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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第十一章 箱庭編

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第222話 ここが天界なの?

「まあ、どっちが強いかなんて今はどうでもいい。重要なのは双方が良い関係を築くことだろ?」


 ディンは脱線した話を元に戻す。


「そうだけど」

「俺の見立てじゃ大丈夫だよ。二人はきっと良い関係を築けるさ」

「なんでそんな自信ありげに言えるんだよ?」

「タンタンが気に入らないのは魔術に真剣じゃないからだろ。でも、今は違うよ。あいつは……魔術の迷宮に本気で挑もうとしてるはずだ」


 ディンの確信めいた口調にシーザは口をすぼめる。

 口を開きかけた瞬間、フローティアの声が響く。


「休憩終わり! さあ、先に進みましょう!」


 そこで話は自然と途切れ、一行はフローティアを先頭に火山の頂上を目指した。





 一時間後、噴煙にかすむ火山の頂上に辿り着いた。

 目の前に広がるのは圧倒的な巨大溶岩湖。赤々と煮えたぎる湖面は、まるで生き物のように脈動し、時折大きな気泡が弾けて鈍い爆音を響かせる。


 湖の縁では黒ずんだ岩肌が溶岩の赤光に照らされ、強い硫黄の匂いが鼻孔をつく。

 ゼゼの記憶で読んだ場所と、この光景は寸分違わず一致していた。


「ここだ」

「こんな場所にあるの?」


 フローティアは疑わし気にディンを見る。


「ああ。この溶岩湖に天界への入り口がある」

「まあ、誰も近寄らないから隠すには最適といえば最適ね」

「ただ問題がある。溶岩湖に飛び込むのは間違いないんだが、どの辺だったかはっきりしない」

「それ、一番重要なところじゃない!」


 フローティアは顔をしかめて叫ぶ。

 直径およそ500歩の円形の溶岩湖は、赤い湖面が熱波で揺らめき、隠された透明な魔術扉がどこにあるのか見当もつかない。不用意に飛び込めば、煮えたぎる溶岩に呑まれるだけだ。


