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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第二章 魔術師団編
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第19話 どれか一つでも破れば、即刻破門とする

「狙い通り頭突きでタンタンさんに一発食らわせました」

「ちょい! ちょい! 最後空振りしてこけそうになっただけだよね!」

「……フェイクの動きで、狙い通りです」

「うそーん」


 色々と偶然が重なったが、条件を満たしたのは間違いない。ゼゼもそれはよく理解しているようで二人を一瞥して、タンタンに冷淡な視線を浴びせる。


「お前は遊びすぎだ。魔道具も付けず、相手を舐めて魔力も抑えてたな。だから手痛い一撃を食らうんだ」


 ディンはその言葉に少しショックを受けた。必死の思いで一撃を加えた相手は想像以上に手を抜いて戦っていたらしい。ディンも攻撃されないとわかっていたから思い切って前に出れた。まともな戦いだったら勝負にはならなかっただろう。

 

 が、どうあれ勝ちは勝ちだ。

 ゼゼはディンの方に向き直る。


「魔道具を使いだしたのは心境の変化か?」

「まあ、そんなところです」

「どうあれ一撃与えたのは事実だ。よくやった、ユナ。約束は守ろう……話すべきこともできたしな」


 意味深に最後の一言を強調する。


「では、さっそくですがこの後ゼゼ様の部屋に行ってもよろしいでしょうか?」

「ああ」


 ゼゼは少し渋い表情で応じた。


 



「タンタンよ。いくら何でも油断しすぎではないのか?」


 のらりくらり歩くタンタンの背中に声をかけたのはアランだ。


「お前は六天花の最上位だ。気が緩みすぎるのは軍の士気に関わる」

「さっきの戦い? いやぁ、別にいつも通りだったよ。どういうわけかユナが戦い上手になってた。なかなか面白かったな」


 全く悪びれず、タンタンは笑みをこぼす。そこに負けたという意識は一切なく、まるで遊んだ後の感想だ。自然と苦言の言葉が口から出る。


「面白い面白くないが問題じゃない。お前はいつもそうやって気の抜けた言動で周りを軽んじる。自分の立場というものをもっと考えろ」

「あっ! わかった! アランさん! 自分が僕に今まで一撃も与えられてなかったから、ちょっと悔しいんでしょ? 自分より一回り以上下のユナに先越されちゃったから!」


 アランの顔が怒気に包まれるが、タンタンは微笑みを崩さない。

 タンタンとの距離約五歩分で常人なら射程圏内。一瞬で叩きのめせるがタンタンの魔壁の展開速度はそれを優に上回る。

 正に絶対防御。これをかいくぐれた魔術師は過去にほとんどいない。


「まあ、気にすることないって! 僕に攻撃当てたのは全力のフローティアとトネリコ王国の……誰か忘れたけど、その二人だけさ」


 タンタンにスピードはないが、圧倒的防御力と圧倒的近接攻撃力を備えた珍しい魔術師だ。この才能に向上心がつけば誰も文句は言わないのだが、精神的にムラがあるのが致命的な傷だ。

 様々な感情を一旦飲み込み、アランは問う。


「ユナと戦って以前までの変化など、何か感じたことはないか?」

「うーん。以前がどんな感じか忘れたけど……ただ」


 タンタンは立ち止まりアランの方を振り返る。


「訓練場で容赦なく殺しに来た人間ははじめてだね」

「それは……」

「最悪死んでもいいかくらいの割り切った眼だった。もっと純粋なイメージだったけど、なんか戦い方も計算されていたし……なんだろうな、あの感じ」


 タンタンは自分の中にある違和感をうまく言語化できず、考えることをやめた。


「まあ、いいや。あと気になったことといえば、ユナって魔力量明らかに減ってない?」


 それはアランも感じていたことだった。戦い方や魔力制御など、熟練された魔術師の動きになった反面、フローティアさえおののいた膨大な魔力量が陰をひそめている。


「まだブランクがあるのかもしれないな」

「あと、最後のあれ……」

「ん? なんだ?」


 タンタンはアランと目を合わせるも、何か思い直したのか背中を向ける。


「まっ! 気のせいだな。僕は帰るー」


 いつもどおり暢気なセリフを吐いて、タンタンは訓練場を後にした。

 




