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勇者ディンは2.5回殺せ  作者: ナゲク
第二章 魔術師団編
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第18話 どいつもこいつもイライラさせるぜ

 一対一のタンタンとの戦い。ディンが一撃与えれば勝ちの勝負。

 制限時間は訓練場に設置された砂時計が落ちるまでの間。

 圧倒的に自分に優位なルールだが、タンタンの表情から負けるという感情は微塵も見えない。対峙する前にディンは全員と距離をとって胸ポケットにいるシーザに声をかける。


「シーザ、タンタンについて知ってる情報を簡潔に話せ」

「見てのとおり奴は癖の強い問題児だ。魔術師団内でも嫌っている人間は多い。が、実力に疑いの余地はない。奴は任務でもほぼ怪我をせずに生還するらしい」

 

 それだけで魔術師として優れているのは理解できる。


「魔術能力は知らん。が、ほぼ動かずして毎回相手を圧倒する。ついた異名が不動のタンタン」

「不動ね」

「皮肉も込められてるらしい。が、見た目で判断するなよ。面の皮剥いだら何が出てくるかわからんしな」


 当然、タンタンも容疑者の一人だ。が、ユナの事故の詳細を聞くため今回は勝つことのみに集中する。

 

 タンタンと対峙してじっと観察する。ディンは剣、槍、弓、近接戦闘術などの一通りの戦闘技術はすべて一流の人間から学んだ。ゆえに一流を見極めるのは得意だ。

 タンタンは間違いなくどの格闘にも長けておらず、魔術のみに依存する魔術師だとディンは改めて確信した。


「よっこらしょいっと」


 両手を軽く合わせて魔術解放。タンタンの魔力が一気に増幅する。それはフローティアやユナには及ばないが、他の魔術師たちよりはずっと突出している。 


「どいつもこいつもイライラさせるぜ」


 ぼそりとつぶやく。

 

 情報を与えないゼゼ。

 魔道具にいちゃもんをつけてくる魔術師。

 完全に相手を舐めている目の前の相手。

 そして……何より、自分を殺した魔王ロキドス。


「よくも一回殺しやがったな」


 ここにきて、じりじりと湧いてくるのは殺された怒り。その怒りをぶつけるように両手を合わせる。

 魔術解放。タンタン以上の魔力のうねりを見せつけるように放出する。


「あれ……? 三年前より弱くなってない?」

 

 タンタンの言葉に反応せず、即座に構えた。

 両手に握られたのは魔銃。


「ん? いつの間に?」


 言葉を発する間にディンは容赦なく連射する。あっさり決まったかと思ったが、タンタンの前に一瞬で壁のようなものが出現した。

 魔壁。が、他の術者と何かが違う。とても柔軟な魔壁で魔弾が食い込み、あっさり弾かれた。


 全弾打ち込むも、同じように弾かれ魔弾は地面に落ちて消えた。

 魔壁と呼ばれる魔力の壁だが、タンタンのものは泥のような粘りっ気があり他よりずっと分厚い。少なくとも人を失神させる軽めの魔銃だと絶対に攻撃はとおらないだろう。


「ねぇ。その魔道具、どこから取り出したんだよ?」


 タンタンと同じ疑問を、見ている魔術師全員が感じてるようだったが、ディンはそれに答えない。





「空間系の魔道具だな。おそらく昨日つけてなかったブレスレットだ。自在に魔道具を取り出し可能なんだろう。そこから魔道具を取り出しているんだ」


 ゼゼの言葉に隣のアランが驚く。


「そんな魔道具があるんですか?」

「聞いたことはない。が、魔道具の進化は著しいし、ロマンピーチ家には強いパイプがある」 


 一般に普及されているのは三級魔道具であり、それと一線を画すのが一級魔道具だ。一級魔道具は一流魔道具師がこだわり抜いた一点ものであり、それのみで家が建つと言われるほどの値段がする。


「ローハイ教信者に一流魔道具師が多くいます。彼ら信者はロマンピーチ家を崇拝してますからね」


 ジョエルの言葉で、ゼゼはユナの兄であるディンが生粋の魔道具コレクターとして有名な男だったことを思い出した。上から目線で魔術師を見下す気持ちのいい男ではなかったが、最先端の魔道具を知るからこそ見えていたものがあったのかもしれない。


「にしてもユナが魔道具を使うとは……」


 三年前、ユナは魔道具すら持っていなかった。積極的に魔道具を使う今の姿に違和感を覚える。


「まあ、誰にでも心境の変化はあるし、使えるものは何でも使うというのは間違いではないと思います」


 ジョエルの言葉にゼゼは納得した。





 ディンは対峙するタンタンの魔術を分析していた。

 タンタンの周囲をうねるような魔壁は明らかに分厚く強力だ。


 ルーンにもらった架空収納により、魔道具を自在に取り出すことが可能となり、まだまだとっておきはある。現状を打開できるものはあるが、問題があった。


 現在訓練場にいる百人近い人間がこの戦いに注目している状況だ。ディンとしてはあまりこの場で多くの手札を見せたくない。

 

