0 プロローグ:運命の数値
プロローグ:運命の数値
――勇者になる。そう信じていた。なのに、俺は……。
王都の中心にそびえ立つ 神託の大聖堂。
千年の歴史を誇るその神聖な空間に、俺は立っていた。
石造りの壁には壮麗な ステンドグラス が埋め込まれ、太陽の光が万華鏡のように広間を彩っている。だが、それとは対照的に、広間を埋め尽くした人々の視線は氷のように冷たかった。
王国の貴族、騎士団の幹部、聖職者、魔導士たち――
彼らは神の審判を見届けるべく、この場に集っていた。
適性の石板 の前に立つと、喉がカラカラに渇くのを感じた。
巨大な 黒曜石の石板 は冷たい光を帯び、これから俺の運命を決めようとしている。
胸の奥に、不吉な予感が広がる。
これは、幼い頃から待ち望んでいた瞬間のはずだった。
ずっと剣を振り続け、強くなり続け、いつか「勇者」として名を馳せる日を夢見ていた。
だからこそ、俺はこの場にいる。
神官が厳かに告げる。
「ユウキ・アルヴェイン、適性の確認を行います」
俺はゆっくりと手を伸ばした。
指先が石板に触れると、ひんやりとした感触が掌に広がる。
次の瞬間、石板が青白い光を放ち、文字 が浮かび上がった。
【職業適性:魔王 0.001%】
――は?
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
喉が詰まり、言葉が出ない。
静寂。全員が息を呑み、世界が凍りついた。
視界の端で、貴族の一人が震えながら立ち上がる。
「……まさか……?」
誰かが小さく呻く。
そして、次の瞬間、爆発のような騒然 とした声が広間を埋め尽くした。
「魔王の適性だと!?」
「そんな……勇者を目指していたのではないのか?」
「だが、石板は嘘をつかぬ……!」
「魔王が誕生する可能性があるのなら、今すぐ処刑すべきだ!」
空気が一変した。
さっきまで俺に微笑んでいた騎士たちが、腰の剣に手をかける。
目を見開いた神官たちが、恐れに震えながら後ずさる。
貴族たちは、まるで忌まわしいものを見るような目で俺を見つめていた。
胸が痛いほどの動悸を打つ。
耳鳴りがするほどの騒音の中、俺は 現実を理解できなかった。
俺は……魔王なのか?
違う。そんなはずはない。
俺は生まれた時から勇者を夢見ていたんだ!
剣を学び、戦いの術を磨き、英雄になるために努力してきた。
なのに―― 神は俺を、勇者ではなく魔王だと告げたのか?
体が震える。
この場にいる全員が、俺を処刑しようと目を光らせている。
心臓が締め付けられ、汗が背筋を伝う。
誰かが叫ぶ。
「ユウキ・アルヴェインを拘束しろ!」
ザッ!
一斉に騎士たちが剣を抜き、俺を囲む。
「違う!」
俺は叫んだ。
「俺は魔王じゃない! 俺は勇者になりたいんだ!」
「問答無用!」
剣が煌めく。
鋭い刃が俺の喉元へと向かい――
――ドンッ!
突風のような衝撃が走った。
俺の目の前に、金色の影が飛び込んでくる。
その人物が 俺を庇い、剣を弾き飛ばした。
「……フィン?」
金髪の青年が、騎士たちに剣を向けて立っていた。
俺の幼なじみであり、王国の騎士見習い―― フィン・エーレン。
彼は息を荒げながら、叫んだ。
「ユウキを殺させるかよ! 俺の親友だ!」
「フィン、下がれ! お前まで反逆者になるぞ!」
騎士団長が怒鳴る。
だが、フィンは怯まなかった。
「ふざけるな! ユウキは魔王なんかじゃない!」
広間の空気が張り詰める。
剣が交差し、一触即発の状態。
フィンが俺に向かって 小さく囁く。
「ユウキ……ここから逃げろ」
「……でも、俺……」
「お前は生きろ!」
彼は強く言った。
「絶対に……お前が魔王になるはずがない! だから、お前自身で証明しろ!」
その瞬間―― 彼は剣を振り抜いた。
騎士たちの陣形が乱れる。
俺は無意識に 走り出していた。
背後で叫び声が聞こえる。
「捕まえろ!」
「逃がすな!」
俺はただ、がむしゃらに走った。
大聖堂の広間を駆け抜け、巨大な扉を 蹴破る。
光が目に飛び込んでくる。
王都の夜――冷たい風が俺を包んだ。
「クソッ!」
足は震えているのに、止まれなかった。
このまま捕まれば、本当に 処刑される。
俺は、勇者になるはずだった。
なのに、今の俺は 王国を追われる逃亡者 だ。
これは、俺の運命なのか?
――いや。
違う。俺が証明してやる。
俺は魔王になんかならない。俺は……勇者になるんだ!
そうして、俺の 運命への抗い が始まった。
初投稿です。ちゃんと完結できるように頑張ります。