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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
御家騒動
72/85

参 アカメ

解放された人々が門扉を跨いで帰っていく中、一人の男が乱暴に小突かれながら連れてこられた。


「ちょぉっ!ワイ味方やし、そない乱暴に扱わんとってや!」


様子から見るに売人の仲間かと思われるのだが、本人はそうは思っていないようだ。

美女の目の前まで連れてこられると(ひざまづ)き、うるんだ瞳で「千穐(せんしゅう)はぁん…」と哀愁を漂わせる。


(胡散臭っ)


房丸(ふさまる)などは思うのだが、美女は「丁重に扱ってやれ」と仲間に諭した。とはいえ、房丸の感性は間違ってはいない。

着ているものは長着(着物)らしいものなのだが、それはエンジ色に異国風の柄が施され、長着の下には動きやすい袴に近い衣服(ズボンっぽい)を履いており、その着用の仕方も含めて日本人ではない。何より、男の容姿が完全に異国人だ。彼は焼けてそばかすだらけの顔に赤に近い瞳を持っていた。それが、「せや、せやで!」と(なま)りのある流暢な日本語で喋るのである。


「アカメ」

男はそう呼ばれた。

「ほい」

「ご苦労だったな。民達は宣告通り渡せぬ。が、代わりに()()()を売りさばいてくれ。二束三文でも売らぬよりマシだろう」

美女は淡々と言った。これら、というのは勿論ふん縛れた売人たち。まさか己が売られる立場になるとは思わなかったのだろう。口を封じられてはいたが、ぶーぶーモガモガと抗議していた。

「ほんまに二束三文にしかならへんやん。ま、ええか。丈夫そうやし、肉体労働をさせるには持って来いや。教育を施せば通訳くらいできるかもな」

アカメはそう言って、美女の仲間に売物を運んでくれ、と目で合図する。

「ほいで?」

これでは足らん、とばかりにアカメが美女へ催促すると、女は懐から袋を出した。

「これが今回の報酬だ。見定めよ」

小さな袋に入れられていた何かをアカメは取り出して手の中でじっくり見極めている。房丸にはただの石ころにしか見えなかったが、アカメはニヤリと笑った。


「確かに、銀鉱石やな」


その言葉に美女が頷く。

「その価値に気づき始めた者もいる。買うなら今がいいだろう」


ここからは商談のようだ。


奴婢(ぬひ)は一番近い港から出すんやが、そこまで銀も運べるか?」

「無理だな。量は先に述べた通りだ。陸路で運べば関所を通過できんだろう。海へ出すなら田儀(たぎ)(出雲国の港)からだ」

「遠っ!それならもう少しかさ増ししてくれへんと割に合わんやん」

「ならば他へ売る」

「いやっ、ちょぉ、待った!」

「あちらにもお前の仲間の船が着港出来るだろう。手筈を整えろ」

「…分かったわい!でも他には絶対売らんでやぁ!少しでも耳に入れば群がってくるさかい…」

「分かっている」


どうやらこの場限りというわけではなく、知り合いのようだ。アカメは商人なのだろうか。しかし、なんやかんやと結局女の方が終始優勢なのが少し面白い。もしかしたら何か弱みでも握られているのかもしれないな、と房丸はぼんやり思っていると、視線がこちらに刺さるのを感じた。


「さて、」


美女がその鋭い眼光を房丸に向ける。

全ての段取りがここで一旦区切りがついたのだろう。女は予想外だった房丸の処理をどうするか考えているようだ。しかし、鋭い視線でも美女なのでくすぐったい。

「もう一度問う。お前は何者だ」

「何者って聞かれてもさぁ、何者でもないんだよ。名は子糸房丸(こいとふさまる)という」

「なぜここに」

「なぜって…」

言いかけて、また「だからド助平野郎(すけべやろー)ですよぉ!」との声が聞こえてきた。

声の主は塀の上から降りてきたようで、短弓を手にこちらに駆け寄ってきた。やはり、房丸の半分ほどの背丈しかない女児だ。

「外は篳篥(しちりき)竜笛(りゅうてき)が見張ってます。今のところ異常なし!ねぇセンシュウさま、コイツたぶん本当に何も考えずにセンシュウさまのお尻を追いかけていただけのド助平ですよ」

その言葉に房丸は口を挟んだ。

「なぁ、確かに下心があったのは認めるけど、ドスケベドスケベ連呼すんのやめてくんない?」

女児と美女に挟まれて蔑まれると、流石に傷つくらしい。

「この男もアカメに渡せば良いのでは」

そう言ったのは、美女の仲間らしき男。頭巾で顔を隠して目しか見えない。

「えー…、それは困るなぁ」

だが房丸の感想は無視された形で、美女は結論を出した。

「いや、連れてゆく。縄で縛れ」

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