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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第四章 六天花 成り上がり編
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第62話 遊び相手くらいにはなってくれよ

 深刻な表情でゼゼの私室に入ってきたのは、側近の一人、ジョエルだ。

 それが伝染したかのようにゼゼもまた似たような表情に変わる。


「結果は……乏しくないようだな」

「はい」

「王都やアルメニーア以外にも手を広げたか?」

「支部のある街はすべて捜索しているところです。一切、目撃情報すらないというのは……綺麗に消えてしまったかのようです」


 時刻は夜。第一王子ライオネルの指示によりディン・ロマンピーチの全面捜索を始めたものの成果は全くない。


「何かあったのは間違いないな……」

「だとすると、我々の無実を証明する方法を考えなくてはなりません」


 フローティアとの面会後、ディンは姿を消した。魔術師団員と接触後、行方不明という事実が広がればあらゆる悪い憶測が飛び交うのは火を見るより明らかだ。


「あるのか? 我々の無実を証明する方法が?」


 ジョエルは黙り込む。アルメニーアで目撃証言があれば、うやむやにすることもできるが、一切の目撃証言がないのは明らかにおかしい。


「考えたくない可能性を考えなければいけない時が来ている」


 ゼゼは思い切ってそれを口にした。


「魔王の血の件も含めると、考慮せざるを得ん」

「私からすると、信じられない思いです。身内を疑うのはあまりにも……」

「常識に縛られないのが魔術師だ。切り分けて考えろよ」


 それはジョエルだけでなく自分に対しても言い聞かせた言葉だ。

 裏切り者はおそらくいる。そこを認めないと、何か致命的な間違いを犯す。

 ゼゼはそんな予感を感じていた。


「討伐記録全書の空間でディンの身に何かがあったと考えるならば……」


 ジョエルは恐る恐る言葉を落とす。


「普通の魔術師たちは許可なく入ることができない空間ですね。その日に誰か入ったものは?」

「私の知る限りいない」

「ならゼゼ様の許可なく入ることができる者……ということになります」


 その言葉に対し、ゼゼは固まり長考する。

 長い沈黙の後、ゼゼは口を開く。


「あの空間に私の許可なく入る権利があるのは、ジョエル、博士、六天花のみだ。ジョエルと博士が違うと確信している。となると……」

「六天花の中に……いるということですか」


 裏切り者という言葉を出さなかったのは、ジョエルにとってもいまだ信じられない思いだからだ。


「あくまで可能性の話だ。盲目的になってはいけない」

「おっしゃる通りです」

「ここで忌憚きたんのない意見を聞きたい。その中でお前が思う怪しい人間はどいつだ?」


 それぞれの顔を浮かべ、ジョエルはとてつもない難題を前にしたかのように長い長い沈黙を続けた。


 


 

 夜の王都をタンタンは暢気に歩いていた。

 ひと昔前は夜になれば明かりがないので眠るしかなかったが、魔道具が発展した現在は街に明かりがともり、夜にも活動が可能となった。


 王都は昔では考えられないほど明るくなり、外を出歩く人も増えたが、治安が劇的によくなったわけではない。

 ゆえに定期的に魔術師団も巡回しなければならない。


「たまにする夜の散歩は楽しいな」


 もっともタンタンにとって見回りをしている意識はまるでなく、軒先に並ぶお店の様子を楽しみながら散歩している感覚だ。


 二人一組での見回りが基本であるが、タンタンはそんなものに縛られない。


「見回りは僕がするから、面倒な書類作成はまとめて作っておいてよ」


 面倒な書類仕事を誰かに任すために作業を分担するというタンタンがよくやる手だ。ばれたら何かしらのペナルティがあるのは間違いないが、そもそもタンタンに悪いことをしている自覚がない。六天花に多少の裁量権があるのだから、多少の遅刻やルール違反は良いのだという感覚だ。


 当然、それは裁量権とはまた違う話なのだが、タンタンはそれを理解していない。

 そんなずれた感覚の持ち主に対し、ほとんどの者はその提案を断るが、あっさり受ける者もいる。

 今日は珍しい後者の日だった。


「だらだら歩くだけでお金がもらえるなんて最高だな」


 そう言いつつ、タンタンは不穏な気配をすでに察知していた。

 魔術師団の見回りの区画は決まっており、当然人通りの少ない路地裏も見回る必要がある。


 人気が一切ない細い路地裏に入った時だ。

 明かりのない影だけの世界。

 そこに人影をタンタンは見つける。

 魔力を帯びたそれは容赦なく魔弾を放ってきて、タンタンは魔壁を展開。


「ふん。もうやる気満々って感じじゃん」


 ここ数日間、感じていたわずかな視線と敵意。

 つけられているのは察しており、人のいないところにあえて踏み入れた。 

 タンタンは光の魔道具をそれに当てる。

 そこに立っていたのはルゥだった。


「わかっていたけど、新入りちゃんじゃん。僕になんか用?」


 ルゥはそれに反応しない。その双眸そうぼうはじっとタンタンを睨みつけ、一定の距離を保っている。

 やがてゆっくりとルゥは両手を合わせる。


「魔術解放」


 圧のある眼と殺伐とした魔力がすべてを語る。


「会話する気ゼロってか」


 両手を合わせて、魔術解放。


「ここは影しかない世界。あなたが私に勝てる方法はない」

「そっ。遊び相手くらいにはなってくれよ」


 無表情のルゥとは対照的にタンタンは笑う。


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