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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第四章 六天花 成り上がり編
57/223

第57話 お前は大きな秘密を抱えているな

 ゼゼ・ストレチア。

 魔術師団を束ねる絶対的存在。別名、魔術兵器と呼ばれる最強のエルフ。

 祖父エルマーもゼゼには敬意を払っていて、一般教養の本にもゼゼは名前が出てくる。祖父と同じ歴史上の人物だ。


 そんなゼゼの魔術能力は当然、機密事項にあたる。

 そう言われると、好奇心をそそられるのが人間の性だ。ディンはゼゼの魔術能力を調べるためあらゆるコネで聞き込みをしたが、はっきりしたものはわからなかった。わかっているのは、ダーリア王国の秘儀である魔術解放はゼゼの力の一端を利用したものであり、魔術覚醒はゼゼが開発したということだ。


 以前、ハナズとの戦闘で見せたものは基本的な魔術のみだった。ただ普通の魔弾でも、異常なほど高密度でまるで別物の魔術だったのははっきり覚えている。それこそ魔術師として生涯鍛錬し続けても、常人には到達できない領域にゼゼがいることは理解できた。


 実際、対峙した圧力は他と比べものにならない。

 異様なまでの圧迫感。ふとゼゼの周囲には魔力とは別の……何か取り巻くものがあることに気づいた。空気のような、雲のような何か。仕掛けがありそうだが、魔術師成り立てのディンにはよくわからなかった。


「どこからでもかかってこい」

「はい、よろしくお願いします」


 一礼をして身構える。

 闘技場の時のようにゼゼの魔力が急にすり減っていく感じはなく、安定していた。

 あの時のような焦りもなく、まるで隙がない。


(どうせ殺そうと思っても死なないんだろ)


 というわけで殺す気で行くことにした。

 何も考えず、その場で魔銃を両手に持ちゼゼめがけて、撃つ。

 と思った瞬間、標的が目の前から消えていた。


「0点だ」


 背中から言葉が飛ぶ。

 いつの間にか背中に回り込んでいたゼゼが、自分の後頭部に指を突き付けていた。まったく何が起きたかわからない。

 スピードというより完全に消えて、背中を取られた。


「瞬間移動ですか?」

「そうだ」


 なるほど。ゼゼはやはり特別だ。特質魔術である時空魔術の使い手。

 しかも魔術を使う挙動が一切なかった。


「もう一度だ。私をがっかりさせるな」


 気づくと、ゼゼは真正面に相対していた。まったく暑くないのにわずかに背中が汗ばんでいるのを感じる。言いようのない恐怖感がじんわり湧いてくる。

 どうあれ近づかせるのは危険。


(ゼゼが消えたのを見計らい、後方に反発魔術をかけて、近づかせない。距離を置き、魔銃を連射。そうやって常に距離を取り続ける)


 一瞬で戦略を練り直し、魔銃をゼゼに向かって連射。

 魔弾は腕を組んだゼゼに当たらず、すべてが下に弾き飛ばされていく。

 その光景は異様で呆気に取られる。


 ゼゼが右手を突き出す。

 瞬間、地面から足が剥がれ、視界には地面がものすごいスピードで流れていく。

 何が起きてるか理解できなかったが気づくと、四つん這いになっており、目の前にゼゼがいた。ゼゼはおでこを指で突き付ける。


「はい。0点」


 あまりの引力になすすべがなかった。


「引き寄せと反発ですか?」


 反発で魔弾をすべて下に弾き、ディンの身体ごと引き寄せた。


「できないとは言ってないぞ」


 確かにそうだ。が、どれだけ練度をあげればここまで強力に引き寄せられるのか。


「ユナ。お前、基本的に距離を取って戦うのが前提となってるな。だから、手数は多いのに案外読みやすい」


 目の前で腕を組みながら言葉を吐く。


「もう終わりか?」


 ゼゼの影が踏める位置にいた。この距離で両手を使う必要すらないと言わんばかりの態度にイラッとした。

 架空収納から取り出したのは一級魔道具傘。

 傘を開いた方面に高圧縮の炎が爆ぜて、激しく燃え盛る。常人なら即死だ。


 一瞬で目の前が火炎で染まる。視界が赤く染まった瞬間、ディンは背中の方面を反発させた。後ろを振り返ると、案の定瞬間移動したゼゼがおり、反発の効果でわずかながら態勢を崩している。


