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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
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拾六 奉納試合【その四】

奉納試合二日目の今日。

前日は何やら騒がしく、聞けば領主の総領(そうりょう)が矢に撃たれたらしい。


これは奉納試合の中止も危ぶまれるか、と思っていたが、それは杞憂に終わったようだ。

翌日は何事もなかったかのように出場者が呼び出された。



奉納試合とは、それはそれは物々しい行事だった。


そもそも武芸者と言っても卑賤(ひせん)の者を集めているとあってかなり治安が悪かった。

開催された一次予選では、そこら中から怒声が飛び交い、ちょっとしたことでのいざこざが頻発した。試合中でも試合外でもそうだった。故に領内にはあちこちに警備が配置され、試合場一つに対して大小を下げた下級武士が数人がかりで監督する。万が一指示に従わない者はその場で切り捨てられてもおかしくない雰囲気だった。

こんな寄せ集めによる試合を奉納しようと考えるなど、結構な趣味である。



六郎はその恵まれた体躯から対戦者を片っ端からぶった倒していった。

自分で測ったことはないが、人は「六尺五寸はあるだろう」というほどの高身長。異様に発達したその身体のおかげで負け知らずだ。


六郎の得物は「野太刀(のだち)」と呼ばれる大太刀だった。もちろん自分の金で購入したものではなく、戦場跡で拾った戦利品である。刃は手入れできずにボロボロだが、この豪刀を六郎の腕力で振り下ろせば大概の男は動けなくなった。

会場にいる卑賎の者が持つ武器は大抵そのようなもので、切れ味など皆無に近く、ぶっ叩いて相手を打ち砕く用途として使っている。

さらには審判各位が目を光らせて、トドメを刺す前に勝敗を決めることもあり、こんな物騒な行事の中でも今のところ死者は零である。


だが、このまま勝ち抜き戦が進めばついに死人が出るかもしれなかった。それほど一戦一戦が苛烈になっていっている。

六郎がみたところ、ただのならず者ではなそうなのが数人いた。

衣服は随分くたびれているが、所作や立ち振舞が毅然としていて、刀の切れ味もすこぶるいい。その気になれば相手の首など立ち所に切り落としそうな輩がいた。

きっと、かつて名のしれた武将であろうと思われる。このご時世、極めた武芸を持ちながらに主を亡くし、粗末な着物に甘んじながら次の主を探している浪人なのであろう。

まあ、そういった輩は皆剣術や槍術で勝ち上がっており、六郎が対戦することはなさそうだった。



ちなみに六郎は文字が読めなかったが、決勝に進出する者はそれぞれの種目で二名の名が張り出されていた。


剣術では安芸武田氏に仕えていたという浪人、和字賢祐(わじけんすけ)。対してこちらも浪人らしき播磨出身の山下角之進という男。


槍術 武嶋吉次郎、横田松之助。

弓術 八橋三左衛門、茂木定蔵。

柔術 安澤七郎次、丸山鋼牙

相撲 山南太一、楠光太夫


これら全員、並みではない者たちが連なっている。さらに言うならば、先日に光次(みつじ)が調べ上げていた十名のうち七名混じっており、興泰(おきやす)がこの場にいたなら成程と唸りを上げる強者揃いだった。



一方で、猫背で浅黒い肌に深く刻まれた顔の皺が実年齢より老けて見えるような小男も勝ち残っていて、これがまた妙な奴だった。

名を「田村キヨゾ」と名乗っており、おそらくキヨゾウなのだろうが(なま)りがひどく、他の者からもその発音のまま「キヨゾ」と呼ばれている男だった。

おしゃべりな奴で、対戦相手にも気軽に声をかけてべらべらとくだらないことを言っては笑っている。

どう見ても百姓出の貧しい装いなのだが、何故か小太刀を二刀持って戦っている。


「あっしのコレ?もちろん盗品でさぁ」


そう言ってニタニタ笑うのが気持ち悪く、こんな奴が勝ち残っているのが不思議だった。だが、この日の準決勝に勝利した六郎の次の対戦相手だ。

つまり、明日の決勝の相手である。


「その潰れた面を一層凹ませてやる」

「へへっ、お手柔らかに頼んますぜ旦那ぁ」


野太刀も、小太刀二刀流も剣術の枠組みから外れるらしく、無差別種目での出場だ。

相手は鎖鎌や斧、あるいは介者剣法(かいしゃけんぽう)使いで甲冑を着込んだ輩もいる中で、小太刀を持った小男ほど楽な相手はないかもしれない。


己の幸運に思わず笑みが零れそうになる六郎だったが、ここはむっつりと怖い顔をして一蹴した。


明日の決勝戦が楽しみだ。

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