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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
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弐拾壱 石の力

ありゃあ。


こりゃあ、やっちまったな。



石はぼんやりと前を見やってそう思った。

思うままに感情を振り回したら、思った以上に振り切れてしまったようだった。


何も分からぬ所にごろりと放り出され、苦しくて困っていたところを助けてくれた者に囲まれて、少なくともそこは平和だった。

ずっと孤独だったしそれが当たり前だと思っていたので、意思疎通ができる相手がいることがとても面白かった。

初めての経験だった。


だが、そこに悪意が一滴混じると途端に全てが崩れ落ちる。

だからだろう。それが無性に腹が立った。


悪意というものは知っていた。

醜くおぞましく、弱肉強食の理からもはみ出るような強い利己から来る感情。振り回されるのはもう御免だ。

だから怒った。

怒りという感情は既に知っていた。


ある時たくさんの感情というものが押し寄せてきたときにこれを知り、そして同時に自身も初めて怒った。


自己中心的な理由でいたぶられ、炙られ、たくさんの感情を押し付けられて、己の生き様を否定される。初めて感じた苦痛でもあった。




あれ。


これって、いつの話だろうか。

儂は自分の過去を少しも覚えていないのに、感情だけが先走る。


感情、感情。

感情って面白いな。

あらゆる感情が押し寄せてくる度に世界が広がる。


思いの力って凄まじいな。

この力があればもっと面白いことができるんじゃなかろうか。




ぼんやりと、しかし考え得るあらゆる事を考えていると、ふいに声が聞こえた。


「石さん!」


()()の声だ。

見ると、今までよりはっきりと鮮明にその姿が眼前に浮かび上がる。


「おお、()()殿か…」

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫」

「その体、どうしたの?」

「体?どうかしたか?」

「うん。…なんかヒトの形になってるよ」

「…ん????」



石は言われてはじめて自分の体を眺めてみる。


「お?なんだ()()殿のような手があるな。足もあるし、胴体もある」


ぱしぱしと自分の身体中を叩きながらその形を実感し、そしてもう一度女の子を見た。


「儂は一体どうなっておる??」

「人間みたいになってるよ」


石は人間の青年のような見た目になっていた。

立ち上がると女の子よりもずっと背が高く、手足も長く、身体も屈強そうだ。しっかり衣も纏っており、人の言うところの狩衣(かりぎぬ)に似ていた。


石は小躍りしながら立ち上がった。


「おほう!!!身体じゃ身体!ジユーに動く身体じゃああ!!自力で動けるぞ!」


そして周りを見渡してぽかんとする。

「…ここ、城か?」

「違うよ」


辺りは河原のように石がごろごろと転がっており、ここ以外は鬱蒼とした森が広がっていた。空はどす黒く、しかし夜というほど暗くない。


「そうか、儂が一緒に飛ばしてしもうたんじゃな。すまんかった。“怒り”の調整がうまくできんかった」

「ねえ。もしかして、興泰(おきやす)様たちもこっちに飛ばしちゃったりした?」

「…そーかもしれん。探すか」

「うん。あのね、さっきから森でたくさんの気配があるの。怖い…」


そう言われて見渡すと、確かに怪しげな気配が複数こちらを伺っている。


「急ごう」


石とお滋は歩き出した。

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