陸 四本松城にて
石道姫、奈美が来てからの久兼は随分と華やかになった。
急遽充てがわれた興泰の新居は、廃城を改築したものだった。あまりに忙しなく婚儀を挙げたので、まだ一部は改装が終わっていない。
庭には四本の立派な松の木が植えられているので、四本松城と近隣の民からは呼ばれている。
この居城にはもちろん宗音も共に来ていた。
手始めに不審がないか見て回り、結界を張って興泰の安全をはかるのが一番目の仕事となる。
他にも仁左など家臣らも選抜してこちらに居を構え、父、興盛の屋敷に通う形で政務は行われることになるだろう。
奈美の石道本城から仕える侍女も付き従ってこの地にやってきていたが、人手が足らぬので新たに侍女として充てがわれたのは、あのお滋だった。歳の割にはしっかりしているのと、奈美がいたく気に入ったからというのが理由である。
「まあ、可愛らしい!」
見た瞬間、ぎゅーっと抱きしめられてあたふたするお滋だったが、奈美との相性は良さそうだった。
それに続いて人手不足の解消から近隣の村からも幾人か雇入れがあり、藤吉も下働きとして働くことになった。
これに大満足で頷くのは仁左である。
「なんと賑やかなことか!興泰様も楽しかろう!」
と誰より楽しそうだ。
しかし実際、奈美が来てからの興泰は本当に楽しそうだった。
初めてあの小鬼たちが奈美と対面したときのことである。
女好きの一匹が「なんと美しき奥方サマじゃーーーん」と奈美目がけて飛びついたのだが、視えていないはずの奈美は虫でも払う仕草でバチンと小鬼を弾き飛ばしてしまったことがあった。
一瞬の出来事に、興泰、宗音ともに呆気にとられ、右から左にふっ飛ばされていく小鬼を目で追うのだが、奈美自身は手に何か当たったことこそ気づいたものの、「まあ、こんな寒い時期に虫?」と言った風にきょときょとと視線を泳がせる。
相変わらずの無双ぶりに興泰は「ぷっくく」と笑いを堪えるのに必死である。
困ったのは宗音だ。
こちらも負けず劣らずの堅物人間だが、この状況を笑っていいものなのかどうなのか。判断しかねて固まってしまう。その様子も可笑しいらしく、興泰は笑うことが多くなった。
だが、それにしても奈美のおかげで城内は活気にあふれて賑やかどころか、少々騒がしい様相となった。
冬の寒さなど吹き飛ばすように、毎朝誰よりも早く起きて炊事洗濯、掃除まで始めてしまうのには従者一同面食らった。
長年従えてきた侍女などは慣れきったもので共に雑事を卒なくこなすが、他の従者たちが奥方に後れて仕事を始めるわけにもいかないのだ。何故なら、この石道殿よりも早く起きて仕事に取り掛からねば、己の仕事がなくなってしまうのである。
もしかして、大内はこの騒々しさが煩わしくて嫁に出したのではなかろうか、などと邪推してしまう興泰だった。
***
「宗音、ちょっと来てくれないか」
居を移して早々、興泰は宗音を呼び出した。
「なんでございましょう」
宗音が呼ばれた一室まで来ると、戸を開けた瞬間にムワッとした異様な気配に顔をしかめてしまった。
「…これは?」
宗音が問う。
「ひとまず行李にまとめて持ち運んだものなのだが、まあ開けて見てみろ」
と興泰が言う。
持ち運んだというその行李は部屋いっぱいに積み上げられ、まるで倉庫のような有り様だった。だが、この城には倉庫も蔵も別にある。居室に山積みにされた行李が紐解かれずそのままにしてあるのは不可解だった。
宗音は不審がりながらも手前にあった行李の一つを紐解いてみる。
「こ、これは…」
宗音が唸るように言った。
その中身は、魔除けの札や木で作られた人形、謎の呪物らしきものなどなど、一見はガラクタのようなものもまとめられている。
「これは、父上と母上が私のために用意してくださった護符や開運厄除の御守の数々だ」
興泰はさらりと言うが、そのモノの発する異様な気配に、宗音は思わず顔をしかめた。
「ここにある行李、もしかして全部でしょうか」
「そうだ」
父親の興盛は、息子の不運を取り払うためにあらゆる手段を請い、呪具を集めているという話は聞いたことがあったが、それがこんなにも溜まっているとは予想していなかった。
「お前も感じている通り、なかなか凄まじいモノも混じっている。だが、なにぶん父母が私のためにと集めてくださったもの故、処分することができずにいたのだ」
「…なるほど」
「だが奈美がそばにいる以上、あまり不穏なものを置いておきたくない」
「心中お察しします…」
つまり、この溜まりに溜まった護符や御守、呪具などの中で、もはや厄を呼び寄せていそうな不穏な気配を発するものは、すべて処分してしまいたい、ということだった。
「宗音ならば見定められよう。不要なものはすべて焚き上げてくれまいか」
「承知いたしました」




