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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第四章 六天花 成り上がり編
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第51話 私も特級詠唱魔術を覚えたいんだ!

 ライオネルが訓練場から去った後、任務や訓練につく者でそれぞれ散り散りとなった。


「じゃあ私はゼゼ様と少し話してくる」


 そう言って、シーザも訓練場を後にした。シーザという従者をつけたが、任務を与えてもらえるかはゼゼ次第なので、シーザに交渉してもらう必要がある。

 が、魔術師団は現在アルメニーア周辺での魔族の巣の調査を全方位的に実施しており、明らかに人の手が足りてない状況だ。


 王都での簡単な任務を任されるのは自然の流れだと思われる。

 というわけでそこまで心配することなくディンは訓練場で訓練をしていた。

 少しの間運動していると、タンジーが今さらながら訓練場に入ってきた。

 うつむき気味で目は赤く腫らしており、明らかに元気がない。


「タンジー。大丈夫?」

「うん……エリィ様が死んじゃったから」


 タンジーが暮らしていた孤児院にエリィが定期的に訪れていたことを思い出した。といっても二人がそこまで深い間柄であったはずはなく、おそらくほんの少ししか会話はしていないのだろう。


 そんな間柄でもここまで悲しむタンジーは慈悲深いと思う。ユナが事故で昏睡状態になった時もタンジーは毎日泣いていた。


「タンジー。今日は無理しなくてもいいんじゃない?」

「ううん。もう大丈夫。私も頑張らないと!」


 タンジーは胸を叩いて、気合いを入れる。


「ユナちゃん! さっそくだけど! 私と勝負してよ」

「ごめん。遊んでる暇はないんだ」

「遊ぼうなんて一言も言ってないよ?」


 やる気の出鼻をくじかれたからか、タンジーはうろたえる。


「じゃあタンジーの本気の魔術を見せてよ。撃っていいよ。私に向かって」


 ディンは仕方なく、タンジーと対面した位置に立って構える。


「いいの? じゃあ本気で行くよ?」


 タンジーもこちらを睨みつけるように構えて、一呼吸してから右手を突き出し、叫んだ。


「突風!」


 凝縮した風の塊は見えないパンチのように相手を後方へ吹き飛ばす。

 最初に学ぶ風魔術。が、飛んできたのは、ほどよく柔らかい風だ。


「うわぁ、涼しくて気持ちいい。もう一回やって」

「……」


 タンジーは切なそうな表情で納得いくまで心地いい風を飛ばし続けた。

 




 タンジーと軽く遊んだ後、ディンは訓練場に顔を見せたフローティアに近づく。


「フローティア。ちょっと聞きたいんだけどいい?」


 フローティアは少しぎこちない表情に変わる。


「私でよければだけど……」


 ディン失踪前に面会していた事実をフローティアは伏せていたが、王都に戻ってすぐユナことディンに説明していた。おそらくゼゼに何か言われたと推測される。

 そして、それを隠していたことをフローティアは気にしているようだった。


「お兄ちゃんのことはフローティアの責任じゃないし、魔術師団の中に悪者がいると思ってないよ。お兄ちゃんは見つかると思ってるし、あんまり気に病まないで」


 ディンは白々しい嘘を真顔でついた。


「ありがとう。そう言ってもらえると少し楽になる」


 フローティアの心中は読めないが、少し柔らかい表情に変わる。


「それじゃあ質問! 私も特級詠唱魔術を覚えたいんだ!」


 特級詠唱魔術。独自で開発する強力な魔術の総称だ。複雑なものが多く、魔術解放しても無詠唱展開できないデメリットがあるが、初見殺しや一撃必殺のものも多く、決まれば非常に有効な一手だ。


 ハナズとの戦闘においてもルゥやエリィの特級詠唱魔術は極めて有効的だった印象がディンの中で強く残っていた。

 が、フローティアは少し難しそうな表情になる。


「特級詠唱魔術か……あれは賛否あるんだよね。答えがない問題だから」

「どういうこと?」

「まず習得と開発に時間がかかる。そして、戦闘で必ず魔術印と詠唱が必要になるから、使える場面も限られる。魔力消費量も激しい。魔術解放できれば覚える必要がないって意見も多いの」


 確かに必ず魔術印と詠唱が必要になるのはデメリットだ。エリィは護衛が引きつけてる間に詠唱しており、ルゥは上手く影分身を使って相手の隙をついていたが、実際簡単なことではない。


「魔術解放すれば、ほぼすべての中級魔術と上級魔術は無詠唱で展開できる。なら、それらの強度をより高める訓練をした方が強くなれるという考えも間違いじゃないと思う。実際、タンタンやアランさんはそっち派で特級魔術は一切手をつけてない」


 戦い方や価値観によるのだろう。ディンも魔人との戦闘を経験しなければ詠唱する必要のある魔術を習得しようとは思わなかった。


「でも、ユナも一つは使えるはずだよ。六天花になればゼゼ様がそれぞれにあった魔術を開発して与えてくれるから。確か特級詠唱魔術だったと思うよ」

「へぇ」


 初耳だった。色々とハードルの高さを感じていたが、ゼゼが開発したものを覚えるだけならできそうだ。


「ちなみに私がもらった魔術ってどんなだっけ?」

「それは知らない。特級詠唱魔術は切り札の位置づけだから簡単に見せるものじゃないしね」


 となるとゼゼに聞く以外に手がない。


「ちなみにフローティアはどんな感じなの? やって見せてよ」

「今、話聞いてたよね?」


 苦笑いしつつ、少し呆れていた。


「いいじゃん! ちょっとくらい! 暴風のフローティアの魔術が見たい! 見たい! 見たい!」


 ディンは大げさに地団駄を踏んだ。二十才の男がやると気色悪いことこの上ないが、ユナなら許される。フローティアは少し考え込み、渋々了解する。


「下級魔術だけだからね」

「私に撃ってきてよ。反発で弾いて見せるから」


 ディンは自信満々に構えた。タンタン、アラン、ルゥ、アイリスと手合わせ済みで六天花の実力はある程度把握していた。

 気が進まないフローティアのようだが対面した位置に立つと、集中して構える。そして、ディンに向かって唐突に右手を突き出した。


「突風」


 何が起きたのかディンにはわからなかった。気づいたらフローティアが豆粒のように小さくなっていて背中に衝撃が走っていた。


「へっ?」


 はるか後方に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたと気づくのは周りが騒ぎ出した時だ。背中に激痛が走り、思わず苦痛で歪む。


「ユナ! ごめん! 私……また加減間違えちゃって」


 フローティアはすぐに駆け寄って、心配そうな眼差しを向ける。


――四人の中で一番怪しい奴って誰?


 よぎるのはキクの言葉。

 六天花全員と会った第一印象。

 ロキドスが以前転生したフィリーベルという医者と一致点の多い性格。

 何より他の魔術師と一線を画す制御不能の魔力量。


(やはりこの女が本命だ)


 その魔力量から陰で魔人とささやかれる女。

 フローティア・ドビュッシー。

 想像以上の化け物ぶりにディンは恐怖を覚えた。


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