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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第二章 魔術師団編
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第20話 好き嫌いの先入観を混ぜると判断力が馬鹿になるぞ

 本部から自宅に戻った後、ディンはシーザの展開した魔壁に左手でずっと触れていた。が、タンタンの時のように消えていく感覚はない。諦めてシーザと対面するソファに座る。


「たまたまだったのかなぁ。シーザは分解魔術って聞いたことあるか?」

「私もはじめて聞く。一般魔術じゃなく特質魔術なのは間違いない」 


 魔術は大枠で二種類に分かれる。

 一般魔術と特質魔術。


 一般魔術は多くの人が素養を持ち扱えるものであり、その分かなり研究が進んでいる魔術だ。

 代表的なものは、火炎魔術、風魔術、土魔術、水魔術、雷魔術、増幅魔術、引斥力魔術などがあたる。

 

 特質魔術の定義は0.001%以下の人間に扱える魔術だ。

 扱える人間が少ないので、研究が進んでおらず未知の部分が多い。

 代表的なものは時空魔術や回復魔術だ。


「特質魔術の素養を持つ人間は結構いるんだ。能力開発が難しいってだけでな。何を隠そう私の変身魔術も特質魔術だ。へへん。特別ってことだ。すごいだろ?」


(特質の中はゴミみたいな魔術もあるってことか)


 思ったことを言葉にせず、話を続ける。


「そもそも使用すると身体にリスクがある魔術なんてあるのかよ?」

「まあ、近年使用禁止になった増幅魔術の例もあるしな」


 増幅魔術は魔族討伐に最も貢献した魔術といわれる。一時的に魔力で身体能力を劇的に向上させ、自力の何倍もの力を引き出せる。祖父である勇者エルマーが使った魔術であり、魔王ロキドスを倒した魔術としても有名だ。

 

 が、この魔術が身体に与える悪影響が近年問題視されていた。

 身体の免疫細胞が壊れ、病にかかりやすくなる。寿命が短くなる。そんな風説がダーリア王国では出回っていた。


「実際、禁止魔術にするほどのもんなのか?」

「反魔術師団体が不確かな情報で騒ぎ、禁止魔術にしたという話もあるな。確かにやつらの研究には仮定の話ばかりででたらめも多い」


 そう言いつつ、首をひねる。


「ただ最近高名な使い手が立て続けに早死にしてるんだよな。一方でお前の祖父のエルマーみたいに寿命をまっとうしてる奴もいる。正直、わかんねぇな」


 曖昧な見解だが、増幅魔術が身体に負荷がかかるのは間違いない事実だ。祖父は魔王ロキドスとの戦闘以降、戦いの前線に立つことはなかった。ロキドスとの戦いのダメージが大きかったと本人は言っていたが、増幅魔術を使用した影響が全くなかったかと言えばおそらく嘘になる。


「どちらにしろユナが分解魔術を使って昏睡状態になったってのは事実だ。だから、あまり使わない方がいいぜ」

「わかってるよ」


 分解魔術に関心があったが、ユナの身体が第一だ。魔術師として初心者の自分が下手に手を出すべきでないのは重々承知していた。


「それより今後のことだが」


 こちらの様子を伺いつつ、シーザは続ける。


「思い切ってゼゼ様に全部相談するってのはどうだ? あの人以上の魔術師はいない。転生に関しても知ってることがあるかもしれない」


 自然と押し黙る。ゼゼに対してディンの中では未だ心証が悪く、相談することに抵抗があった。


「思うことがあるのはわかるけど、好き嫌いの先入観を混ぜると判断力が馬鹿になるぞ」


 シーザの忠告は正直、耳が痛い。冷静な判断ができているかというと怪しいが、ディンの中でゼゼへの不審感があるのも確かだ。


「そもそもだが、ゼゼは国の切り札と呼ばれるほどの魔術師なのか?」

「もちろんだ。強さもすさまじい。百四十年以上前、東部ルビナス攻防戦においてゼゼ様はロキドスをはじめ複数の魔人たちを相手取って、全員退却させたんだ」


 シーザは興奮の面持ちでまくしたてる。


「じゃあ魔王討伐の時、なぜゼゼは一度も戦おうとしなかった?」

「……戦わなかったが、軍の指揮をとっていたし、王都を守る役割を担っていた」

「この前、ライオネルの護衛隊長であるベンジャも、一度も戦うところを見たことがないと言っていた。他にも色々な人間に聞いてまわったが、全員同じ答えだった」


 シーザは黙り込む。シーザの表情からも思うところがあるのが伺える。


「確かに百年ほど前からゼゼ様は一切前線に立たなくなった。大きな病や怪我を隠している可能性はあるな……ただ魔術師としての知識は素晴らしいし、相談する価値はあると思う」


