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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
間話
26/85

壱 房丸の旅

宗音(そうおん)にとって弟弟子である光明(こうみょう)、改め子糸(こいと)房丸(ふさまる)


生真面目な兄弟子に対して、ざっくばらんで大雑把な性格だが、同時におおらかで根が明るい。正反対なようだが、それ故に足りぬ所を補い合うようにして育った。

実はこの物語のもう一人の主人公である。


師匠の同瞬(どうしゅん)から「この乱世を見て参れ」と言い渡された房丸は、一振りの刀のみを携えて諸国を巡る旅を始めたのは、宗音が寺を出ていって二十日目のことだった。

だが彼の性格上、しばらくは本当に気の向くままにふらふらと旅をするので、今回はその様子を少しだけ覗くとしよう。



***



まず、現在も絶賛成長中の若者である房丸は、何を隠そう、誰よりも食い意地が張っていた。どこを目指して旅をするかと聞かれれば、彼の頭には「食い物」しかないほどだ。つまり、最初の目的地はこのように決まる。


「やはり海の幸を食わねばな!」


ということで真っ先に近隣の漁港へ赴くことになるのだった。


房丸は、海人が働く様を興味深く観察した後、「なんでも手伝うから今晩の夕餉(ゆうげ)馳走(ちそう)になりたい!」と道行く人々に行って回った。

勿論、この奇特な男は相手にされず、じろじろと見られた挙げ句に素通りされることも多かったのだが、全くめげないその姿勢、そして生来(せいらい)根明(ねあか)な性格に興味を持った者がその声に応じた。


「よう、兄ちゃん。本当になんでもすんのか?」

「おうとも!盗みと殺し以外は基本的になんでもだ!」



着港した船からの荷下ろし、荷運びに始まり、なんやかんやと雑用を頼まれるのだが、房丸は特に体力仕事などはお手の物だった。

力自慢が音を上げるほどの荷物をひょいひょい担ぐが息切れもなく、房丸に目をつけた荒くれ者たちに囲まれようとも一瞬でのしてしまう。その後も何事もなかったようにケラケラと談笑を続ける房丸に、とにかく只者ではないと思った人々がいつしか群がっていた。


「あんたスゲェな」

「うん?そう?」

事も無げに聞き返す房丸。


「どっから来たんだ?」

「名は?」

「こんなとこに何しに来た?」


質問攻めにあうが、最初に声をかけた男が「待った待った!」と割って入る。


「今日は約束通り俺んちに泊まってけ!大したもんはねぇが飯食うんだろ?」

「ああ!よろしく!!」


ということで場所を移動して晩飯を食わせてもらうことになった。


房丸はまったく気にしていなかったが、その男の家にまで複数の人間がそのままぞろぞろとついてきて、開け放した格子窓から覗き込むように様子を伺っている。


そこの女房こそ最初は驚いたものの、なかなか豪気(ごうき)な気性の持ち主らしく、

「そう覗き込まれてちゃ御飯(おまんま)も喉通んないよ!みーんな入りな!」

というなり、無言の衆を引き入れてしまい、全員で酒盛を始めることになったのだった。

どうやら彼らはこの地域の住人らしく、余所者の房丸に興味を持っているらしい。

この地域は決して豊かではないものの、他の国に比べて戦火も上がらず、穏やかな瀬戸内の気候の中で長閑(のどか)な暮らしを営んでいるが、それ故に娯楽が乏しかった。ちょっとした出来事や新しい空気、話題に皆敏感なのだ。おまけに、房丸の明るく真っ直ぐな気質は人を惹きつける。



「あんた、あの仙人って呼ばれてる同瞬様のお弟子さんかい!」



房丸が身の上を少し話すと、皆が酒を飲みながら身を乗り出して驚いた。分国内だけあって、宝積寺同瞬の名はなかなかに知れているようだ。


(ほほう。あのツルっぱげ師匠様はそんなに有名なのか)


房丸すら密かに感心するほどである。そして、得体が分かると全員の緊張が一気に溶け、酒盛は一層盛り上がった。


「そりゃあ大したもんだ。なにせ武人として名を馳せたお方のお弟子さんとありゃ」

「強いわけだぜ」


一方、房丸は彼らが酔っ払って盛り上がっている横で、豪気な女房の作る飯をたらふくかっ喰らい、「美味い美味い!」と満面の笑みである。

決して豪華な食事とは言えなかったが、美味そうに食べる房丸の顔に女房も悪い気はしない。


「よう食うねぇ」

と言いながらも次々とおかわりをよそってくれる。


結局その日はその家で寝泊まりし、朝を迎えると噂が噂を呼んで、気がつくとまた人だかりができていた。

頼み事をしたいという人も複数おり、翌日はとうとう房丸の目的、海の幸を御相伴(ごしょうばん)に預かることができたのだった。

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