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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第三章 アルメニーア 魔族襲来編
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第25話 暴走するのはかしこくないぞぉ

「盗賊団?」


 大通りにいる人たちの視線に釣られて見上げると、二階建ての屋根から屋根へ飛び移る黒ずくめの集団がいた。凄まじいスピードで通り過ぎ、あっという間に小さくなる。


「ユナ。私追わないと!」

「えっ? エリィ様」


 ディンが止める間もなく、エリィは屋根に飛び移り、盗賊団の後を追った。


「くそっ!」


 ディンもすぐさまエリィの後を追う。


「おい! いいのかよ。わざわざ荒事に関わるなんて」

「第二王女を最前線に立たせるわけにはいかないだろ」

「そりゃそうだ」


 反発魔術で屋根から屋根へ飛ぶように移動するが、エリィも同じ速度で移動していた。魔術師団員は基本、魔道具「跳超」という靴底で反発魔術が発動する靴を履いているので、高速移動ができる。


 が、先を進む盗賊団との距離は縮まらない。間違いなく同じ魔道具を装着している。


「魔道具は誰にでも平等なのが厄介なところだな」


 ただ市販品の魔道具は基本、速度の制限がある。「跳超」も日常でほんの少し早く走れる程度。ゆえに反発魔術を常日頃扱える人間には勝てない。エリィは横から一気に追い抜くディンの姿を見て、少し呆気に取られていた。


「私なら前方に追い付けそうです。指示をいただけますか?」

「いいねー。じゃあ追いついてくれたらそれでいいよ」

「ん? どういうことです?」


 意味深な微笑みを見せて、ディンの手を握った。


「座標情報確認」


 指をさし前に行くように促される。

 何が何だかわからないが、前を進む黒ずくめの集団に標準を合わせて加速。

 街を抜けた北東にはすぐ森があり、そこに入られると追跡は困難になる。

 

 ディンは魔力を足に練りこみ、一気に飛ぶ。さっきの倍以上の速度でみるみる黒ずくめと距離を詰める。

 盗賊団の一人は後方から追ってくるこちらの姿を確認して戸惑っているのか、何度もこちらを振り返っていた。

 

 街を抜けて、森の入り口でしんがりをはっきり捉える。

 エリィの指示通り追い付いたが、後ろからの気配は全く感じない。


(どうする? いや、俺ならやれる)


 一呼吸おいて、ディンは仕掛ける。

 両手を合わせて魔術解放。

 戦闘モードに切り替え、右手で黒ずくめの一人に伸ばす。

 その距離おおよそ歩幅ニ十歩分。

 

 相手も高速移動中であり、常識なら射程圏外だが、ディンの場合はすでに捉えていた。

 右手を引っこ抜くように引っ張る。

 引き寄せ。

 黒ずくめの一人が不自然にディン側に吸い寄せられ、一瞬で距離が詰まる。

 

 ゼロ距離で魔銃を取り出し、魔弾連射。

 雷属性を付与しており、命中と同時に相手はそのまま倒れ込む。

 一人倒れたことで、他の四人が止まり、こちらを振り返った。

 たった一人の少女だと認識したからか、それぞれ武器を手に持ち身構える。

 

 ディンも止まり、一定の距離を保つ。

 近接武器のナイフを持つ二人が即座に距離を詰めて襲い掛かってくる。

 両手で反発魔術。

 二人が後方によれた。

 

 その隙に魔弾を撃ち込もうとするが、残りの二人が何かを投げた。危険を察知し、左手側の大木の裏へ避難。森の中での攻防は、木々が視界を遮る。

 自分に優位に働くこともあれば、不利に働くこともある。

 

 が、今は明らかに不利だ。こちらの位置はすでにばれている。

 大木の裏から覗き込んだら敵の姿が見えず気配も感じない。


「相手は手練れだ。いったん引け。お前は素人だろうが」


 シーザは冷静だが、どこか必死だ。

 生と死の際をシーザは理解している。だが、ディンはそんなもの知らない。どこか無鉄砲だ。恐れを知らずに踏み込んでいる。

 事実、膠着状態でどうすべきか一瞬ディンの思考が止まる。

 

 が、ディンは止まらなかった。

 一対多数の膠着状態ですべきことをあらかじめ決めていた。

 一級魔道具「煌々」。

 それを前方に投げ込むと周辺を太陽のような強烈な光が差し込む。

 

