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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第四章 六天花 成り上がり編
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第67話 僕が魔術兵器を復活させてやる

 翌日、自宅の地下にてジョエルとの会談内容を仲間たちと共有した。その内容はシーザとキクにも衝撃的だったようで、しばらくの間それぞれ驚きの表情で固まっていた。内容を消化できたタイミングでシーザは口を開く。


「これですべて繋がったな。まさかそんな結界があったとは」

「シーザも知らなかったのか」

「ああ。噂も耳にしていない。ごく一部の限られた者だけが知る機密なんだろうな」


 確かに第一王子のライオネルからもそんな話は聞いたことがなかった。おそらく王族の中でも国王までしか知らない事実なのだろう。


「まあ、王都が魔王の結界に百年以上囲まれた状態で解くことができませんなんて民衆を不安にさせるだけだしね」


 キクは物珍しい表情で博士の研究成果の資料をめくりながら言った。話に参加しつつも、分解魔術についての詳細が気になっているらしい。


「ふーん。分解魔術ってのは意外に単純なんだね」


 魔力は粒子のような粒の塊でできており、分解魔術の使い手は魔力に触れることで、それを分解できるという。上級魔術など魔力を含む攻撃すべてに理論上対応可能であり、その前段階として中和がある。


「俺はすでに魔術の中和に関してはできているみたいだ」

「ルゥの魔術を反発した時か?」


 シーザの言葉にうなずく。


「うん。あれは反発の前に無意識で中和していたんだ。だから、魔術なのに反発魔術が効いた」


 本来、魔術を反発させることはできない。

 分解魔術で魔術を中和することで、反発魔術で跳ね返すことが可能となった。


「で、まだ未習得だった無力化を使いユナちゃんは失敗した」


 一同自然と黙り込み、静寂に包まれる。そんな中、ゆっくりとシーザは切り出す。


「ディン。ユナの事故の件について思うことがあるのはわかる。だが、ユナは自分の意思でゼゼ様を助けたいと考えて行動したんだ。あの子はエルマーに似て実直で自分のことを省みないからな」


 シーザの言葉が胸に刺さる。そう、ユナはディンとは違う。

 ディンがユナの立場なら必ず利を求める。が、ユナだったら損得抜きに誰かのために動くことができる。祖父である勇者エルマーのように。


「わかってる。ユナは子供だけど自分の意思をちゃんと持ってる。ただ俺が誰かのせいにしたかっただけだ」


 魔術師団を恨まないと、自分の中にけ口が見つからなかった。だから、ゼゼに対してずっと悪感情を持ち続けていた。が、ジョエルの話を聞いて今ではそれも消えつつある。


「俺がガキだった。もう俺の中でゼゼに対してわだかまりはないよ」

「なら」

「ああ。ゼゼに俺のことを打ち明けよう」


 この決断で何かが大きく動く、ディンはそんな予感がした。





 キクはディンが自分の間違いを認めるという珍しい光景を興味深げに見ていた。

 キクの知るディンは一貫してずる賢くスマートな男だ。

 今までのディンであるなら、自分の過ちを潔く認めることはない。色々と論点をずらしつつ、ずる賢く自分の間違いを曖昧にするような人間だった。


 その性格自体はユナの身体に転生してからもあまり変化はないはずだが、視点が変わったせいかキクの知るディンと少しずつ変わっていく印象を受けた。


(これが人の成長ってやつかな……?)


 良くも悪くも芯の通ったディンのことを好ましく思っていたが、今のディンも悪くないとキクは感じていた。


 その後、今後の細かい話し合いが行われた。ゼゼは聖域の調整という例年行われる王宮での極秘任務で一週間面会できず、その間にディンたちはカビオサへの遠征任務が始まるため、入れ違いになる。


「君らが遠征に行ってる間にゼゼと面会できるようになるんだろ? じゃあ僕が話をしておこう。なるべく早い方がいい」


 極めて重要な任務をキクは軽く受け持った。そこにはキクなりの思惑があったがそれを一切表情には出さない。

 話し合いが終わり、一人になった部屋でキクは博士の資料を読みふけっていた。


 その内容は暗号のように難解で、一つ理解するごとに博士という男がどれだけ天才だったか理解させられるようだった。そんな博士ですら解くことのできなかった問題が今自分の前に突如出てきた。


 王都を囲む魔王ロキドスの構築した絶対的結界。

 キクはいつだって難問が好きだ。どれだけ自分に良き負荷をかけられるかで人生の充実度が変わるということを本能で知っている。


 難問に苦しむのはキクにとって人生をバラ色に染めることに等しい。

 といってもロキドスによる難問を解くのはキクの人生すべてを差し出しても容易ではない。


 が、奇跡的にキクの前にそれを解き明かす材料が転がってきた。

 博士の研究成果、分解魔術の素質を持つ魔術師、そしてハナズが持っていた魔道具、無窮の零性。


 無窮の零性は一定範囲の魔力を無力化するという聞いたこともない効力を持つ魔道具だ。すでに効力を失っており、いくら調べても全くとっかかりがなかったが、博士の知識を吸収してようやく見えてきつつある。


 無窮の零性は分解魔術の一種で間違いない。これは魔人の中に分解魔術の使い手がいる可能性を示すが、キクはそれ以上に難題への足掛かりを見つけて笑いをかみ殺す。


 すべてがうまく噛み合えば、想像以上の短時間で難題を解くことができる。そんな手応えをキクは感じていた。

 ロキドスの計画の全貌は未だ見えないが、少なくともゼゼを王都に閉じ込めるのは計画前提としてあるはず。


 名もなき者によってその計画の横腹に風穴を開けられたと知れば、ロキドスは何を思うのか。檻に閉じ込めたはずの最強の魔術兵器が解き放たれて、それが己に襲いかかった時、どんな表情をするのか。

 顔も知らないが、それを想像するだけでキクはぞくぞくが止まらなくなった。



「僕が魔術兵器を復活させてやる」


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