 一気にトーンダウンする。同族であるシーザとゼゼの関係性はわからないが、この口ぶりから詳細は知らないのだろう。つまり、ゼゼとはかなり距離がある。


「言っちゃなんだが、シーザはゼゼをかなり美化してるよな。無意識のうちに都合のいい解釈をしている」

「どこがだよ」

「ユナが身の丈に合わない魔術を使ったから事故が起きたとゼゼは言ったよな? シーザはどう思った?」

「言える最大限のことは喋ってくれた印象を受けた」

「都合の悪い部分は喋ってないという解釈はしないんだな」


 ディンの皮肉にシーザは苛立ったのか目つきが鋭くなる。


「ゼゼ様とは相応の付き合いがある。あの人の性格は熟知してるつもりだ。二十歳そこそこの若造にはわかんねぇだろうけどな!」


 殺伐とした雰囲気で空気が濁る。

 少し間を空けてからディンは切り出す。


「タンタンの魔壁に触れて消失させた現象を思い出すと、分解魔術はおそらく魔術を無力化できる効果がある」

「だろうな」

「ユナの魔術は問題を解決できる可能性を秘めていたとゼゼは言った。おそらくゼゼは何かの魔術を無力化させたかったんだ。だから、機密を話してそそのかした」

「そそのかしたってのは……」

「君にしかできない大義だとささやかれれば、どう思う? 当時十二才の子供なら、損得抜きに使命感に駆られてもおかしくない。そうやってあいつは子供をうまく利用した」

「待て。それは悪意がある解釈だ。ディンの気持ちもわかるけど……今与えられた情報から正確な判断はできないだろ」

「だな! だから、俺はユナの事故の全容を知るまでは、あいつに背中を預けるつもりはない!」


 ディンは居丈高に宣言する。シーザは説得できないと悟ったのか、ため息をついて「わかったよ」と言った。



 長い沈黙が続き、シーザがぽつりとつぶやく。

 

「しかし、二人だけじゃ心細いぜ」


 それは今まで口にしたことのないシーザの本音に聞こえた。そしてそれは喫緊の問題であるのは間違いない。二人で対処できる問題ではなく、信頼できて腕の立つ仲間は必須だ。


「安心しろ。一人とっておきがいる」

「本当かぁ?」


 シーザの目つきは半信半疑だ。


「お前の周りにいる連中は癖のあるやつが多すぎる」


 心当たりのある指摘なので反論できない。しかし、その中にはシーザも含まれていることを本人が気づいていない。


「まあ、そっちの件は任せておけ」


 内心納得してなさそうだが、渋々シーザは引き下がる。


「じゃあこれからどうする?」

「残りの六天花と会う。容疑者全員と接触するのは必須だ」

「だな。ただ残りの三人は色々な意味で大物だな」


 謎だらけの序列二番とフリップ家のご令嬢である序列六番は置いておいて、すぐに会えそうな序列三番に見定める。

 

 序列三番はディンとしては最も見知った仲であり、六天花の中で最も大物と言える人物だ。

 本来色々と手続きが必要で簡単に会うことが許されないが、序列三番は王都のタンポー病院に定期的に出入りしていることをディンは知っていた。


「普通なら拝顔する機会もないんだが、ユナならノーアポでも面会できる。しかもタンポ―病院といえばいわく付きだ。一度訪問する必要がある」


 魔術師御用達の病院として有名だが、魔王ロキドスが転生したフィリーベルの勤めていた病院でもある。なんとなく導かれているような気がした。

 ただ問題もある。ユナは一人で自由に出歩くことをまだ許されていなかった。王都を気軽に出歩けないためタンポ―病院に行くには何らかの理由が必要だ。


「まあ、本格的に動くのはユナの経過観察が終わった後だ」


 お墨付きを得て、一人前の魔術師として認められてから動く。その方が自分で選択できる行動の幅が増える。

 魔術の訓練をして過ごした数日後、ゼゼ魔術師団にアルメニーア支部から緊急連絡が入る。



 南部に位置するアルメニーアにて前代未聞の事件が起きていた。


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