「大丈夫だ。調べる方法はある」


 そう言って、ふわふわからエルフの姿に戻ったシーザは魔術印を丁寧に描き始める。


「魔検知!」


 結び語を唱えた後、シーザの瞳の周りに魔力が集まり、淡い光を放った。


「これは魔力探知の一種で、視界内にある魔術系の罠を見抜くためのものさ。ある程度近づく必要はあるが、魔力を持つものなら細かく識別できるぜ!」


 得意気にまくしたてる。とりあえずきっちり仕事させるため「流石シーザだ」と持ち上げる。気を良くしたシーザは、早速溶岩湖の縁から覗きこみながら扉を探し始めた。


「僕も探知魔術使えるから、それっぽい部分は見つけられるんだけど……」

「最年長だから、凄さを見せつけたいんだろ。張り切ってるし、やらせてあげようぜ。ここくらいしか活躍の場もなさそうだし」

「あなたたち二人はもっとシーザ様を敬いなさいよ……必死にやってるんだから」


 遠目から言われたい放題だが、それに気づかずシーザは汗だくで溶岩湖を覗き込んでいた。

 溶岩湖のすぐ傍なので熱気が肌を刺し、自然と額から汗が流れる。

 冷気を吹かせる魔道具で涼みながらしばらくその場で待っていると、シーザが大きく手を振ってディンたちを呼び寄せる。


「間違いねぇ。この下だ!」


 シーザは溶岩湖の北北東の縁からすぐ真下を指さした。ぐつぐつと煮えたぎる湖面のすぐ上に、透明な魔術の扉が隠れているという。


「かなり高度で魔力の痕跡を消してるが、私の目はごまかせないぜ!」

「本当だ。それっぽい扉があるね。魔力探知でなんとなくわかる」


 すぐ隣で覗き込むタンタンをシーザは睨みつける。


「てめぇ。私の手柄に便乗するとはいい気なもんだ。この手柄は私の独占だ!」

「そんな小さいことで喧嘩するなよ……とりあえずさっさと行こうぜ。どっちか先に飛び込め」


 ディンの言葉に二人が凍り付く。透明な魔術扉があると分かっていても、ぐつぐつ煮えたぎる溶岩の湖面に向かって飛び込むのは相応の勇気がいる。


「みんなで一斉に……」

「念のためだ。本来俺が行きたいところだが、ユナの体であり守る必要があるからな!」

「その言い分、ずるくない?」


 タンタンは白い目でディンを見る。


「いいからどっちか早く飛び込め!」

「私は最年長であり、伝説の勇者一行だ。よって、これは命令だ。タンタン、お前が行け」

「いやいや、今関係ないでしょ。むしろ最年長だからこそ率先して危険な場所に飛び込むものなんじゃないの!」


 不毛な押し付け合いが続く中、突然タンタンの背中に強烈な風が吹きつける。


「うわっ」


 タンタンは溶岩湖に落ち、途中で不自然に姿を消した。


「本当にあった。行きましょう」


 フローティアは悪びれずに言い放ち、次々と溶岩湖へ飛び込んだ。





 魔術扉をくぐり抜けた先に、一行の足元に広がっていたのは灼熱の砂の地面だった。

 着地して周囲を見渡すと、果てしなく続く砂漠が視界を埋め尽くす。頭上では太陽の刺すような光が降り注ぎ、ディンは思わず手を額に当てて目を覆った。

 すぐ近くに他の三人も立っていた。


「やいやい! よくもやってくれたね! 僕を突き落とすなんて何かあったらどうするんだぁ!」


 怒っているタンタンを無視して、フローティアはディンの方を見る。


「ここが天界なの?」

「違う。ここはゼゼの作った虚空間だ」

「……嘘でしょ?」


 フローティアの声が震え、シーザも目を丸くして固まる。

 焼ける砂の感触、照り付ける太陽光線、遠くで揺らめく陽炎は虚空間とは思えないほどの現実感がある。

 本物と区別がつかない。


「限りなく本物に近い虚空間だ。仕組みは知らないけど、ゼゼの虚空間は温度も匂いも完璧に再現するみたいだな」


 魔術師としてその凄味が理解できるのかフローティアとシーザは言葉を失う。

 一方、魔術の奥深さを知らないタンタンは、砂を払いながら飄々と笑う。


「へぇ。ってか、天界に直接繋がってると思ったのに、どういうこと!?」

「いつでも行けるように魔術扉を設置したが誰にでも行けるようにはしてないってことだ」


 天界はゼゼにとってミーナを匿う箱庭だ。己の作ったルートから万が一にも他の者が踏み込めないよう綿密に設計されていた。


「全部で百の虚空間が連なってる。それぞれ現実の場所を模した空間で、さっきみたいな魔術扉が必ずある」

「まさか百の扉を全部くぐる必要があるってこと?」

「いや、全部くぐってもこの砂漠に戻るだけだ。延々とループする。ある場所で魔術扉じゃない『本物の扉』を開けることで、天界に辿り着ける」

「なるほど。それを知らなきゃ永遠に虚空間をさまようってことかぁ」


 タンタンは納得したようにうなずく。

 これは規模がとてつもなく大きな迷いの森だ。その先でミーナは来ることのない姉を待ち続けている。


「言い忘れてたけど、後戻りはできない。不可逆というルールらしい。だから、さっきの魔術扉をくぐっても溶岩湖には戻れないし、虚空間内の魔術扉にも二度と触れられなくなる」

「それはつまり……?」

「永遠に虚空間から出られなくなるんだ。つまり、戻る道はなく天界まで進み続けるしかない」

「……」


 三人はそれぞれ固まる。


「待て。私もはじめて聞いたぞ」

「もう後戻りできないじゃん……」

「……普通、入る前に教えてくれるものじゃないの?」


 三人からの抗議の視線を、ディンは一蹴する。


「俺は今、魔術をまともに使えない。そのための護衛としてお前たちを連れてきた。なぜ俺の妹だけ危険に晒されなきゃいけない? 一心同体だ。最初から拒否権なんてない! 文句を言う前に死に物狂いで目標を目指せ!」

「ああ。やっぱりこいつディンなんだ……ユナの口からこんな身勝手な台詞が出るなんて、頭がおかしくなりそう……」


 フローティアは頭を抱えてうなだれる。


「問題ない。天界に辿り着けばいいだけだからな」


 ゼゼしか知らない天界への道筋だが、ディンはゼゼの記憶を読んで、その仕掛けを把握済みだ。辿り着く自信はあった。


「で? この広すぎる砂漠から、どうやって次の魔術扉を見つけるの?」

「魔術扉の位置は王都オトッキリーからその場所がどの方位にあるかに基づいている。この砂漠は王都オトッキリーの南東にあるアトランティー砂漠だ。つまり、魔術扉は南東をずっと進めば見つかる」

