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母犬をたずねて隣町

 菫の叔父、大次の友人宅は私も何度も前を通った事があった。田舎のこの辺にしては大きく、どの様な人が住んでいるのかとは思っていたがまさかさくらの母犬がいるとは思わなかった。世界は狭いということか。

 中の見える鉄格子の門は閉じていて、レンガで出来た塀にあるインターフォンを鳴らす。家が広いにしても応答に時間がかかり1分程で、大次だという事が分かると、そこからさらに数分して家の扉が開き私たちの前に現れた。

 「よお、どうした。その子達は?」

 出てきた友人とやらは門を開けるために私たちの元まで歩いてきた。急に来た大次と知らない男女2人に戸惑っている様子だった。まぁ、さくらを誘拐した犯人なら疑われていると察しているだろうが。

 「女の子の方は僕の姪っ子でさくらを飼ってるんだけど、母犬の話をしたら見たいって言ってきて、それでどうかなと思って、んで男の子はその友達。」

 「ああ、そう。いらっしゃい古谷です。さくらはねぇまだ小さい時に見せてもらったけどうちの楓と本当にそっくりなんだよ。」

 さくらの母犬は楓という名前なのか。という事に菫も気になっていたらしい。

 「楓って事は花の名前なんだ。どっちも大次叔父さんが付けたの?」

 「そうだよ、僕も兄貴も花が好きだからね。古谷ともよく植物園にも行ったりしてね。」

 大次さんの兄という事は菫の父の事か。確かに菫も花の名前だ。

 「そんな事もあったなぁ、昔の事だけどね。」

 

 大次さんは本来の目的を隠しつつ用件を伝えてくれた。私達は軽く挨拶し、門の内へ入れてもらう。庭には入って左手に葉の生い茂った木が一本生えていて、そのそばにある小屋の中で犬が飼われている様だ。犬用にしては十分豪華であろう。

 瓦屋根の木造の小屋はガラス戸になっており、開けると中は畳が敷かれ古い和室になっているが、今は物置も兼ねているらしい。積まれた雑誌や家具の向こうからさくらそっくりの柴犬が顔を出した。これがさくらの母犬とやらだろうか。飼い主の古谷さんを見つけるとすぐに寄ってきて擦り寄っていた。そしてつぶらな瞳でじっと私達を見つめ品定めをしているかの様であったが、気を許したのかもともと人懐っこいのかは知らないが、しゃがんで見つめ返していた菫のそばにやってきて素直に撫でられていた。



 そんなこんなで建前の要件を果たした私達はどう探りを入れようか考えていると、古谷さんから話しかけてきた。

 「さくらとそっくりでしょう。ほら、特にこのシュッとした耳や目元の柄がね。」

 大きさは少し違う気がするが、確かに私にも似ている事がわかる。飼い主の菫もそう思ったようで、

 「ほんとうにそっくり。あの子お母さん似だったんだね。」

と、さくらの面影を感じたのか呟いていた。


 さておき、この犬は似ているがさくらではない。ただ私の名探偵としての直感は言っている。彼、古谷はさくらを隠していると。

 改めて部屋の中を見回す、何か手掛かりは無いかと。平屋の、玄関とあと1部屋しかない小屋。動かずとも置かれた物に隠れたところ以外は見え、この和室に似合わない物があった。備え付けられたカメラだ。

 恐らくはペット用のカメラだろう。外には無かったし、部屋の中だけにつける意味も少ない。母屋の中からは見えないので、理由としては十分だ。直接聞けばいいのだが相手が犯人だとすると警戒されるだろう。聞く内容は大事なことに絞るべきだ。


 少し楓と遊んだ後、古谷はせっかくだからとさくらや楓の昔の写真を見せてくれると言い、母屋の方へも案内してくれた。

 楓を残し小屋を出た。母屋は門から見て正面にある。壁は白を基調として、屋根まで白く眩しい。これまた真っ白な扉を開くと玄関から広く、そこからドアを一枚隔てたリビングもまた外見と同じで、広くそして白かった。

 リビングの中心にはローテーブルが置かれており、それを囲うようにあるソファに私達は座らせてもらった。テーブルには写真の入ったファイルが開かれている。どうやら私達が来るまで見ていたようだ。

 開かれたページの写真には、先ほどの小屋のそばにあった木の下で1匹の犬が写っている。季節は春なのだろう。桜の花が満開であった。

 「どうだ、変わらないだろう。それはさくらを産んでうちに来たばかりの楓だ。」

 紅茶を高価そうなカップに注ぎ、私達の前に並べながら古谷が言う。まるでお金持ちの家に来たかの様な気分になってくる。

 「わぁ、今の楓もさくらにそっくりだったけど、この頃の楓は見分けが付かないくらいだよ。」

 「まあ年齢もその楓と今のさくらは同じくらいだからね。」

 写真では少し離れているが、私もそう思っていたところだ。菫がそう言うのであればやっぱりそうなのだろう。

 私達は他にも写真を見せてもらった。最初にはまだ産まれたばかりのさくらと写った楓、そこからは数年分の楓の写真があったが、今年の春に撮ったらしいあの桜の前に楓が写っている写真を最後に、そのファイルはまだ埋まっていなかった。


 写真を見終わった後は紅茶を頂きながら楓との思い出話を聞いたりしていたが、私達は一度家に帰る事となった。事は慎重に進めねばならない。得られた情報もあるのでさくらの行方について考える。菫もさくらのいなくなった不安の中、よくそれを隠していてくれたものだ。私にもそれを見せないが、気持ちを考えるとさくら探しも休憩した方が良いだろう。


 家に帰ってもまださくらの情報は無いらしい。それならばやはりまた古谷の家を探ろうと思う。

 彼は怪しいところがあったし、もうちょっと踏み込んだ事も聞いてみたい。今日すぐに行く訳にも行かないので、明日また今度は一人で向かってみる事にした。

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