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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
迷い石
37/85

拾 忍び

密偵。

諜報活動を主軸として活動する隠密、つまり“忍び”である。



「大将ぉ、俺そんなに分かりやすかったかなぁ?」


ミツ、こと光次(みつじ)が口をとがらせて興泰(おきやす)に問いかける。


「いや、よく化けていたと思うぞ。だが宗音(そうおん)の目は誤魔化されなかったということだ」


興泰は何故か満足そうである。

ついでに、興泰はまったく気にしていなかったが、光次の横にいた近習(きんじゅう)はその気やすい口ぶりに「無礼だぞ」と頭を小突いた。


「痛って。何すんだこのオヤジ!」

「なんだとぉ!」


どうやら近習は光次とは親しいらしく、もちろん正体も分かっていたらしい。仁左(じんざ)も分かっていたようだが、興泰の手前、二人に苦言を呈した。

「おぬしら、興泰(おきやす)様の御前(ごぜん)でやかましいぞ」

「「アンタに言われたくねぇよ!」」

「なぬっ?!」


と三人でわちゃわちゃし始める。

だが、興泰が「こほん」と咳払いすると静まった。


「光次。その他なにかあるか」

「あ、いえ。新しい情報があれば報せが来るよう手配してあります。それまでは法師に動きがあるのを待つしかないですね」

「相分かった。宗音、藤吉(とうきち)、お(しげ)。そういうことだ。この件は引き続き何かあったらまた報せる。お前達も、気づきがあれば教えてくれ」


「承知いたしました」

三人が深々と頭を下げた。



さて、これで用は済んだ、と光次がぶっきらぼうに立ち上がる。


「あ~あ。俺ももうこの格好は潮時だなぁ。大将が最近えらく気に入ってるとかいう坊主をからかって遊んでやろーと思ったのにぃ」


一方、目の前でそんなことを言われてもまったく動じない宗音は至って平静だった。それがまた癇に障るらしく、「ちぇーっ」と舌打ちしてくるりと向きを変えた。


「光次、お前は暫く城にいろ。春に向けて領内の編成を変える予定だからな」


興康が背中に語りかけるが、光次は振り向きもせずに「へいへーい」と生返事をして去っていった。

その後に続いて「こんのっ!」と怒りをにじませて後を追う近習が拳を振り上げるが、今度はヒョイヒョイと身軽に交わして廊下を渡っていったのだった。


遠くで「くぉらー!」という近習の怒鳴り声が響いてきたのを「ぷぷっ」と笑いをこらえている仁左もまた、

「では私もこれにて失礼(つかまつ)ります」

と退出してゆく。



「やれやれ。まあ、あんな奴だが見知りおいてくれ。あれでなかなか優秀な者なのだ」

「承知しております」


興泰、宗音がそんなやりとりをしていると、ずっと後ろに控えて様子を見ていた奈美(なみ)が立ち上がってすすす、と興泰の横に来た。


「流石は宗音殿でしたね。日頃から(しげ)が誉めそやしているのも頷けます。私も途中までは本当に女子(おなご)だと思っておりましたもの」


にこにことそんな風に言われるが、奥方に誉められてもまた表情一つ変えない宗音。

「滅相もござりません」

とただただ恐縮する。横でお滋が顔を真っ赤にしているのも気づかなかった。


そもそも、宗音も光次が男であることを気づいていたわけではなかった。


ミツは、確かに深窓の姫というほど色白ではなかったが、瞳は大きく華奢な顔立ちで、声ももちろん細く、表情や仕草もまさに女子そのものであったのだ。


だが、彼が自身を「薬売りの小娘」と称した瞬間、背後からぼわわん、と(あやかし)が現れたのだ。


―― 此奴(こやつ)は男じゃぁあ…


そう言ってまた霧散(むさん)した。

光次の嘘を暴く(あやかし)の仕業である。

この言葉が聞こえたのは宗音と興泰、そしておそらくお滋もである。

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