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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
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弐拾八 合流

目標の大岩までたどり着くと、横から垣間見える向こう側は、崖とは言わないまでも起伏が激しい地形になっているようだった。


これは好都合、とばかりに興泰(おきやす)が隣の藤吉(とうきち)に語りかける。


「素早く影に隠れろ!」


その間に興泰は目の前の岩肌を駆け上がり、中空を踊り上がって(あやかし)の頭上に飛び出れば、少なくとも(あやかし)の注意は引けるだろう。藤吉が上手く姿を隠せる時間を稼ぎたい。


興泰はその経験から、(あやかし)が普通の刀で容易に斬れるものではないことを知っていた。

斬っても霧散したり、或いはまたくっついて元通りになったりするような実体のない(あやかし)もいれば、実体はあれども牛頭鬼(ごずき)馬頭鬼(めずき)のように人間などよりはるかに丈夫で屈強な(あやかし)もいる。

見た目や大きさだけで判断できず、何がどう転ぶかも分からない(あやかし)を相手にすべきではないのだが、この際恐れて逃げ回るだけでもどうにもならない。


宙に舞い上がった興泰に気を取られた(あやかし)から藤吉が逃げ失せるのを見届けて、興泰は反撃をしようと刀を構えた。


そのときである。


横から人がひょーいと割り込んできたかと思うと、異形の鬼に向けて何やら術を放ったのだ。


―― 斗折呪縛(トセツジュバク)


ほの暗い閃光と禍々しい蛇のような妖術で巨大な(あやかし)を縛り上げる。


「オキヤスさまぁ!今じゃあ!!」


その怪しい術使いは、相反して毒気のない声色で言った。

一瞬迷ったものの、この状況で動かない選択などない。興泰はその男の合図に従って(あやかし)に斬りつけた。狙うならやはり巨体から生える三つの髑髏(どくろ)の形をした頭部だろう。


これが飾りではなく急所なら良いが…そう思いながらも鮮やかな太刀さばきでほとんど三つ同時に切り飛ばした。


「ギャブァアアア」


断末魔とともに妖術で縛り上げられていた蜘蛛のような足が動きを止め、呆気なくその巨体が音を立てて地に沈む。


「おほう!凄い切れ味じゃなー」


拍子抜けするような明るい声色で話しかける男。まったく見覚えはないが、その声には聞き覚えがあった。


「…おぬし、もしや石か」

「そーじゃ!()()…いやお(しげ)もおるぞ!」


石がそう言うと後方を振り返り大きく手を振った。


「おーーい、もう出てきてよいぞぉ!」


その声に反応して、木の影から見慣れた愛らしい顔がひょこりと覗かせたのを見て、興泰はようやく緊張を解いた。お滋の表情から怪我もなく無事であることが一瞬にして分かったからである。刀を収め、大岩の背後に視線を向けると、こちらも恐る恐る顔を覗かせる顔が一つ。


「お、お滋!!!」


藤吉がお滋に気づいてダッと駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、大丈夫だった?」

「お前は!?」

「大丈夫だよ」


そして、二人を見守る興泰と石の方に向き直り笑顔を作った。


「石さんに助けてもらったのです。興泰(おきやす)様、ご無事で何よりでございました」

落ち着いたお滋の様子に、藤吉の方は思わず呆けてしまって言葉が出なくなっていた。その様子を微笑ましく見る興泰が代わりに口を開く。


「お滋も無事で何よりだ。石、礼を言う」

「いやいや!どうやら、ここにオキヤス様方を連れてきちまったのは儂のようです。迷惑をおかけしてすまんかったなぁ」

その言葉に興泰は一瞬考える様子をみせ、そして石に問うた。


「…ふむ。もう少し詳しく聞かせてくれるか」

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