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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第二章 魔術師団編

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第23話 私たちもアルメニーアに行けばいいじゃん!

「まあ、とりあえず座って話しましょ」


 対面するソファに座り、エリィを改めてまじまじと見る。

 腰までかかる美しい金色のロングヘアと華やかで整った顔は、どこにいても男たちの視線を集める。目元はやや鋭いが、蠱惑的な魅力がある。

 

 服は戦闘用なのか、修道服のようだが全く違う。動きやすさ重視のミニスカートにラインの強調されたシャツで豊満な胸部がちらりとのぞく。


【おい、ディン。視線がいやらしいぞ。お前、目的忘れるなよ】


 シーザの念話で、表情を引き締める。


「こうして会えるなんて本当にうれしい。どれだけ私たちが心配したか。お姉さまやライオネル兄さんもユナのこと喜んでおられたわ」

「もったいないお言葉です」

「何よ、かしこまっちゃって。ユナの癖に!」


 思わず王族に対して粗相のない態度になったが、よく考えたらユナはもっと軽い感じで対応していたことを思い出す。


「本当にご心配おかけしました。でも、こうしてすっかり元気です!」


 ディンは満面の笑みで力こぶを作る。


「でも、眠ってた間に色々環境が変わって戸惑ってる部分はあります」

「エルマー様も亡くなってしまったものね。本当に残念だわ」


 エリィは同情的な目をこちらに向ける。


「ええ。正直、まだ受け止められないことも多いです。だから、この三年間の間に起きたこと、色々な人に聞いてまわろうと思って……」

「ふーん。それで魔術師団がごたごたしてる間に私に会いにきたんだ」


 エリィはディンの眼を覗きこむように前かがみになり、指をさして微笑む。


「はい、それ嘘!」


 ディンは表情を変えず固まる。そして、口元だけ笑う。


「ばれちゃいましたぁ? 実は暇だったから来ただけです」

「うん。正直でよろしい!」


 冗談のようなやり取り。が、見え隠れするのはエリィの勘の鋭さ。

 昔から嘘に対して妙に敏感なところがある。それでいて、嘘なのか本当なのかわからないことを本人はよくしゃべるから性質たちが悪い。

 

 他の王族たちと大きく違い、駆け引きが通じないところがある。

 といっても、ユナと久々の再会にうれしかったのは間違いないようで、終始笑顔で昔話に花を咲かせた。

 話の流れで自然と自分の話題になる。


「えっ! ディンとはまだ会ってないの?」

「はい。入れ違いで兄は今、アルメニーアに出張に行ってるそうです」

「まあ! なんて間の悪い男。ディン君ってそういうところあるよね」

「かもしれませんねぇ」 


 軽くけなされてる気がしたが、実際否定できないところでもあった。


「アルメニーアといえば、魔獣が出現したんですよね?」

「かなり稀有な例ね。ただ事じゃないけど、大丈夫よ。タンタンやフローティアもいるし、アルメニーアにはとっておきの魔術師がいる」

「セツナさんですよね?」


 知識として知っている情報。

 六天花序列二番、セツナ。

 それ以外の情報は一切ない。その姿を拝んだ人間は魔術師団にほとんどおらず、顔も名前も年齢も不明。が、最も長く六天花として君臨している実力者だ。


「エリィ様は会ったことあります?」

「ないなぁ。魔王討伐時からセツナはいたそうよ。だから、勤続年数は五十年以上ってことね。となると、長命種の種族だと私は睨んでいる」


 確かに祖父の代から第一線で活躍してるなら、人間より寿命が長い獣人やドワーフ、エルフが有力と言える。ポケットにいるシーザを見る。


【私も見たことがないし、知らねぇよ。ゼゼ様からも聞いたことないな。ただ実力はすさまじいらしいぜ】


 シーザでも知らないのなら、本当に都市伝説のような魔術師だ。


「まあ、面子はそろってるから私たちに出番はないってこと」


 エリィはテーブルのカップを手に取り、上品に口をつける。

 六天花だが、エリィに召集はかかってないらしい。

 常識的に考えて、魔術師である前に王族であるのでなるべく危険な場所に立たせないのは当然だ。


「私が六天花にいるのは広告塔でもあるのよ。平和になって、魔道具の普及により魔術師団は陰をひそめた。存在感の薄い魔術師団に王族がいることで他の部隊も無碍むげにはできなくなる。ゼゼ様は見事なまでに私を利用してるわ」

「はははっ」


 乾いた笑い声しか返せない。真偽は不明だが、ありえそうな話だ。実際、勇者の孫であるユナが元六天花だったのも、実力以外の部分が影響していた可能性は否めない。


「ただ私も魔術師団を利用してる側面はあるし、お互い様……そう割り切ってるんけど、なーんかむしゃくしゃするなぁ」


 エリィはぐっと背伸びをして、意味深な微笑みをこちらに向ける。


「良いこと思いついた!」


 エリィは唐突に座ったまま手を合わせる。


「魔術解放」


 エリィの身体から魔力がとめどなく発せられる。


「えっ?」

「私たちもアルメニーアに行けばいいじゃん!」


 そう言ってディンの手を掴む。


「な、何を言って……」

「座標跳躍」


 瞬間、目の前の景色が歪む。

 と思ったら、一瞬で歪んだ景色が伸びて正常に戻る。

 が、目の前に広がるのはさっきとまるで違う景色だった。

 自分が立っていたのは丸い広場のような場所。

 そこから美しい街並みと水平線の海が見下ろせる。


「はっ?」

「はい! アルメニーアに到着!」


 隣にいるエリィはウインクする。


「これでユナはディンに会いにいける! 私も魔獣退治の仕事ができるってわけ!」


 瞬間移動。

 王都オトッキリーからアルメニーアまで馬車で二日半かかる距離を一瞬で移動してしまった。


【マジかよ。こんな長距離の瞬間移動ができるなんて……】


 ポケットにいたシーザも念話で驚きの声をあげる。ディンも瞬間移動は何度となく経験しているが、直接かけられるのは初めてだった。


「いやいや、エリィ様! まずいですよ。立場ってものを考えてください!」

「もう。ユ~ナ。私の取り巻きみたいなこと言わないでよ。来ちゃったものはしょうがないじゃん!」


 昔と変わらない悪戯な笑み。


「まっ! いざという時は一瞬で戻れるんだからいいでしょ? たまには羽を伸ばしましょ?」


 気まぐれエリィにディンは思わず嘆息しそうになった。

 図らずも一年ぶりにディン・ロマンピーチはアルメニーアの地を踏んだ。


二章完です。ここまで読んでいただきありがとうございます。


ブックマークや評価などで反応もらえると嬉しいです。


三章も毎日投稿予定です。

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