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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
間話
27/85

弐 聴こえる噂

房丸(ふさまる)は、一応師匠から言われたことは心得ているようで、三日と同じところに居座ることはなかった。

次の場所、次の食事にありつく為に気ままに旅をする。


そして、例によって親切にしてくれる人に当たるまで手当たり次第声をかけてゆくのだが、これが不思議なところで、毎度房丸の要望を叶えてくれる人に出会う頃には、何故か近隣の者たちに興味を持たれ、人だかりができるのである。良くも悪くも目立つ人間で、人を惹きつける何かがあった。



房丸はよく食った。


山育ちで、村人から譲ってもらった米、麦、(ひえ)(あわ)、豆類など五穀以外は自ら山の中を駆けずり回って採(獲)ってくるもので食いつないできた。

栗、樹の実、山芋、(たけのこ)(きのこ)類、山菜類、どんぐり、さらにはマンジュシャゲなども毒を抜いて食べる。

川からは(あゆ)(こい)、フナ、(うなぎ)、カニ、貝類。獣に至っては猪、鹿、(たぬき)なども狩ったし、(きじ)(すずめ)などの鳥も狩った。

仏教は殺生を禁忌(きんき)とし、獣肉を食うことを(けが)れとして嫌ったのだが、同瞬(どうしゅん)は武人上がりということもあって、何より強靭な肉体作りに重きをおいた。こういった獣肉を食らうことを(いと)わず、とにかく弟子たちには腹を満たすまで食べるよう勧める人間だったのだ。そのため同瞬の弟子たちは、この時代の人々と比較してもかなり体格がよく、立派な青年に成長している。


そんなわけで、空腹は我慢することなく、とにかく食べるという習慣を持つ房丸は、人々がびっくりするくらいよく食ったのだ。

その様子は見ているだけでも小気味が良いほど美味そうに食うということで、時には房丸に何かを食わせる順番待ちの列ができるほどのこともあった。


房丸はよく働いた。


荷運びに始まり、治安の悪い場所では護衛も重宝された。薪割り、畑仕事、読み書きができることもあって恋文の代筆なんかも頼まれた。

子守も上手く、赤子の面倒も任せられた。幼児だけでなく、村の子供を十人も引き連れて遊び回ることもある。

どんなときでもにこにこと楽しそうで、人々は房丸に好意を持つのだ。

その報酬が食事であり、時に金銭でもあった。


発展した町中を通れば市場があり、うどん屋や団子屋を営む者もあり、または行商などでところてんなどいわゆる軽食を売る者もいる。

房丸はそう言った食事を銭を払って食べることも楽しみのひとつとしていった。



長閑(のどか)な旅路のようだが、そんな房丸でも眉を寄せるようなことも実はあった。



行く先々では、荒れ果てたかつての集落、城などもよく見かけたのだ。

焼け焦げて炭になった木材が点々と転がるだけならまだいいほうだ。

合戦場で(むくろ)がそのまま雨晒しになって放置されている所もあれば、まだ火がくすぶって、その戦火冷めやらぬ戦いの跡もさんざん見た。

もっとも凄惨だったのは、女子供が無惨にも殺されたらしい集落を通りがかったときのこと。


(…なんと(むご)い)


明るい房丸さえも顔を歪め、惨殺された幼子と母の遺体に手を合わせた。


世の中は荒れている。


旅に出て改めて実感したことがこれだった。

下々の民は口々に政の動向を噂し、嘆き、憤り、しかしどうしようもないので酒を呑んで誤魔化すのだ。


「なんでも堺にもう一人の大樹(たいじゅ)(将軍)が成ったそうな」

「もう一人の?」

「そうそう。兄弟でどちらが正当な将軍かって争ってんのさ」

「はっ、飽きもせずにお上はいつでも権力争いってか」

「天下に二人の将軍なんて聞いたこともねぇ」

「二人もいて国が潤うってんなら大歓迎なんだがな」

「違いねぇ。どうせまた戦、戦、戦だろうよ、しょうもねぇこった」


民草は嘆くしかないから嘆き、そしてまた立ち上がる。どうせまた踏みつけにされるのだが、生きる限り立ち上がって雨を待つしかないのである。



そんな彼らの嘆きを聞きつつ、房丸はこの後も暫く旅を続ける。


そういえば、旅に出るまではあれほど焦がれていた兄弟子は、彼の故郷で若殿に仕えて奮闘しているわけだが、そんな兄弟子に会いに行くことはついぞなかった。

何故なら、旅に浮かれてすっかりその事を失念していたからである。

後に偶然出会うことになるのだが、それはまた次の機会に語るとしよう。

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