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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
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参拾四 百鬼夜行

すっかり辺りが暗闇に没する時分、四本松城の(やぐら)門で見張り番が大欠伸をしながらぼんやりと今晩の酒の(さかな)は何がよいかなどと考えている最中にそれは起こった。


既に固く閉ざされた門の外側で、ポッと小さな青い明かりが唐突に浮き上がる。


無論、星ではない。

ちょうど正面の道のすがら、小さな炎がめらりと揺らぎ、辺りを照らす動きで門番が振り向く。


なんだ?


という声は上がらなかった。


その者が瞬きをした瞬間、その炎が眉間を貫いていたからだ。



ドシャッッッ


という鈍い音に、すぐ側にいた他の見張りが「?」と暗闇を探すと、櫓の人影が消え、そして青い炎がチロチロと柱に生えている。


「どうした?」


と声をかけた瞬間、その炎がワッと花開いて何かが出てきたのが見て取れた。

人ではない。炎の煙に混じるように大きく胡乱(うろん)な瞳がぎょろりと動いて、そこから(あやかし)が姿を現す。


「…あ、」


と言う間に大口がその者を喰らい尽くした。


声なき声でも異変は伝わるものだ。

何事か察した辺りの数人が門の周辺に集まると、鬼火がぼっ、ぼっ、と闇から生まれ、異形の妖たちがふわりふわりとと城へ舞い込んでくる。そのあまりの光景に絶句し、しばし声も出せないままに警備の者たちは固まってしまう。

そんな中、人影がふわりと櫓門に舞い降りた。



「ふん、最初からこうしておけばよかったのだ」



闇夜に怪しく照らされる狩衣(かりぎぬ)の男がたった一人。手を掲げると手のひらから無数の炎が飛び出し、そこからおびただしい妖が飛び出ていった。



ー 百鬼夜行乱



男はにやりと笑って、溢れ出てくるおびただしい妖の大群と、おののいて逃げ惑う者達の引きつった顔を悠々と見た。


「造作もない。こんな城、儂一人で壊滅じゃ」


大混乱に包まれてゆく城内を男は悠然と闊歩する。

四本松城は鎌倉時代に築城し使われなくなっていた古城を改築したものなのだが、まだその改築が終わっていなかった。そんな城への侵入も攻撃も、この男には容易いことである。

昼間、奉納試合で見事大男を討ち取った小汚い百性、キヨゾのときとは見違えるほど立派な狩衣を纏った闇の陰陽師、蘆屋(あしや)蝦蟇虫(がまむし)


目的は「宗音(そうおん)」だ。

数年がかりで仕掛けた若君殺しの呪いを跳ね除け、逆に術者である蝦蟇虫に呪いを返した生意気な若造を、圧倒的な呪術を見せつけながらなぶり殺しにせねば気がすまぬ。蝦蟇虫はくつくつと卑しい笑いを隠しもせず、堂々と城の奥へと進んでいった。


蝦蟇虫は、先日送った蛇の呪詛も宗音に邪魔立てされて失敗したと目していた。

長年興泰(おきやす)に送り込んでいた呪いを返され、今では蝦蟇虫がその呪いを受けて命が危ぶまれる状況だ。この呪いをさらに返すという、呪い返しのそのまた返しを蛇に込めて送り込んだはずなのだが、一向に蝦蟇虫を蝕む呪いは消えなかった。もちろん、こちらに再び返される予兆もない。

これはあの若造が何かしたに違いない。蝦蟇虫はそう考えた。


蝦蟇虫はこの道において、かつては京の都で名を馳せた陰陽師であった。

呪術において右に出る者はなく、呪殺の快楽に魅入られてからは師匠や同胞までも手にかけてしまったため、今ではこの辺境の地に追いやられてしまった経緯があるのだが、いつか再び力を蓄えて戻るつもりだった。

ド田舎の芋臭い若僧などに負けるつもりは毛頭ない。呪術合戦ならお手の物である。


「必ずや儂の受けた苦しみを全て宗音めに返してくれよう…!」



蝦蟇虫の考えでは、宗音を殺した暁には、当初の目的である興泰の首もさくっと掠め取るつもりでいた。

奉納試合後の宴が久兼(ひさかね)の館で行われている最中、領主及び親族と離れて一人でこの城にいる興泰は赤子同然に思えていたからだ。その首を捻るのは、蝦蟇虫にはあまりに簡単な作業である。

さらには、蝦蟇虫を軽んじたあの久兼重臣、名前を何といったか。もはや小物すぎて興味も湧かぬ。だがただでは置かぬと決めていた。

あの者の謀りに乗って回りくどいことをさせられた挙句、とんだ災難まで押し付けられた恨みは深い。

だからこそ、一思いに殺すなど容易い真似はしたくなかった。まずは若君の首を見せつけながら領主に全てを暴露し、信用を地に落としたところを絡め取って、呪術で死よりも恐ろしい地獄に突き落とす方がよほど愉快だ、と蝦蟇虫は考えた。痛みと苦しみでもがく様を眺めるのは何よりも楽しいだろう。



不気味な笑みを浮かべながら城へ侵入していった蝦蟇虫もといキヨゾだったが、実は影に隠れながら尾けていた者がいた。


左目は痛々しくも布を巻かれ治療を施された今日の敗戦者、六郎である。


(…あの野郎。怪しいと思って尾けてみりゃえらいことをしでかしてやがる…!)


城内で飛び交う絶叫、塀の外側からも垣間見える異形の姿、おそらく城内は阿鼻叫喚の光景が繰り広げられているのだろう。

だが、ここで引き返すほど臆病ではなかった六郎は意を決して門へ近づいていった。

すると、タイミングよくガタガタと門が開かれたと思えば、悲鳴をあげながら複数人が飛び出してくるところに遭遇した。


「うわあぁ化け物じゃあああ!」

「お助けええええ!」


続いて透けて見える奇っ怪な妖たちがおどろおどろしい奇声を発しながら追いかけてゆく。


六郎は彼らが夜道に逃げ出していくのを見送ると、そっと門を潜って中に侵入した。


「…破れかぶれだ、畜生…!」

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