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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第十章 トネリコ王国編
188/224

第188話 ギルド長の評価は謙虚に受け止めろ!

 ゼゼ魔術師団である証明書さえ見せれば、冒険者として登録できるようになっており、手続き自体はとても簡単だった。

 ネーション家の紹介ということもあり、冒険者登録はあっという間に完了した。


「あとは冒険者カードを発行すれば、手続きは完了です。その際、魔術師団の皆様にはほんの少し優遇措置があります」


 予想通りだったが、素知らぬ振りでディンは問いかける。


「というと?」

「冒険者には上からプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、ホワイトの五つのランクがあります。実績によってランクは決められており、ゴールドの依頼はゴールド以上の者しか受けられないようになっております」

「最初はみんな一番下のホワイトで、ホワイトの依頼しか受けられないってことですね」

「はい。それが通例ですが、実力ある者が簡単なホワイトの依頼しか受けられないのは宝の持ち腐れというもの。特にゼゼ魔術師団の魔族討伐部隊はエリートですので、それぞれに見合ったランクをあらかじめ与えられればと思います」


 予想通り実力ある者は飛び級可能だった。さっさとゴールドランクの称号を得たいディンにとっては都合が良い。


 さっそくギルド長との面談がスタート。ルゥとアイリスともに魔獣討伐経験は少ないが、ゼゼ魔術師団の六天花という立場であることが考慮され、シルバーランクの称号をあっさり得た。


 ちなみにトネリコ王国の常識だとルーキーのホワイトからブロンズまでは平均して二年、ブロンズからシルバーに上がるには三年近くかかるという。


「偉大だねぇ、ゼゼ魔術師団は」


 ぼそりとつぶやくディンの言葉にシーザは反応する。


「それだけ一目置かれてるんだよ。他国に出ればその威光がよくわかる」


 特にトネリコ王国は魔術師への敬意が深く、世界最強と目されるゼゼ魔術師団は魔道具に溢れたダーリア王国以上に評価されているといっても過言ではない。


「では次はユナ様ですね。ユナ様もお若いながら六天花ということで。なんと素晴らしい!」


 すでに退団している身だが魔術師団の証明書などは保有している状態だったので、ディンはしれっと魔術師団の一員として冒険者登録していた。


「おまけに勇者一族です。正に黄金!」


 自分で自分を持ち上げるディンにギルド長以外は全員白い目を向けるが、ディンは気にしない。


「ですな! 奇跡を引き起こす一族が再び冒険者になるとは私としても胸躍る。というわけでシルバーランクスタートということでよろしいですかな?」

「誤差ってことでゴールドにできません?」

「いや! 誤差ってレベルではないですよ!」


 ギルド長は思わず突っ込むがディンは表情を変えない。

 シルバーからゴールドに上がるには通常シルバーランクの任務を最低二桁以上こなす実績が必要となる。

 いきなりゴールド昇格は簡単でないと理解していたが、今しかランク交渉の余地はないので限界まで粘ることにした。


「はははっ。まあ、聞いてください。私は隣の二人とは魔族と戦った経験値が違うんです!」


 アイリスとルゥはムッとした表情になったがディンは気にしない。対面するギルド長は興味津々な表情に変わる。


「なるほど。では、これまでの魔族討伐経験を教えてもらえますか? それによってはランクを上げますよ」

「ふっ。驚くと思いますよ」


 ディンは不敵に笑う。


「ぜひ伺いたい! これまで倒した魔獣の数は? ざっくりでいいので教えてください!」

「あっ! それは……ないですね」

「ん?」

「魔獣は倒したことないです」


 少しの間静寂に包まれる。


「あれぇぇ! そんな腕組んで自信満々の表情なのに魔獣討伐経験ないんですか!!」

「まあね」

「ちょっ! そんなしたり顔で言われても! なんでゴールドになれるって思っちゃったのぉ?!」


 ギルド長は驚き顔のまましばらく固まっていた。

 振り返ると、今までろくに魔獣討伐経験はなかったが、ディンにも言い分がある。


「まあ、聞いてください。私は魔人やヨルムンガンドという強敵と交戦した経験があるんです!」

「交戦しただけだと評価対象には……」

「マゴールの心臓っぽい部分を貫き、レンデュラにもそこそこの深手を負わせました! 痛めつけてやりましたよ!」

「心臓っぽい部分とかそこそこの深手とかニュアンスがかなり怪しい気が……倒してはないんですよね?」

「まあね」

「……すごいとは思うんですけど」


 冒険者の査定はあくまで討伐である。倒してないのなら実績とはならないのがルールだ。

 ヨルムンガンド討伐も多くの人間の力で討伐したので、大きなアピールとはならず。

 その後も、酒を水で限界まで薄めたような理論を並べて、必死にアピールするものの、ギルド長は申し訳なさそうにすべてはねのける。


「見苦しいぞ! 小娘! しょせんお前はシルバー止まりなんだよ!」


 聞いてられなかったのか、隣のシーザが一喝するように叫ぶ。


「ったく、必死に交渉しやがって。醜いったらありゃしない。お前は商人じゃなく冒険者なんだ! ギルド長の評価は謙虚に受け止めろ!」

「くっ……」


 身内に正論を言われ、ディンは黙り込む。


(まあ、シルバーは予定通りではある)


