープするのが 地味にしんどい。


「そして、剣は ただ振ればいいってもんじゃねぇ。力任せにブンブン振る奴は、すぐに疲れるし、すぐに隙を見せる」


「そ、そうなのか?」


「じゃあ、どうすればいいんだ?」


「振るときは 体全体を使え。腕だけでなく、足、腰、肩……全てを連動させて、最小の力で最大の威力を出す」


そう言うと、親父は スッ と木剣を振った。


シュッ!


空気が裂けるような音がする。


俺とフィンは ゴクリ と唾を飲んだ。


ただの木剣なのに、親父が振ると 本物の剣のような威圧感 がある。


「すげぇ……」


「こんな音、俺たちの木の棒じゃ出せなかったのに……!」


「当たり前だ。お前らの振り方が デタラメだった からな」


親父は フッ と笑いながら木剣を肩に担ぐ。


「じゃあ、まずは 千回振れ」


「……え?」


「腕を落とすつもりで、千回振れ。できるまで帰らせねぇぞ」


「いやいやいや!! いきなり千回って!?」


「バカ言ってねぇで、さっさと振れ!!!」



それから数時間。


俺たちはひたすら 木剣を振り続けた。


「いち……に……さん……」


「ひゃ、ひゃく……もう無理……」


「甘ぇ! まだ百回だろうが!!」


ゴドリック親父の怒号が飛ぶたびに、俺たちは涙目になりながら木剣を振る。


腕が、痛い。


肩が、動かない。


「はぁ……はぁ……」


「おい、ユウキ……俺たち、マジでやばくね?」


「そろそろ腕が……千切れるかも……」


「情けねぇ顔すんな!」


親父が ガツン と地面を踏み鳴らした。


「剣を持つってのは、こういうことだ!! お前らが勇者になるってんなら、まずは自分の剣を まともに振れるようになれ!」


俺たちは必死に木剣を握り直し、再び振る。


「……ごひゃく……」


「はち……ひゃく……」


「せ、せん……っ!」


ついに、俺たちは千回振り終えた。


手のひらは真っ赤に腫れ、肩はもう上がらない。


俺とフィンは、地面にへたり込んだ。


「終わった……!」


「もう……ダメだ……」


「フン。まあ、よくやった」


親父が ニヤリ と笑う。


「よし。じゃあ、次は構えの訓練だな」


「……え?」


「お前ら、これから 中腰のまま一時間キープ しろ」


「いやいやいや!!!」


「そうだな……少し厳しいか? よし、剣を頭の上で構えた状態で一時間にしとくか」


「もっと厳しくなってる!!!」


俺とフィンは 絶望の叫び を上げた。


こうして、俺たちの 本格的な剣の修行 は 想像を絶する地獄 へと変わっていったのだった。






「はぁっ……はぁっ……」


「おい、フィン……お前、まだ……大丈夫か……?」


「だ、大丈夫なわけねぇだろ……っ!! これ、ただの拷問じゃねぇか……!」


俺たちは今、 頭の上で木剣を構えた状態で中腰のまま、すでに四十分が経過している。


地面にへたり込みたい。


足がプルプル震えて、もう感覚すらない。


肩はもう、腕の一部じゃなくなったんじゃないかと思うくらいに 痛みと重さで悲鳴を上げている。


なのに。


ゴドリック親父は 当然のような顔 で腕を組み、俺たちを見下ろしている。


「まだ二十分あるぞ。頑張れよ」


「ぐぅぅぅぅぅぅ……!!」


「くそっ……勇者ってこんなに辛いもんなのか……!?」


「甘ぇな。勇者ってのは、どんなにキツくても文句を言わずに戦うもんだ」


「そ、そんなの……聞いてねぇ……」


俺たちは震える足で必死に踏ん張りながら、ゴドリック親父を 恨めしそうに見上げる。


だが、親父の表情は変わらない。


「お前ら、口では 『勇者になる』 って言ってたが、勇者がどういうものか本当に分かってんのか?」


「え……?」


俺とフィンは、ハァハァと荒い息を吐きながら、親父の言葉を聞いた。


「勇者ってのはな、剣を振るだけの存在じゃねぇ」


「敵を倒して、強くなるだけでもねぇ」


「勇者は、人を救うために剣を振るんだ。」


親父の声が、低く響く。


「お前らが 剣を握る ってのは、そういうことだ」


「……!」


「強くなるってのはな、力を持つことじゃねぇ。誰かを守るために、自分の身を削る覚悟を持つことだ」


「覚悟……?」


「そうだ」


親父は、まるで遠い昔を思い出すような顔をした。


「俺もな、昔は剣を振って生きてた」


「剣で戦って、剣で金を稼いで、剣で人を守ってきた」


俺とフィンは 息を呑む。


ゴドリック親父は、昔 傭兵だった という話は聞いていたが、こうして本人から聞くと、何かが違う気がする。


「剣を持つと決めた以上、それを理由に死ぬ覚悟がなきゃいけねぇ」


「……」


「お前らは、そこまで考えて剣を握ってるのか?」


俺とフィンは、互いの顔を見合わせる。


剣を握る覚悟。


それは、俺たちがこれまで 考えもしなかったこと だった。


「俺たちは……勇者になるんだ……!」


フィンが ギリッ と歯を食いしばりながら言う。


「……そうだ。俺たちは、ここで諦めねぇ……!」


俺も、震える足をなんとか支えながら言い返した。


親父は、そんな俺たちを見つめ、ニヤリと笑う。


「……いい顔になったじゃねぇか」


そして。


「よし。終わりだ」


ズシン……!


俺とフィンは、その場に 崩れ落ちた。


「……お、終わった……」


「死ぬかと思った……」


地面に大の字になりながら、俺たちは 魂が抜けたような声 を上げる。


「フン。まぁ、よくやった」


親父はそう言って 木剣を取り上げると、軽く手入れをしながら続けた。


「これで、やっと剣を握る資格を得たな」


「え……?」


俺たちは、ハッとして顔を上げる。


「今までのは、剣を振るための準備だった。お前らはこれで、やっと剣士としての 第一歩 に立ったんだ」


「第一歩……」


「これからが、本当の修行だ」


俺たちは、思わず ゴクリと唾を飲む。


今までの 地獄のような訓練 は、まだ 準備 だったというのか?


「ふっ、ビビったか?」


親父が ニヤリ と笑う。


「ビビってねぇよ!」


「そうだ! 俺たちは勇者になるんだからな!」


俺とフィンは 同時に立ち上がる。


手は震え、足もガクガクしている。


それでも、俺たちは 目を輝かせていた。


「よし、いい根性だ」


「明日からは、実際の 剣の打ち合い をやるぞ」


「マジか!!」


俺とフィンは、思わず顔を見合わせた。


ついに。


ついに、俺たちは 本格的な剣の修行に入るのだ。


親父は、そんな俺たちを見ながら どこか遠くを見つめるような表情を浮かべた。


「……」


「……親父?」


「いや、なんでもねぇ」


親父は フッ と笑い、俺たちに背を向ける。


「明日は覚悟して来いよ」


俺たちは 元気よく頷いた。


こうして、俺たちは 本物の剣士になるための修行 に入ることになった。


そして――


この日の俺たちは、まだ知らなかった。


この訓練の果てに、 剣を振る覚悟 を試される日が訪れることを――。














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