捌 藤吉とお滋
「しかし、藤吉は何故そのように思うのか」
宗音は思わずそう問うてしまった。
現在、興泰の負の縁起物を片付けている最中なのだが、年端もいかない少年の真剣な眼差しには同じく真剣に応えなくてはなるまい、とこちらもさらに引き締まった表情だ。
「…実はお滋が」
と藤吉が迷いながら口を開く。
「あいつ、最近オレと同じように、いや下手したらオレよりも妖が見えるようになってしまったっぽくて…」
「ほう?それは本当か」
宗音も思わず即座に聞き返してしまう。藤吉は眉を寄せてこまったようにこくりと頷いた。
「あの一件以来、チビマルたちともよく話してるみたいなんですよ。でもオレ、なんとなく気配は分かるけど会話するほど視えないんです…」
「ふむ」
これに仁左が「チビマルって、あの豆っぽい奴か」と呟く。
「正確には、ヒトマル、フタマル、ミツマルと興泰様に名付けられた三匹の小鬼だな。まあ害はないが役にも立たぬ」
宗音が補足する。
魔界では仁左、そして藤吉、お滋もこの三匹が視えていたようだが、お滋は今でも意思疎通ができるほどはっきり視えるのだろう。
「オレ、なんか不安なんです。お滋はあんなことがあったから村には帰れないし、家族もない。源おじだって、なんでお滋を置いて逝っちまったんだって…!かわいそすぎるじゃないですか。でも強いんです。最近は奥方様の元で働いて、笑顔も出るようになって…」
そして藤吉はぼそりと続けた。
「お滋がこれからもしっかりと生きていけるよう、オレも頑張りたいんです…守りたいし、宗音さまみたいに強くなればって…」
そこで仁左が即座に頷いた。
「うーむ、お滋は可愛いからのう。奥方様も相当な美人だが、お滋は今後化けるぞぅ。今からしっかりとツバをつけておかぬと他の男に掻っ攫われるかもしれんしなぁ」
「いやそういうことじゃなくって!!!!!」
仁左の発言に藤吉は真っ赤な顔をして反論した。
「オレにとっては可愛い妹なの!!!ツバとかつけないし!!そうじゃなくて!!家族として守りたいの!!!!!」
思わず敬語もすっ飛ばして反論する。仁左は大笑いした。
「だはは!すまんすまん!冗談だ!」
要するに藤吉の言いたいことはこうだろう。
あらゆる逆境に見舞われながらも健気に生きる、妹のようにして育ったお滋を兄貴分として守りたい、というのが第一にある。
それでいうと、最近妖が視えるようになって、いざというときにそういった怪異から守れるか不安がある。
ついでに当の藤吉には言わないが、奈美に気に入られて侍女として働くお滋は、最近とんと垢抜けて大人びてきていることも不安の一つだろうと思われる。
所作も美しく丁寧で、表情なども大人の仁左がはっとするほど綺麗だったりするわけだ。
自ずと周囲からの評判もよく、トントンと上へ上がっていくお滋の一方で、兄貴分の藤吉は下働き。大した仕事も与えられず、どうすればもっと兄として頼られるような男になるだろうか。そんな風に考えるのも分からなくない。
「よく分かった。藤吉にその眼があることを興泰様には伝え、鍛えたいと申し出てみよう」
宗音の言葉に藤吉がぱぁっと笑顔になった。
「だが、仕事は今までのように続けるように。その合間を縫って修行をしよう。心身共に鍛えるつもりだから覚悟せねばならんぞ」
宗音は厳しい表情でそう続けるが、藤吉は喜びの方が勝っているようだ。笑顔の口は閉じたが、目はきらきらしたまま「はい!!!」と元気よく返事をした。
あと気になるのはお滋の方か。
幼い頃に怪異が視えるのは不思議なことではないのだが、会話もできるというのはかなり力が強いと思っていいだろう。
その力に振り回されなければいいのだが。
今後、それとなく様子を見てみよう。
宗音は静かに思い、そして不要の縁起物を焚き上げた。
よくもまあ、ここまで集めに集めたと思われる大量の呪物である。子を思うが故の愛情から始まったものだったはずなのに、もはや呪いと呼べるような物もあれば、悪意が込められているようなものも混じっている。一つ一つは小さな不浄や悪意でも、これほど集まれば興泰の不調さえ招かねない。よくぞここまで耐えたと思う。
(次期当主に向けられる想いは、親の愛情や民の畏敬だけではないようだな…これも上に立つ者の宿命と言うやつか)
宗音はため息をつきつつ、火を放ち念仏を唱えた。
轟々と乾いた空気によく燃え上り、城内の興泰にもその煙はよく見えたという。
2024.06.25 少し加筆修正しました。