 ゴールドへ一発で上がるのは流石に無理があると気づき、いったん引くことにした。


「次は私だな!」


 したり顔で吠えるのはシーザだ。実績は十分なので自信に満ち溢れていた。


「ギルド長。お前も私のことは知ってるだろ? 伝説の勇者ご一行であるシーザ様だ!」

「無論です」

「私が討伐したのは魔王ロキドス! 魔王だ! そのあたりも考慮してランクを決めてもらおうか!」

「そうですね……では、シーザさんはホワイトからになります」


 シーザはきょとんとした表情で固まる。


「今なんて?」

「ホワイトですね」


 少しの間、固まっていたシーザは唐突に机を叩きつける。


「てめぇ! ふざけやがって!! 殴られてぇのか!!」

「評価を謙虚に受け止めるって話はどこ行った?」


 ディンは思わず突っ込むが、シーザは顔を真っ赤にしており聞こえていない。


「落ち着いてください! 五十年以上前の実績は考慮に入れられないルールなんですよぉ」


 ギルド長は申し訳なさそうな表情で平身低頭しているが、引く様子はない。

 立場の高い者になびくような姿勢ではあるが、ギルド長としての芯はしっかりしている印象だ。

 が、シーザもプライドだけは無駄に高いので、当然引かない。


「といってもだ! 私の昔のダーリア王国での実績はゴールドランク! 限りなくプラチナに近いと自負している。となると、ゴールドが妥当だよな?」

「記録を調べたのですがシルバー止まりですよ?」


 それを聞いてシーザは再びきょとんとした表情で固まる。


「え? うそ?」

「嘘じゃありません。間違いないかと」

「……」


 場は自然と静まり返る。


「シーザ……まさか冒険者ランクまで思い出補正してずっと嘘をついてたなんて」

「違う! 違う! ゴールドランクは嘘じゃない! だってゴールド以上じゃないと魔王討伐メンバーに選ばれなかったんだ!」


 シーザは必死に無実を主張するが、今までの言動から自然とディンは疑惑の目を向ける。


「どうやらダン様の関係で冒険者ランクが落ちたようですね」

「あっ……」


 シーザはその言葉で納得したような表情になる。


「なるほど。わかった……じゃあ不服ながらこいつらと同じシルバーランクから始めるか」

「ですから! 五十年以上前の実績は白紙となるので、シーザ様はホワイトからになります」

「私だけルーキーと同じ扱いかよ! ふざけんな!」


 その後、シーザはディン以上に醜くあがいたが、結局ホワイトから上がることはなかった。





 冒険者カードを得るために最低一度は無償任務をこなす必要がある。それがトネリコ王国で冒険者になる掟の一つだ。

 登録手数料のようなものらしく、時間にも余裕があったので、その日のうちに依頼の一つをディン達はこなすことにした。


「任務を手伝えないから私はいったん帰るね」


 そう言って、ミレイは一足先に冒険者ギルドを後にした。

 ギルドの二階には壁一面に貼られた依頼書があり、そこから依頼書を取り、受付に依頼を申請。

 受諾されれば、すぐにでも任務を開始できるという流れだ。


 というわけでディン達は壁に貼られた依頼書を眺めていた。


「昔に戻ったようだ。懐かしいぜ!」

「ホワイト君は先輩風吹かせるのやめてくれないかな?」

「ホワイト君ってさげすむのはやめろ!」


 シーザを軽くおちょくりつつ、その横顔にさりげなく尋ねる。


「で? ダンって誰なの?」


 何気なく問いかけるが、シーザは壁の依頼書をじっと見たまま、しばらく反応しない。


「まあ、お前が知る必要はないよ」

「ふーん」


 シーザはふと思い立ったようにディンの方を見る。


「逆に聞くが、ピンとこないか?」

「えっ? 何が?」


 シーザの問いの意味を理解できず問い返すが、シーザはそっぽ向く。


「とにかく! 今の私たちには関係ないことさ」


 話を濁されたが、重要であるなら共有しているはずなのでディンもそれ以上追及するのをやめた。



 改めて依頼書を眺める。無償任務は何でも良いのでできるなら簡単で時間のかからないものが良い。

 四人並んで壁の依頼書と睨めっこしてると、再びギルド長が近づいてきた。


「もし本日任務をこなすのでしたら、おすすめがあります」


 ギルド長はディンの耳元でささやき、依頼書を一枚手渡した。

 意味深な視線を向けてきたのをディンは見逃さない。


 何かあると思ったが、依頼書はただの魔獣退治の依頼だった。

 出現スポットも距離的に近く一見すると普通だ。

 他の依頼書と違いがつかない。

 ギルド長の思惑を伺おうとその目をじっと見るも、その瞳から意図は見えない。


「うーん。でも、他にも薬草摘みとか簡単な任務もあるし――」

「これがいいっす!」


 隣にいたアイリスは勢いよく依頼書を手に取る。


「私たち魔術師団ですから、当然魔獣討伐を率先して請け負うのが妥当! 距離的にも近いですし、あっという間に任務もこなせるっすよ!」

「……そうかもだけどさぁ」

「ここから私の冒険者としての旅が始まるんすね!」


 アイリスは遠い目をして楽し気に語る。

 薄々気づいていたが、アイリスは冒険者に憧れていたようで、露骨にはしゃいでいた。


 依頼書に引っかかる部分はあったが、いったん考えるのは止めた。

 ディンも魔獣討伐経験がないと軽く見られることは理解できたので、アイリスの希望を踏まえて、その依頼を選ぶことにした。


 スイーピーのルーキー冒険者が最初にこなすことで有名な依頼。

 その内容は、万力蟻の巣を駆逐するというものだ。


「では、皆様! 任務の方よろしくお願いします!」


 ギルド長は口元に笑みをこぼし、丁寧に頭を下げた。

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