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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
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弐拾四 六郎の意地

キヨゾの動きは独特だった。


身体が曲がっているせいか身体が揺らぎがちで、口元ももごもごとよく動かした。だが、いざ対戦してみて六郎は違和感に気づく。


(…香か…?)


先ほどまではしていなかった妙に甘ったるい香の匂いが鼻をくすぐるのである。そして、キヨゾが近づく度にその匂いが強まった。


あの身体の揺らぎ、手の動き、もしや香りを拡散させているのではないか?というのがふと頭をよぎったのである。身体の何処かに香を仕込んでいるのだろうか。では、何のために。


そう思った頃合いから、どうも頭がぼんやりとして考えがまともに働かなくなった。必死に足を踏ん張ってその場に留まるが、虚ろになっていく自分の思考を止められない。

キヨゾの顔を見ると、先程より一層気色の悪い笑みをたたえてこちらを見ていた。口元は震えるように小刻みに動いているが、よくよく耳を澄ますと呟くような呪文を延々と唱えている。目が合うとにたにたと笑い煽ってきた。


「くくく。なかなかに怪力だが儂には勝てぬぞ」


六郎は朦朧としながらも精神力だけでその場に留まっていた。

キヨゾは容赦なく小刀二刀流で六郎を追い詰めていく。野太刀(のだち)は大振りすることもできず、だんだん足元もおぼつかなくなってきており、避けきれずに身体中に切り傷が増えていく。


(こいつ、わざとやってやがる…!)


勝敗を決するほどの深手にならないように、わざと皮膚を切り刻んで遊んでいるようだ。

六郎は青筋を立てて怒っていたが、もはやどうすることもできなかった。


「ではそろそろ決着をつけるか。決勝の記念にお主からも品を頂くことにしようぞ」


六郎の腕に新たな一本の刀傷をつけながら、キヨゾはぼそりと伝えてきた。その口調は既に以前の訛りはない。相変わらず舌足らずな喋り口だが、東国出身というのは偽りなのだろう。


そして、キヨゾはかなり残忍なやり口で今まで勝ち上がってきたのを六郎は見ていた。小刀を十字に合わせてハサミのように使い、相手の耳や指、腕、足を切り取って身動きを封じるのだ。あまりに危険な行為に度々審判に注意されていたが、今の発言からはまた同じことを繰り返すつもりなのだろう。

つまり、キヨゾの言う「品」とは六郎の身体の一部分のことを指す。


「やれるもんならやってみろぉぉ!!」


傷だらけの六郎が叫ぶ。

ぐらりと揺らぐ身体を渾身の力を込めて立たせ、向かい来るキヨゾを待ち構えた。

キヨゾは下卑た笑いを隠しもせずに突進し、小刀を振り回して六郎を翻弄する。

同時に審判は危険を察して「キヨゾ!やめぃ!!」と叫んでいたが、キヨゾは止まらなかった。


次の瞬間、キヨゾの小刀は六郎の顔めがけて鋭く突き込まれていった。

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