 わずかでも光が眼に当たると、一時的に視界が白く染まる。これが優れているのは、投げた人間の方向のみ一切光が差し込まない点だ。

 キクの作った改造魔道具であり、初見殺しの一手だ。

 まず対応できる人間はいない。

 

 光が消えたことでディンは攻撃に転じる。

 木の裏に隠れていた黒ずくめの一人が顔を覆い、身体の一部を晒していた。

 そこに一気に距離を詰めて、頭部を容赦なく蹴り。相手は吹き飛び、動きを止める。

 

 その音に反応し、残りが身構えるわずかな音で隠れている位置を確認。

 動きが取れないとみて、ディンはその三か所すべてに容赦なく魔道具、爆炎花を投げ込み、大木とその周囲を燃やす。


「おい! 森の中での強力な火炎魔術は禁止っていう条項知ってる?」

「ばれなきゃいい! そんなこと気にしてられるか!」


 指向性の強力な爆炎により一瞬で黒ずみと化す。

 三つのうち、二つの方向には人らしき残骸が確認できたが、残り一つは残骸がない。

 

 その違和感を感じ取ったと同時に上空からの気配を察知し、すぐさま反発魔術。ナイフを持った黒ずくめが態勢を崩し、前方に着地する。

 

 両手に魔銃を取り、魔弾連射。

 敵は一瞬で魔壁を展開し、それをガードした。

 その反応で一番の手練れだとディンは確信する。

 相手はナイフを持つ手を下ろし、動きを止めた。


「便利だな。自在に魔道具を取り出せるのか」


 ひしゃがれた声。男か女かわからない。声を変える魔道具を使っているようだった。


「だけど、二流にしか通じないぞ」


 呆気に取られたのは、その声が後方から聞こえたからだ。

 いつの間にか黒ずくめの人間に囲まれていた。気配も感じず、待ち構えていたというより唐突に現れた印象だ。


(どこから湧いてきた?)


 四方を囲まれ、視線が揺れる。その隙をつくように周囲から一斉に飛び込んでくる。わずかな緩みが死を招く。


「ユ~ナ。暴走するのはかしこくないぞぉ」


 唐突に目の前に現れる見覚えのある背中。

 ディンの方に余裕の微笑みを見せて、一言。


「橋渡し」


 結び語を唱えたと同時に起きた現象をディンはすぐに理解できなかった。

 周囲から一斉に飛び込みすぐ傍まで距離を詰めていた敵全員が元の位置に戻っていた。

 時空魔術独自の魔壁。それをくぐると別の場所へ出る空間扉。

 エリィはディンを囲うようにそれを展開し、襲ってくる敵を元の位置に戻した。

 

 戸惑う相手の隙をエリィは見逃さず、悠々と手に持つ武器を振る。

 それの形状は鞭だが、どこか異様だ。

 真横に振ったしなるような一撃は大振りで、三人とも難なくかわす。

 が、その武器になぜか全員吸い寄せられ、吸着する。


「タコの足だと思ってくれていいわよ」


 一級魔道具「八腕鞭」。

 伸縮と引き寄せの効果を持つその鞭はいかなる者も吸い寄せる。


 三人はそれぞれ鞭に吸い寄せられ剥がせないようだった。そのままエリィは武器を振り上げて、全力で振り下ろす。

 激しい衝突音と共に三人は地面にたたきつけられる。


「えげつな」


 全身の骨が折れてもおかしくない衝撃で、三人ともピクリとも動かない。

 呆気に取られる後方の一人に、ディンは魔銃を連射。

 先ほどとは違うタイプの殺傷力の高いものに切り替え、足を撃ち抜く。前かがみに膝をつき、そこにエリィの容赦ない鞭攻撃。

 

 あっという間に残る敵は一人となった。

 敵は形勢が逆転したからか、こちらに向かって何かを投げた。


 発光弾。ディンの持つ魔道具ほどではないが、目の前の景色が光で遮られる。

 すぐに元に戻るが、敵が視界から消えていた。

 それだけじゃなく倒れていた黒ずくめたちも一斉に姿を消していた。


「えっ? どういうこと?」


 答えのない問いかけが口から出た。



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