 一旦、魔銃をしまい、別の種類の魔銃を取り出す。

 ただ失神させるだけのものから、対魔獣用の殺傷能力に特化させた強力な魔銃に変更。

 タンタンに向かって一発放つ。

 弾力のある魔壁に先ほどより食い込むが、それでもあっさりと弾かれる。


「へぇ。自在に取り出せるんだ。良い物持ってるじゃん。僕にも一つちょうだいよ」


 余裕綽々。タンタンは腕を組んで危機感が全くない。

 ディンは瞬間、反発魔術で地面を蹴り、タンタンの周囲を回るように高速移動。

 九十度から百八十度から角度を変えて魔弾を連射。


 それは人間には捉えられないスピードのはずだが、タンタンは正面を見たまま、魔壁が自然と発動してるかのように、すべてをガード。

 その後も攻撃されないという前提の元、あらゆる角度から攻撃を試みるが通る気配が全くない。


「ねぇ? もう終わりでよくない?」

「これからですよ」


 いつの間にかディンは違うものを手に持っていた。

 それはどこにでもある使い捨ての煙幕。

 小さく黒い球体を投げると煙が自然と出てくる。


 それをタンタンの周囲に何個も投げつけ、あっという間に煙がタンタンを覆う。

 ディンも煙の中に包まれるが、それは間もない時間だった。

 タンタンが魔壁の形を扇に変えて煙を吹き飛ばした。


――魔力制御


 魔力を自在に変化させ戦う最も初歩的な技術だが、タンタンはそれを己の身体のように完璧に扱う。自分の魔力を一瞬で自在に変化させられるのがタンタンの強みらしい。

 

 扇に変えた直後に魔銃で連射するが、即座に魔壁が展開され、防御。

 展開速度が速すぎて、全く攻撃が通らない。これほどの防御は魔道具でも再現できないだろう。


「これが一流魔術師か……」


 みくびっていたわけじゃないが、圧倒的実力差を体感していた。他の魔術師とモノが違う。


「攻撃がちょっと単調すぎるよ」

「助言どうも……」

 

 実力差は埋まらないが、こちらにはタンタンの知らない優位性がある。


(戦ってるのはユナじゃないんだよ)


 単調に攻めることで、相手の油断をさそう。すでに仕込みは済んでいた。

 単調な攻撃を繰り返し、ディンはちょうどスタートと同じ場所に立っていた。


「はい。もう終わりかな」


 ひっくり返した砂時計の砂がすべて落ちようとしていた。

 そのタイミングでタンタンに向かい球体を投げつける。

 先ほど投げた煙幕に見た目は近いが、中身は全く違う。

 瞬間、強力な炎が目の前を覆い激しく爆ぜた。

 二級魔道具、爆炎花。一度限りだが、二階建ての家を一瞬で黒ずみにする。


「おいおい殺す気か!」


 タンタンは案の定、無傷。が、強力だったからか魔壁の形がわずかに溶けたように歪んでおり、穴ができていた。

 ディンは片手でその間を縫うように引き寄せを使う。

 

 すぐに魔壁がタンタンを包みこむ。が、ディンが引き寄せたのはタンタンではなく違うものだった。最初に投げた煙幕玉の中に一つだけ爆炎花を混ぜた。奥にあるそれが引き寄せられタンタンの足にこつんと当たる。


「あっ」


 気づいた瞬間、赤く爆ぜる。

 直撃だ。まともに当たったら生きてない。

 が、やはりタンタンは瞬間的に魔壁を後方にすべて寄せてガードしていた。

 魔壁はドロドロと溶けて、先ほどより形を成しておらず、前方はがら空き。

 

 それを確認して、即座にディンは、高速で詰め寄る。

 右手には木剣。

 後は頭に撃ち込むのみ。

 が、ディンの想像をはるかに超える速度で魔壁がタンタンを覆いこむ。


「はい。残念」

「……マジか」


 ディンとタンタンの間にぎりぎり割って入る魔壁にディンは突っ込む形となった。

 やはり攻撃が届かない……無意識に魔壁に左手が触れる。

 突如、違和感が襲う。何が起きたのかわからないが粒子が溶けるような感覚だ。


「はあ?」


 驚いた表情をしたのはタンタンだが、それはディンも同じだった。目の前にあった魔壁が消えて間を隔てるものが唐突になくなる。

 迷わずタンタンの懐に入り、剣を振り下ろす。が、ぎこちない一振りはタンタンの頭をかすめ空振り。


「あっ」 


 勢いづいたまま、頭と頭が鈍い音を立てて衝突した。


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