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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
50/85

弐拾参 キヨゾ

奉納試合最終日。

各種目決勝戦が行われた日は晴天だった。



六郎は少し残念に思っていた。

この奉納試合での優勝者は、久兼(ひさかね)次期当主、興泰(おきやす)の臣下になれるという噂を実はかなり期待していたからだ。


大内という西国一の大名との縁は深く、民からの評判も良い領主にして武にも優れると聞く興泰に仕え、この乱世で名を馳せることを夢見る者は多かった。

だが、せっかくの見せ場を当の本人に見せることができなければ、登用の話が難しいだろうことは予想がつく。血筋の良い家臣たちにとって、卑賤の者と肩を並べることを快く思わない者も多いだろう。彼等と民草との間には相容れないほどの壁が立ちはだかっている。


だが、まあよい。


幸運にも、六郎の決勝戦の対戦者は百姓出のみすぼらしい小男だ。

優勝すれば褒美を取らせるというのは本当のようなので、今年はそれで我慢しようと、もはや優勝を確信してそう思った。



一方、キヨゾの方は相変わらずにやにやと軽口をたたき続けていた。


この男、東国(なま)りを喋っているようだが、どうも舌がうまく動かないような舌足らずな語り口が耳についた。

百姓のように前かがみで身体が固まっているだけでなく、背骨も僅かに歪んでおり、歩き方も独特だった。生まれつきなのか、それともこうして真剣勝負で勝ち抜くほどの腕前であるので、過去の戦で負った傷が元であるのか定かではないが、見るも憐れな様相なのだ。

それなのに、本人はその動かしにくそうな身体を抱えながら愉快そうに笑っている。この決勝でも、まるで自分が負けることなど想像もしていなさそうな余裕の表情だった。それが六郎には腹立たしく、そして薄気味悪い。


(コイツ、何か秘策でもあるのか…?)


キヨゾの試合は六郎も何度か見ている。確かにこの身体で驚くほど機敏に動き、同じような百姓出の男なぞ相手にならぬほど戦い慣れていた。

おそらく、こいつは過去に何人も殺している。躊躇がないのだ。むしろ人斬りを好んでいると言っていい。


しかし、六郎とて力量を見誤るほど愚鈍ではない。圧倒的な体格差と、野太刀(のだち)を軽々と振るう剛腕。小太刀との間合いの差も歴然であることからキヨゾに勝ち筋などないはずだった。



「その気色悪い面、今に叩き潰してくれる」


無差別種目決勝戦。

六郎は礼もそぞろに長い野太刀の鞘を抜いて抜刀した。

その総長は六郎の身長よりあり、刃長は五尺六寸(約170センチ)もある。六郎はそれをいとも簡単に振り回した。試合場すべてが間合いに入っていると言っていい。

だからか、開始早々にキヨゾは小刀を抜くよりまず隅に飛び退いて避難し、繰り出される刃を紙一重で除けた所で今度は懐めがけて駆け込んだ。

野太刀は、その長さ故に懐に入られれば弱い。本来は馬上で用いられる武器であり、一対一の試合の中で使うには不向きである。一撃で仕留め損ねれば二撃目が簡単に撃てないという短所もあった。

だが六郎は体躯に似合わぬ俊敏さも持ち合わせている。


ビュオッ


という風を切る音とともに六郎はカラダを捻ってキヨゾの小太刀を躱し、再び上段から振り下ろす構えで野太刀を構え直していた。


「ふはは、やるじゃねぇか旦那ぁ。…しかし、ここからが本番じゃ…」


相変わらず軽い口を叩くキヨゾだったが、この瞬間から雰囲気ががらりと変わった。

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