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室町享禄妖奇譚  作者: 山縣十三
止雨
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拾七 嘘つきの罪

気絶した源太夫(げんだゆう)を肩に担いだ多幸丸(たこうまる)は、馬頭(めず)を相手にする近習(きんじゅう)二人に声を張り上げた。


「お前達!来い!」


すると、多幸丸の無事に呆けるでもなく、近習は即座に命令に従う。


「やれ助かった!」

「アホ油断するな!」


早口で言い合いながら宗音(そうおん)の脇をすり抜けていく。

宗音もそれを見届けながら錫杖(しゃくじょう)を鳴らし、経文を唱えて鬼達の動きを鈍らせる。そして時をみて同じく下り坂を転がり落ちるように下っていった。


(やしろ)へ行けばよいのか!?」

仁左(じんざ)が聞いてくるので、宗音は即答した。

「そうだ!」

さらには先頭を行く多幸丸が振り返って「急げ!」と促した。


「追ってきている!!」


仁左がその言葉で振り向けば、もはや猛獣のような勢いで下ってくる牛頭馬頭(ごずめず)が見えたらしい。


「ひょえっ」


と短い悲鳴を発して一目散に社を目指して駆け込んでゆく。



宗音の考えでは、おそらくあたりを包む濃霧の先に道など続いてはいなさそうだった。

藤吉(とうきち)たちが言うように、走っても走ってもまた戻ってきてしまうだろう。だから、違う方法で脱出せねばならないと直感が言っている。

そして、その鍵はおそらくあの社にある。



社の鳥居をくぐった時、多幸丸に抱えられてやってきた源太夫に子どもたちが駆け寄っていった。


「源おじ!!」

「お父!!」


顔色は悪く、目を覚まさない。

泣きそうなお(しげ)が必死に「お父、お父!」と呼びかけている。


「ここからどうする気だ、宗音」


子どもたちを気にしながらも、多幸丸はきりりと宗音を見る。

色々言いたいことは山ありだが、鬼たちはもう鳥居をくぐってやってきていた。



「おのれ人間ども」

「全員腹わた引きずり出して喰ってやる」


牛頭馬頭は血管を浮き立たせて(いか)っていた。宗音はそんな彼らから目を離さず、「子どもたちを頼みます」と皆を下がらせた。

そして錫杖をシャンと鳴らし、牛頭馬頭に対峙する。


牛頭鬼(ごずき)馬頭鬼(めずき)よ。地獄の番人が何故ここにいる」


まずは宗音が問いかけた。


()れたこと」

「そこに恨むべき人間がいるからさぁ」


(よだれ)をだらだら流しながら、もう我慢がならぬといった様子で応える鬼達。だが、宗音は至って涼しい顔で錫杖を構え、シャナリと言わせてこう返した。


「帰れ。痛い目に遭わぬうちにな」


「「ホザケェエエエ!」」


目を血走らせて同時に騒音に飛びかかってくる。

速いのは馬頭だ。だが、宗音は経を唱えながら軽くいなし、後ろからやってくる牛頭も小突いて反動で宙を舞う。


「龍神の(にえ)に手を出したようだな」


舞いながら再び問いかける。


「「ァ゙?」」


状況についていけないのか、牛頭も馬頭も問いかけに対して聞き返すように宗音を見る。そしてまた(いか)った。

切り裂こうにも軽々とかわし、ふてぶてしく問いかけてくる妙な坊主にいよいよ殺意が湧いてくる。だが、宗音は尚もその殺意を助長する。


「お前達は嘘をついたな」


その言葉に激昂する牛頭鬼。


「オ前ナンゾニナニガ分カルウゥ!!」


猛突進してくる牛頭と馬頭。

宗音は、流石に直撃を受ければただでは済まないので受け流す一択で対峙するのだが、実はある考えが頭にあった。


「分かるとも。少なくとも、嘘は地獄では通じない、とな」



そして、気づかれないように誘導した先にはあの大甕(おおがめ)があった。

牛頭馬頭ともに頭に血が上ったまま突っ込んでくると、いとも簡単に大甕は大破してしまうのだ。



カシャアアアン!!!



馬鹿力に砕け散る甕。無論、甕いっぱいに張っていた雨水もまた流れ出て、乾いた地に波々と流れていった。


「オノレ小僧オオォ!!」


もはや宗音を小僧と呼び捨てて怒り狂う牛頭馬頭だったが、対して宗音は「見よ」と地面に広がった水溜りを指した。


そこに浮かび上がってくるのは先程と同じ光景。つまり、生贄として捧げられたお(ひで)を、横から掻っ攫うようにして奪う牛頭と馬頭だ。

さらには源太夫を嘘で騙し、人間を喰らおうとする醜き鬼達の所業である。



閻魔羅闍(えんまらじゃ)はすべてお見通しだ」


水面に映る情景に付け足すように宗音は言った。

するとどうだろう。

たちまち鬼達がピシリと固まったのだ。


「…ここは異界だ。大王の感知する所に(あら)ず」

牛頭がゆっくりと言葉を繰り出すも、宗音によってまた弾かれる。


「そんなことはないさ。人の世の全てを見通す、あの浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)があるのだから」


浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)とは、地獄の羅闍(らじゃ)、つまり閻魔大王(えんまだいおう)が亡者を裁くとき、善悪の見きわめに使用するとされる鏡である。

地獄の獄卒である牛頭馬頭が、この鏡を知らぬわけもなく、そしてその鏡に罪を映し出された罪人の末路も、彼等は誰よりも知っていた。


「「ヴアアアアア!!!」」

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