「なるほど。ちなみに知らない場所が出てきた時はどうするの?」


 フローティアの何気ない質問に、ディンが一瞬視線を外して答える。


「俺とシーザはダーリア王国の地理にかなり詳しい。有名どころならほぼ網羅している。だが、もしわからない場所が出てきたら……フローティアとタンタンの力が必要だ」

「というと?」

「しらみつぶしに探すしかない。見つからなければ、一生ここから出られないぞ」

「……」


 それぞれ再び呆れた表情で固まる。


「ディン……あなたって結構、自信満々に無茶ぶりするわよね?」

「この面子ならできると信じてるからだ。とにかく時間との闘いでもある。ここは一致団結してフォーメーションを組むぞ」


 ディンの提案にフローティアは渋い顔をしたが、シーザの説得に根負けし渋々同意した。

 ディンの作戦は、シーザがふわふわの姿からキングサイズのベッドに変形し、ディンとタンタンがその上に乗り、フローティアが風魔術で飛行して一気に運ぶというものだ。 これにより高速移動が可能となる。


 フローティアはシーザを持ち上げ、魔術の出力を上げて荒々しい風をまといながら勢いよく飛翔した。


「うわぁ。空を飛んでる! 最高に気持ちいいやぁ!」


 タンタンがシーザのふわふわにしがみつき、子供のようにはしゃぐ。

 シーザはただ運ばれるだけ、ディンとタンタンはのんびり乗っているだけ。負担のすべてがフローティアにのしかかっていた。


 フローティアは唇を噛みしめながら、不満を押し殺している。貧乏くじを引かせたのは申し訳ないが、これが最善だ。


「タンタン。ちゃんと魔術扉を探知してくれよ。頼りにしてるんだから」

「ふん! 頼られてしまったら仕方ない! ちゃんと仕事するさっ!」


 タンタンが得意げに胸を張る。やる気を引き出す一言で簡単に動いてくれる。

 面倒な性格であるが、裏表がなく扱いやすい一面もある。


 タンタンの探知魔術の範囲は他の術者より圧倒的に狭いが、探知のみに集中すればもう少し広い範囲までカバーできるらしい。


「見つけた」


 砂漠をしばらく進んだところで、扉を発見する。

 透明な魔術扉は砂と熱波に溶け込んでほとんど見えないが、砂山の上に揺らめく空気の歪みを近づいてようやく感じ取れた。


 扉をくぐると、一瞬で世界が変わった。

 目の前には緑豊かな高原が広がっていた。清涼な風が頬を撫でて、遠くの丘陵には彩り豊かな野花が揺れている。


「ボロ高原。王都から見て北北東だな」


 ディンが一歩踏み出した瞬間、タンタンの目つきが変わる。


「んー、なんかいるな」


 フローティアが無言で腰の剣に手をかけ、身構える。


「そういえば君たちに話しておくべきことがあった」

「まだ言ってないことがあるの?!」

「おい、いい加減にしろぉ!」


 フローティアとタンタンはそろって訝し気な視線をディンに向けた。


「ゼゼが作ったこの虚空間には、基本的に生物はいない。だが、完全な無人ってわけじゃない。スミやゼゼがここを通った時とは状況が変わっている」

「つまり?」

「天界への道が簡単すぎるとゼゼは思ったんだろう。念には念を入れて、ゼゼは大量の魔獣をこの虚空間に放り込んだ」

「……」


 低いうめき声が背後から響き、一行は反射的に振り返った。そこには、常人の三倍はあろうかという巨体のトロルが立っていた。錆びついた大剣を握りしめ、醜悪な顔には狂気の光が宿っている。重い足音が地面を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくる。


「つまり、こいつのように虚空間から永遠に出られない魔獣が潜んでいるってことだな。そして、これが侵入者への妨害にもなるってわけだ」

「あんたねー」

「うだうだ文句を言う暇があるなら、ユナを守るために戦えぃ!」


 これも二人を連れてきた大きな理由だ。不満たらたらの表情をしながらも、魔獣を瞬く間に撃破した。


「よし。この調子でサクサク行くぞ」


 ディンが軽快に言うと、フローティアとタンタンは再び呆れた目を向けた。

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― 新着の感想 ―
ユナの身体だから殴るに殴れないな。 でもあとで魔術戦ってテイでボコられそうだな
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