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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
38/85

拾壱 視える者たち

「ところで宗音(そうおん)殿、既に聞き及んでいるかもしれませんが、お(しげ)のことで相談したき事があります」


奈美(なみ)は宗音にそう言葉をかけた。

また、興泰(おきやす)もそこで奈美と目を合わせ頷いている。


「そう。最近、お滋はあの三人衆とよく話をしているようで、奈美(なみ)が少々心配しているのだ」


藤吉(とうきち)から伝え聞いております」


そして、宗音はお滋に向き直って改めて聞いた。

「お滋、何か困り事はあるか」

「い、いえ!何もござりません…」


恐縮してそのように言うお滋。(あるじ)に囲まれて緊張もしているようなので、宗音はもう少し声を和らげて優しく問うた。


「奥方様は心配しておられるようだ。興泰(おきやす)様、そして私もそうだが、他の者に視えぬモノが視えるというのは困る事もたくさんあろう。大丈夫か?」


すると、ふるふると首を振ってお滋は否定する。


「何もございません!フタマルちゃんたちはいつも私を気遣ってくれていて、楽しく過ごせています。奥方様も興泰(おきやす)様も、本当に良くしていただいて、今まで生きてきた中で一番幸せに過ごせています。本当です!」


思わず涙目になりながらそう訴える。色々思い出しているのかもしれない。しかし、この頃のお滋の顔色や表情を見れば、それは本当だと思っていいだろう。


だが奈美はそんなお滋の後ろへ回って肩を抱きながらため息をついた。


「それならばいいのだけれど…私はちっとも視えないでしょう?何がなんだか分からないのよねぇ。興泰(おきやす)様も幼い頃から悩まされているようだけど、私は一緒にいても何にも視ないし感じないのだもの」

そう困った顔をして首をかしげる。お滋はそれを見て尚慌てた。


「奥方様、わたくしは大丈夫です!それに、奥方様と一緒にいると()()()はまったく寄ってこないのです」


奈美、お滋の会話に興泰はうんうんと頷いた。


「それは私も太鼓判を押しておこう。奈美は視えていないかもしれんが、お前にバッタバッタとなぎ倒された妖は数知れぬほどいる」

「まあ。それってどういうことです?」

「…そういうことだ」

「どういうことよ?」


だんだん若夫婦のじゃれ合いに発展しそうだったので宗音が咳払いで止めた。


「奥方様は、むしろ“まったく視えない”ことがその強さを助長しておられるのかもしれません。向こう側を一切受け入れないという力が“祓う”効果を生み出しているのでしょう。良からぬモノはその力を恐れて寄り付きませぬ」

「では、お滋は心配いらぬと思ってよいですか?」

「左様にござります。ただ、奥方様と離れたときに何かが起こるともしれません。良ければ魔除けの札を授けたいと思いますが、よろしいでしょうか」


そして宗音は懐から二つの小さな小袋を取り出した。子供の首から下げるのに丁度よい大きさの御守袋の様相だ。

「藤吉の分もある。中には魔除けの札が入っていて、お前達を守ってくれるだろう」


受け取った二人が目をキラキラさせて喜んだ。


(宗音さまの法力が込められた札!)

(…うれしい…!)



一方で、奈美は「ふふん」と興泰に目を向けて含み笑う。

「わたくしと一緒にいれば(あやかし)など寄って来ぬということですよ?」

「…そうだな」

「わたくしがしっかり守って差し上げますからね。いつもお側にいさせてくださいませ」

「…う、うむ。え、いやそれは…?」


奈美は興泰の手を握ってにこにこと笑うので、珍しく興泰が耳を赤くして照れている様子。

宗音は子供二人の目を即座に覆い、「さ、我々は退出せねばな」とずるずる引きずるようにしてその場を後にしたのだった。

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