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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第九章 鸞翔鳳集編

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182/238

第182話 条件は一つ

「問題ってなんです?」


 ディンの問いにガーベは険しい表情のまま固まっていた。

 その表情から簡単な問題じゃないことが伺える。


「理論上は問題ないはずなんだ。実際に命令通り動く。ただ……まあ、見てもらった方が早いか」

 

 そう言ってガーベは奥の棚から両手に持てる大きさの制御装置を手に取る。黒い制御装置には押しボタンやスイッチがついていた。

 隅に立っていた全員にキリッとした顔を向ける。


「我が名はガーベ・ゲッキツ! ゲッキツ家三代目人形師! 我が手より生まれし、最新の自動人形オートマタ、とくとご覧あれ!」


 急に口上のようなものを述べだして全員戸惑うが、自然と左手側に置かれた自動人形オートマタに皆の視線が向く。


「前進!」


 そう言って少し時間が経った後、一体の自動人形オートマタは二足歩行でゆっくり中央に向かって進みだす。

 それを見ていたディン、ガーネット、アイリス、メラニーはそれぞれ感嘆の声を上げる。


「おー。すごい!」

「すごいねー」

「すごいっす!」

「すごいじゃん」


 魔石採掘場で見たものよりずっと速い速度で進み、ディンは素直に驚いた。

 ガーベはそれを聞いて、心なしか気分よさげな表情をする。


「停止!」


 そう叫び再び制御装置を操作するが、自動人形オートマタはずんずん歩き続けなかなか止まらない。ガーベの操作後、おおよそ十数えた後にゆっくりと自動人形オートマタは止まった。

 中央で停止命令を出し、右手側の壁際まで自動人形オートマタは進んでいた。


「止まるの遅くない?」

「遅いよねー」

「とろいっす!」

「遅っ。ダメじゃん」


 四人そろって同じ感想を口にする。ガーベは明らかにイラっとしていたが、それを口には出さず、自動人形オートマタに曲がるよう命令する。

 それも同じくらい間が空いたあとにゆっくりと体の向きを変える。

 命令にはキチンと従うのだが、命令信号を出した後のラグが明らかに大きい。


 その後操作を繰り返すが、思い通りの位置に動かせないことにガーベは苛立ち、自分で自動人形オートマタを抱えて移動させていた。

 その自動人形オートマタが相対する位置には丸い的がある。


「攻撃!」


 自動人形オートマタは少しの間、固まっていたがやがて両腕に持つ魔銃をゆっくり構え照準を合わせる。

 これも十数えるくらいの間があってから、魔銃を放った。


「遅ーい」

「私でも避けれるなぁ」

「ってか自分で移動させるなっす!」

「ただの不良品か」


「うっさい! 素人ども! 文句ばっかり言うな!」


 ガーベが切れて、怒鳴った。

 自動人形オートマタは機能しているが、兵士しての役割を果たすにはまだまだ支障のある段階なのは明らかだった。

 ガーベは一度深呼吸して落ち着きを取り戻す。


「まあ、とにかくこんな感じだ。最高ランクの魔石を使ってようやくこの状態に至る。これ以上パフォーマンスを引き上げるにはどうすればいいのか……コストもバカにならないし、これじゃ量産なんて夢のまた夢。悩みは尽きない」


 全員少しの間、固まっていた。それは火を見るより明らかだった。

 今までの小さな人形ではおまけ程度の魔力で動かせていたが、ガーベの自動人形オートマタは巨大な魔力をエネルギーに換算して動かす仕組みが必須となる。


 つまり、魔道具として出力を高める技術を組み込まなければならないのだ。


「単純に魔道具としての性能が低いだけでは? 人形作りはプロかもしれませんが、出力の高い魔道具を作るのははじめてですよね?」

「ユナちゃんの言うとおりだと思う。からくり人形としては完璧だけど、魔道具って観点で問題があるんだよ。良い魔石を使っても、魔道具の方がへぼだと性能は上がらないし」

「明らかっすよ! その制御装置の作り方に問題があるっす」

「人形作りに夢中で大きな魔道具としてとらえる意識がないんだろうな」


「黙れ! 素人ども! 余計な口出しをするなぁ!」


 ガーベのプライドに触れたのか、また急に怒り出した。とりあえず自動人形オートマタに関してケチをつけられるのを何より嫌う傾向にあるらしい。


「ガーベってこういうところあるから」


 ガーネットが隣でひそひそとささやく。

 ディンは仕方なく口元に笑みを浮かべて切り出す。


「ガーベさん。あなたの発想は天才的です。ただ少し足りないものがあるとするなら魔道具の理解と魔術の知識。それに関しては私たちの専門です。もしよろしければ、一つ助言をさせていただきたいのですがいかがでしょう?」


 ガーベはそれを聞いて少しの間、考え込み「そこまで言うなら」と応じる。

 ディンはガーベから制御装置を受け取り、それをアイリスに手渡す。


「この制御装置から命令して同調させるための信号を送ってるわけですよね。ラグがある原因の一つとしておそらくその信号が弱いのでしょう。一流の魔道具師ならもっと信号を強めるための創意工夫ができるはずです」