「では私の事故の件、詳しく教えてください」


 最上階のゼゼの私室でソファに座るなり、単刀直入にディンは切り出した。ゼゼも聞かれることを予想していたようで、軽く嘆息してから答える。


「私の機密に関する部分を伏せた上で可能な限り話すという条件だ。当然、ここでの話は他言無用だ」

「わかりました」


 拒否権はないので即座に了承した。ゼゼはゆっくりと口を開く。


「ユナが身の丈に合っていない魔術を使った。それによりあのような事故が起きたのだ」

「それは具体的にどういうことです?」

「これ以上は、機密に触れるので言うことはできない」


(この糞チビ、馬鹿にしてんのか)


 抽象的すぎる説明に苛立ちを覚える。これじゃほとんど説明していないのと同じだ。


「それよりタンタンとの立ち合いで見せたものだが、最後のあれはなんだ?」

「どういう意味です?」


 意図がわからず問い直すが、ふとタンタンとの戦いを思い出した。最後、目の前にあった魔壁に触れた時、綺麗に溶けたような感じだった。


「もしかして……あれが身の丈に合っていない魔術?」


 ゼゼはそこで自分の失言に気づいたか、舌打ちをした。


「あれは秘匿魔術だ。基本、人前での使用は禁止、さらに使用できることを口外することも禁止している」


 そんな重要な魔術をユナが使えると思わず、ディンは虚を突かれた。

 ユナは当時十二才。そんな子供が機密を知るなどありえないと思っていたが、特別な魔術を持っていたのなら話は変わる。


「私が秘匿魔術を持っていたから、ゼゼ様は機密を話したんですね?」


 ゼゼはそれに反応せず、表情にも感情の色は出ないが、何も言わないことが逆に答えだ。ユナは本当に魔術師団の機密を知っていたのだ。それはディンにとって予想外の事実だった。


「で? 私の魔術を利用して何をしようとしたんですか?」

「利用というのは不適切な言い方だな」

「でも、そう解釈されてもおかしくないでしょう? 具体的なことには一切触れないんだから」


 痛いところを突かれたのか、ゼゼはばつの悪そうな顔をする。


「わかった。もう少し踏み込んだことを教える。お前の持つ魔術はある問題を解決できる可能性を秘めていた。だから、博士という幹部の一人が目をかけていた」

「そして私に魔術を使わせて、失敗した」

「正確な表現ではない。が、こちらに責任があるのは事実なので弁明はしない」


 ようやくユナの事故の原因が見えてきた。しかし、これ以上のことを教える気はゼゼになさそうだった。


「では、私の持つ魔術について教えてください」

「身の丈に合わない魔術だ。知る必要はない。また、同じ目に遭いたくはないだろ?」

「だからこそ情報をください。さっきも意識せず出たし、ある程度概要は知っておかないと何が危険なのかわかりません」


 ゼゼは睨みを利かせるが、一理あると考えたのかすぐ表情を戻す。


「少しだけだ。その魔術は魔力あるものを分解できる。分解魔術と呼んでいる」


 はじめて聞いた魔術だ。が、その説明でタンタンとの戦いで起きた現象にも納得できる。あれはタンタンの魔壁を分解し、無力化していたのだ。


「十分約束は果たした。これ以上は何も教えん。調べることも禁止、使用も禁止。当然他言も禁止だ。どれか一つでも破れば、即刻破門とする」

「はあ? そんな横暴な……」

「破門だ! わかったな」


 有無を言わせぬ圧に屈し、ディンはそれ以上何も言わなかった。


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