 魔銃を取り出し構えようとしたところで、固まる。魔力の塊でできた巨大なハンマーが自分の真上にあることに気づいたからだ。

 魔力制御。その展開速度と練度はタンタンを連想させる。


「うむ。容赦なく殺しにきたことは評価しよう。五点だ。その後、私の動きを読み、わずかながら態勢を崩したことも評価に値する。プラス五点。累計十点だ」

「ちょっと待ってください。今のはタンタンの魔術ですよね? どういうことですか?」

「そもそも奴のものじゃない。魔力制御を極めた果てにできるものだ」

「基本、魔術は一つのもののみ極める。それがゼゼ様の方針ですよね?」

「寿命の短い人間だったらな。私は千年以上生きる長命寿の生き物だ」


 知識としては知っていたが、見落としている点だった。そうだ。目の前の女は祖父が赤ん坊のころからすでに魔術の達人として君臨している人物。一つの系統を極めるのが五十年かかろうと、千年以上生きるゼゼなら一つ一つを極めていく時間は十分にある。


「もっとも特質魔術に関してはからきしだ。さっき使った瞬間移動もせいぜい五十歩分の移動しかできん。エリィの方が断然上だった。私にも得手不得手があるということだ。その傾向を掴んで、戦略に生かしてみろ」

「戦略といっても……」

「兄ご自慢の魔道具コレクションを全開放すればいい。ほれほれ、好きなだけ玩具を使ってみろ」


 一級魔道具を玩具と断じるゼゼ。戦いをそれなりにかじったからわかる絶望的な力の差。


「これが魔術兵器か」


 ディンは嘆息し、抜け落ちそうな力を必死に込めた。





 一言で表現すれば、自尊心を徹底的に奪われる時間。傷一つなかったが、自分という存在がどれほどちっぽけで脆い存在なのかとことん叩き込まれた。戦った時間はそこまで長くなかったが、終わった後は汗でびしょびしょだった。


 汗で濡れた服を着替えて、しばらくの間ディンは呆けていた。

 頭を空っぽにして、ほんの少し冷静になった後、考える。


 やはりゼゼは完全に規格外だ。

 魔術師団はゼゼが中心となり率いる集団だと思い込んでいたが、それは大きな間違いだった。魔術師団とは0.1%のおまけの軍勢。殲滅のゼゼという魔術兵器が99.9%を占める。


「ゼゼさえいれば後は誰でもいい集団」


 これが魔術師団の実態だ。おそらく魔術師団の団員全員でゼゼに挑んでも、勝ち目はほとんどない。それくらいの力量差がある。

 更衣室から出るとロビーにどこか憂いを帯びた表情のゼゼがいた。


「私は言葉を使うのが苦手でな。今まで仲を違えたことは一度や二度じゃない。言葉だけで人の本質をなかなか見極められない」


 独り言のようにゼゼは語りだす。


「でも、戦いの中で死という名の海に潜り込ませれば、そいつの本質がなんとなく透けて見えるんだ。臆病なのか、勇敢なのか、覚悟があるか、打算的か否か。それまでの行動と照らし合わせて答え合わせができる」


 ゼゼはディンに視線を向ける。


「ユナ。お前は大きな秘密を抱えているな」

「大なり小なり皆、秘密を抱えているものじゃないですか」


 ゼゼは射るような目つきでディンを凝視する。が、ディンの瞳に揺らぎは一切ない。それを見てかゼゼは軽く目を閉じて、背中を向ける。


「六天花への正式通達は二日後だ。それまでにもう少し一流魔術師に近づけるよう精進しとけ。最近のお前は小手先の魔道具に頼りすぎだ」


 背を向けたままゼゼは言った。



 二日後、新たに刷新された魔術師団の六天花である。


 序列一番 タンタン・クレオメン

 序列二番 フローティア・ドビュッシー

 序列三番 ルゥ・クロサドラ

 序列四番 アラン・ガザード

 序列五番 アイリス・フリップ

 序列六番 ユナ・ロマンピーチ


 

 一番は不動。アルメニーアでも単独で最も多くの魔獣を討伐。

 五十年以上序列二番で貢献したセツナは正式に引退。 

 フローティアも魔獣討伐に大きく貢献。公共の石道を破壊したことが後に発覚したが、空を飛ぶ巨大なケルベロスを単独で撃破したことでお咎めなし。

 

 三番には新参者のルゥ。アルメニーアを騒がせた盗賊団クロユリを捕まえた功績と魔人との奮闘により、六天花入り。

 五番だったアランは魔獣討伐でのリーダーシップを発揮し、多大な貢献をしたので序列四番にランクアップ。


 アイリスも暴走気味であったが複数の魔獣討伐に貢献。

 そして、序列六番は一部の魔術師団員からはゼゼのえこひいきと囁かれる疑惑の抜擢。明確な貢献や実績もないまま抜擢されたはじめての例となる。


 ユナ・ロマンピーチ復帰からわずか三週間と経たない出来事である。


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