「本当かい?」

「ええ。ですが、今回はアイリスがいるのでもっと手っ取り早い方法を取りましょう。信号の威力をアイリスの魔術で強めます」

「アイリスの魔術って……」

「アイリスは魔道具の効力を押し上げる増幅魔術の使い手です」


 アイリスは魔術語を唱えた後、結びの言葉を口にする。


「魔力廻天」


 アイリスの持つ制御装置が反応し、魔力が流れ込む。ここ最近、訓練をし続けた成果か、アイリスの増幅魔術の効力は以前よりずっと向上していた。


「これで試してみてください」


 魔力を注いだ制御装置をガーベに手渡す。半信半疑の表情ながらガーベはそれで操作をする。


「前進!」


 その直後に自動人形オートマタはスムーズに動き出した。速度も俊敏でさきほどと明らかに動きが違う。


「おお!」


 その違いに驚いていたのは他でもないガーベだった。


「停止!」


 先ほどはしばらく惰性のごとく進んでいたが、ピタリと止まる。

 ガーベはそれに興奮し、何度も前進させては停止を繰り返した。

 曲がって移動させるのもスムーズで的の前まであっさり操作で動かすことができた。


「攻撃!」


 そのかけ声で自動人形オートマタは即座に両手に持つ魔銃を握り、発射する。


「す、すごい……」


 ガーベは感動のあまりしばらくの間、身体を硬直させていたが、唐突にこちらに振り返る。


「すごいよ! これこそ正に俺が求めていた動き! ここからさらに発展させれば本当に革命となる作品となる! 興奮が止まらない!」


 そう言いながらガーベは涙を浮かべながら、「ひひひっ」と笑っていた。

 喜び方も狂人にしか見えなかったが、ディンは笑みの形を崩さず答える。


「ご期待に添えたようでよかったです。ガーベさん」

「うん! 全く期待していなかったが、相談してみるものだ。おかげで俺は今までにないほどやる気に満ちているよ!」


 ガーベは興奮を抑え込めず、それから少しの間勝手に自動人形オートマタを操作していた。

 その完成度の高さはディンにとっても朗報だった。

 実用段階までまだ少し距離があるが、キクの力を借りれば間違いなく類を見ない兵器に変わる。


(計算どおりだ)


 ガーベが自動人形オートマタを元の位置に戻したところでディンは切り出す。


「ところでガーベさんに相談なんですが、今後その自動人形オートマタをより成長させるため魔術師団で研究をするというのはどうですか? 実は今日、そのお誘いをしに来たのです」

「えっ?」


 ガーベにとって予想もしない提案だったのか戸惑いの表情を浮かべる。


「あなたの自動人形オートマタの進化を手助けできるのは魔術師団だと考えております。あなたにとっても得られるものは大きいと思いますよ」

「いや、でも、今はドンさんから資金提供を受けている身だし……ドンさんは魔術師団に対してあまりいい印象は持ってないし」

「それに関しては問題ありません。あの人からはできることがあればなんでも協力すると全面支援の約束をしていただいています!」


 そう言って、ディンはガーネットの方を見る。


「よね?」

「う、うん……そうだけど、私の一存では――」


 ガーネットはこんな話になると予想していなかったのか、困り顔に変わっていた。

 そんなガーネットの手を握り、ディンは上目遣いで見る。 


「ガーネット、協力できることがあるなら何でもするって言ったよね? あれは嘘なの? 私に嘘をついたの?」

「そ、それはそうじゃなくて……」

「大丈夫! ガーネットが頼めば、ドンさんも納得してくれるって! ガーネットお願い! 私たち、友達だよね?」


 両手を合わせて、おねだりのポーズをとる。ユナの中身がディンだと知るアイリスは白い目を向けていたが、気にしていられない。

 

「まあ……ガーベの気持ち次第だけど、何とかなるかぁ。ユナちゃんと約束もしちゃったし、確かに魔術師団内で研究した方が良さげだしね!」


 あっさりガーネットは前向きな発言をした。ユナから魔道具の装飾人になるという夢を後押ししてもらって以降、ガーネットはユナに対し恩返ししたいという気持ちを強く持っている。

 よって強く押せば、希望が通るとディンは予想していた。


(これも計算通り)


 人の心を利用するようで気持ちのいいものではないが、ガーベの自動人形オートマタは最初に見た時から欲しかったものだ。よってここは割り切ることにした。


「じゃあ、そういうことで――」

「いや、まだだ!」


 牽制を入れるように叫び、ガーベはディンを見る。


「確かに俺にとって悪くない話だ。ただ無条件で君の言い分を聞くつもりはない」

「なるほど、当然待遇に関する条件も必要になってきますね。ならそれも含めて話し合いをしましょう。私にできることならなんでもさせていただきますよ!」


 ガーベの祖父と取引したことがあるが、かなり難しい交渉相手だったことを覚えていた。癖のある孫のガーベも相応の要求をしてくるのは当然といっても良い。

 つまり、これも織り込み済み。


「本当に?」


 ガーベの目つきが鋭くなる。それは今までに見たことのないほど真剣であり、ディンは少し戸惑ったが、深く考えず答える。


「もちろんですよ。何か具体的な条件が?」


 ガーベは少しの間、眉間に指をあてて固まっていた。

 そして、意を決したように切り出す。


「条件は一つ。ユナ・ロマンピーチ。あなたを俺の庭園に招待したい。そして、そこであなたのための詩を朗読したい」


 最後に出てきた完全な想定外。

 ディンは口を開けたまま固まる。


 それは典型的な口説き文句の一つだった。

コミカライズ第1話公開されてるので、ぜひ。

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